第48話 最強のふたり
アシガバート郊外の砂漠地帯に降り立つのは、二人。
ソフィア・ヴァレンタインとアンドレア・アンダーソン。
組織内で現代最強と過去最強に名を連ねる二人は口を開いた。
「ダヴィちゃん、退いてくれない? そいつ殺せないから」
「誰かと思えば、劣化コピーか。無駄な抵抗はやめておけ」
敵意剥き出しで、二人は目的を明らかにする。
超常現象対策局局長ダンテ・アリギエーリの殺害。
反転アンチになった原因はさておき、敵なのは明らか。
抜け殻状態のダンテを守ることが現状の最優先事項になる。
(勝てるのか……。俺はこいつらに……)
脳内で反芻されるのは、『劣化コピー』という言葉。
アンドレアの遺伝子を元に、この肉体は構成されている。
親と呼べるほど単純ではなく、常軌を逸した方法で出生した。
――呪われし子供達計画。
組織内で行われた、人体実験の賜物。
遺伝子操作。ゲノム編集。体外受精を活用。
DNAをいじくり、強制成長させ、知識を与えた。
素体となったのが、『アンドレア・アンダーソン』だ。
――優れた遺伝子からは、優れた子供が生まれる。
誰でも思いつく発想だが、誰もやらない方法で出生した。
親父というよりも、『オリジナル』と言った方がしっくりくる。
当然ながら、何度も手合わせしたが、一度たりとも勝てた記憶はない。
「わたくしのことは眼中になし? こう見えても、結構強いのですけれど」
思考の最中、涼やかな声音で語るのは、ミーナだった。
実力は未知数。口は達者だが、二人に通用するかは怪しい。
力の一端を伺うことはできたが、まだまだ不明な点は多かった。
(彼女が仮にアンドレアに匹敵する実力だとしても……)
見ず知らずの相手を戦力として数え、打算を巡らせる。
二人一組は得意分野だったが、合わせられるかは人による。
呼吸、リズム、足運び、タイミング、背中を預けられるか否か。
相当な実力者だったとしても、相性の良し悪しで雲泥の差が生じる。
――ミーナを高く見積もっても、厳しい。
客観的な情報を並べれば、分が悪いのは間違いない。
百回戦って一回勝てればいい程度の勝率しかないだろう。
ギャンブルなら、即降りがベター。命を張るならなおさらだ。
「鼻を伸ばすのは勝手だけど、まだ戦うかは決まってないから。賢いダヴィちゃんなら言ってる意味は分かるでしょ? これ以上は言わせないで」
ソフィアはミーナの発言を適当にあしらい、選択を迫る。
一から十まで説明することはなく、ある意味で信頼している。
真意は分からんが、ここで諦めれば恐らく見逃してくれるだろう。
――代償として、ダンテが殺害される。
そこさえ目をつぶれば、間違いなく無傷で終わる。
ミーナと共闘という博打に出る必要もなく、問題は片付く。
「誘われたのは貴方。わたくしと踊るかどうかは、貴方がお決めになって」
受け身のミーナは、右手を差し出し、判断を委ねた。
洒落た誘い文句だったが、行き着く先は地獄並みの修羅場。
勝率は高く見積もって1%。生前一度も勝てなかった相手への挑戦。
脳内で渦巻くのはマイナスの材料ばかりだったが、答えは決まっていた。
「生き残れる保証はない。それでも付き合ってもらうぞ、数奇者!」
「歓んで。地獄の幻境でも煉獄の魔境でも天国の秘境でも、なんなりと!」
ダヴィデはミーナの手を取り、共闘関係は成立。
実力は未知数だが、少なくとも心の方向性は合致していた。
◇◇◇
なんでだろう、胸がすごくムカムカしていた。
言う事を聞かなかったから、彼を傷つけたくないから。
色々と思い浮かぶことはあったけど、考えを巡らす余裕がない。
「赤き星の輝きよ、勝利と平和を願う神よ、我に大いなる力をもたらし給え」
ソフィアは一切の慢心なく、詠唱を果たしていた。
それに応じて赤く発光するのは、左肩に乗るニワトリ。
――聖遺物アレイオス。
光の消失と共に現れたのは、赤と青の無骨な槍。
柄の先端からは白い鎖が伸び、槍同士を縛りつける。
初めて扱う得物だったけど、武器の本質は理解していた。
ブンブンと鎖鎌の如く赤い槍を頭上で振り回し、勢いを加算。
薄っすらと緋色のセンスを武器に纏わせ、ソフィアは言い放った。
「当たれば、痛いどころじゃ済まないよ!!!」
それと同時に、空を切り裂いたのは赤い槍だった。
延長され続ける鎖と共に、ダヴィデの方へと容赦なく迫る。
「貴方の相手はわたくし、ですわ!!!」
飛翔する赤槍を横目に、ミーナは手を伸ばした。
掴んだのは伸び続ける鎖の部分。それを逆手に利用し。
「……っ!!!」
ソフィア一本釣り。武器の欠陥を突かれ、攻守は逆転する。
(なんつー反応だし、なんつー膂力。この人、ただもんじゃない……)
得物と攻防を通じて察する、相手の力量。
能力抜きの段階で化け物じみた気配がしていた。
そう考える間にも、ミーナの元へ引き寄せられていく。
「シャル、ウィ、ダンス!!!!」
威圧感のある声音と共に放たれるのは、踵落とし。
フワリと揺れるスカートと共に、側頭部へと襲い来る。
直撃すれば気絶どころか、即死すらあり得るクラスの一撃。
(敵を信用するのは嫌いなんだけど……そうも言ってられないか)
防戦に回ったことを受け入れ、ソフィアはセンスを絶った。
攻防力は激減し、蹴りを防げても致命傷になるレベルまで低下。
自殺行為とも取れる所業だったけど、理由がないわけじゃなかった。
「――刹光っ!!!!」
ソフィアが試みたのは、センスを一点に集中する技術の延長。
打撃衝突時にセンスを込めて、誤差が少ないほど威力が増すもの。
守りにも有効で位置とタイミングが合えば、通常以上の攻防力を得る。
「読めていますわよ!!!」
熟練の使い手と思わしきミーナは、踵落としを停止。
側頭部に届く寸前で止めて、空いた左足で横蹴りを放つ。
踵落としに比べれば、威力も勢いも損なうけど、狙いはいい。
刹光は一点集中型の攻防力移動。山を張った場所以外は脆くなる。
そこを上手くズラせば、ただの蹴りだったとしても致命傷になり得る。
「……っっ」
吸い込まれるように、ミーナの蹴りは脇腹にクリーンヒット。
歯を食いしばったソフィアは、明後日の方向へと蹴飛ばされていった。
「こんなものですか。案外、あっけなく――っっっ!?」
勝ち誇るミーナは、掴んでいた鎖に引かれ、意図せぬ跳躍。
蹴り飛ばされ、空中にいるソフィアの方向へ吸い込まれている。
見る見ると距離と景色は縮まり、あえて閉じていた蒼色の瞳を開く。
――そして。
「読めていますわよは読めていますわよ!!!!」
口端から血を滴らせながら、ソフィアは乾坤一擲の青い槍を突き立てた。




