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トリニティポータル  作者: 木山碧人
第八章 世界の終末

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第44話 最前線

挿絵(By みてみん)




 バイカル湖。ロシア南東部に存在する淡水湖。


 湖全体の面積は約310000k㎡あり、東京都の15倍。


 最大水深は約1700mで、淡水湖の中で世界最深を誇る。


 その歴史は古く、2500万年以上前に形成されたと言われる。


 近年では湖の表面が常に凍りつき、生態系の調査は滞っていた。


 ――そんなバイカル湖にはいくつか都市伝説がある。


・水中には竜が住んでいる。


・帝政ロシア時代の埋蔵金がある。


・ネバーランドに通じるトンネルがある。


 この手の話は、科学的根拠がないものが極めて多い。


 謎と未知が人々の想像を膨らませ、噂や都市伝説となる。


 ただ、バイカル湖の場合、明確な根拠がないわけでなかった。


 ――1980年代。音波探知機で湖底を動く巨大な物体を検知。


 ――1910年代。内戦時に輸送していた180トンの金塊が消失。


 ――1930年代。水深調査で『底無しの深み』を複数箇所発見。


 どれも史実や科学に基づくものでありながら、真相は定かではない。


 その都市伝説の最前線。神秘の宝庫とも言える場所に挑む者たちがいた。 


「「「――――」」」


 バイカル湖。水深???m。巨大生物体内。


 食道に位置する場所に降り立つのは、三名の人間。


 ――リーチェ。


 長い銀髪、白銀色の瞳、尖った耳で、背丈は低めの女性。


 幼い顔でありながら、大人びた黒のロングコートを着ている。


 元々は超常現象対策局『ブラックスワン』に属し、殲滅者エリミネーターを担当。


 組織が処理し切れないと判断した『超常現象』を殺すことに特化した。


 現在は『好意の反転』が原因で、属した組織から追われる身となっている。


 ――エミリア。

 

 金髪碧眼で後ろ髪を結い、団子ヘアにしている女性。


 青の客室乗務員服に身を通し、ユナイテッド航空に属する。


 移動系の意思能力『地の案内人(ローカルガイド)』を有し、リーチェたちを誘った。


 イギリス王室の血統ながら、王位継承権を持たない、落とし子でもある。


 ――ベクター。


 短めの赤髪に、精悍な顔をつきをした成人男性。


 白のスーツに身を包んでおり、白教を信仰している。


 イギリス王室の正当な血統であり、第三王子に該当する。


 王位継承戦では王に届かなかったが、熾烈な戦いを生き抜く。


 大日本帝国の『武道』に憧れを抱いて、武芸百般の神髄を目指す。

 

「えー、こちらにございますは……」


 移動を担ったエミリアは、見識のない場所の案内を開始する。


 現在、トルクメニスタンのガイド中で、能力の維持に必要な工程。


 現地からは遠く離れているものの、多少の寄り道ができる性能となる。


 見識がない場所でどこまで通用するのか、本人も預かり知らぬ領域だった。


「無理しない方がいいんじゃない。ボロが出たら恐らく強制帰還よ」


 リーチェは冷静な顔つきで、能力の破綻を危惧していた。


 巨大生物の体内にいることに対しては、まるで動じていない。


「ですが……」


 一方で、エミリアの顔色は曇っており、不安な内面を露わにしている。


「待て……。誰か来るぞ……」


 そこに口を挟み、正面に目を向けたのはベクター。


 食道のさらに奥側。胃に直結するルートを警戒している。


 開けたトンネル状になっており、辺りに隠れられる場所はない。


「対話を優先して、無理なら接敵する。極力、手出しはしないで」


 リーチェは端的に指示を送り、臆することなく待つ。


 ほどなくして現れたのは、白の軍服を着ている四名だった。


 先頭に立つ髭面の男が真っ先に気付き、部下に静止の合図を送る。


「侵入者とお見受けするが、ここには何しに参った」


 そして、堂々とした物腰で目的を尋ねる。


 セルゲイ大尉。帝政ロシア時代の白軍に所属。


 調査や防衛が専門の『コサック部隊』を指揮する。


 部下三名を引き連れ、赤軍の最後の残党を追っていた。


 髪は黒のオールバックで、長い口髭と右頬の十字傷が特徴。


 体躯は大きく、筋肉は発達し、野生の熊のような印象があった。


「……ジーナ・ロマノフを捜してる。心当たりはない?」


 リーチェは無駄なやり取りを省き、本題を切り出す。


 真剣な表情を作りながらも、口端はほんの少し緩んでいた。

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