表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トリニティポータル  作者: 木山碧人
第八章 世界の終末
43/215

第43話 手掛かり

挿絵(By みてみん)





 トルクメニスタン。アシガバート。和食レストラン内。


 赤い月光に照らされる、見通しのいいテーブル席があった。


 壁は破壊され、吹き抜けとなっており、意図しない景観を生む。


 背もたれ付きのソファに腰かけるのは、金髪坊主姿の悪魔クオリア。


 白スーツに身を包み、偉そうに足を組むが、神妙な面持ちを作っている。


 それと対面する形で、木製の椅子に腰かけるのはリーチェとエミリアだった。


「……つまり、故郷を滅ぼした犯人に復讐したいが、手掛かりがないわけか」


 目を細めるクオリアは、出揃う情報を短くまとめる。


 話した内容は、1000年前の12月25日に起きた事件の顛末。


 『白き神』の外見そとみ、白銀の鎧を纏った存在が故郷を滅ぼした話。


 出来ることなら、誰にも語りたくはないセンシティブな話題だった。


 仮にもこの手で一度殺した相手に明かしたのは、当然ながら理由がある。

 

 ――『三界の門(トリニティポータル)』の管理と掌握。


・クオリアは、異世界人による犯罪への取り締まり。


・こちらは、犯人の捜索範囲を三界まで広げるため。

 

 互いの目的が合致したからこそ、打ち明けた。

 

 関係を強固にするためにも、過去の開示は必要だった。


「ええ、そうよ。悪魔をけしかけて、世界に危機が訪れれば現れると踏んだけど、そっちの事情を聞く限りは無理そうね。トルクメニスタンに居を構えるだけで、すぐに戦争が起きるとは思えない。……何か妙案があるなら、聞きたいものね」


 リーチェは、見通しのない現実に直面し、相談を持ち掛ける。


 二人でがむしゃらに捜し続ける展開には、そろそろ限界があった。


 悪魔を頼るのは不服だけど、面白い切り口に期待できるかもしれない。


「…………可能、かもしれないね。いくつか条件が揃えば」


 少しの沈黙を挟み、クオリアは快い反応を見せた。


 先の見えない暗い道に、一筋の光明が差したような展開。


 諸手を挙げて喜びたいところだけど、この手の話には裏がある。


「詳しく聞かせて頂戴。私にできることなら、なんでもするわ」


 とはいえ、聞く前から諦めるなんて馬鹿な真似はしない。


 少なくとも、無策の状態で世界を放浪するよりかはマシだった。


「必要な手順は三つ。証拠品の回収。能力者の確保。犯人の捜索だね」


 クオリアは指を三本ほど立てて、具体的なプランを示した。


 詳細を聞いていない段階だけど、順当な計画のように思える。


 複雑な山頂までの道のりに、チェックポイントが作られた感覚。


 道が整い、復讐相手との対面が、一気に現実味を帯びた気がした。


「最初と最後は分かるけど……鍵を握るのは能力者ね。相手は、どこのどいつ?」


 ただ、全面的に信頼するには、まだ早い。


 問題となりそうなものを、真っ先に指摘する。


 その内容次第では、達成難易度がガラリと変わる。


 能力者と能力の詳細が、計画の要だと断言してもいい。


 真偽はともかく、乗るかどうかを左右する判断材料だった。


「居場所はバイカル湖。『煉獄の門』を管理する魔獣の体内にいる」


 クオリアが先に明かしたのは、『どこ』。

 

 『どいつ』を後回しにして、興味を引きつける。


「……続けて」


 耳がピクリと動くの感じながら、リーチェは前のめりで言った。


 なぜ知っているのか、どういう関係性なのか、魔獣とはなんなのか。


 疑問は全て後回し。最優先で知りたかったのは、小手先のものじゃない。


 ――『どいつ』。


 これまでに関わりがある人か。どんな能力を持つか。


 知りたいのは、その二つ。そこに興味関心が集約される。


「ジーナ・ロマノフ。証拠品から犯人を割り出す意思能力を持つ」


 心情を汲み取るように、クオリアは最低限の情報で最大効率を引き出す。


 機能性だけを追求し、意味のない装飾を省く言葉の組み立てにゾクゾクした。


「…………次の行き先は決まったようね」


 武者震いを抑えながら、リーチェは冷静に告げる。


 感情を見せるのは、もっと先。能力者の確保が最優先。


 証拠品に関して言えば、探すまでもなく心当たりがあった。


「だったら、僕はここまでだ。今は動けない事情があってね。後で合流しよう」


 クオリアは会話を切り上げ、羽根を使って宙に浮かぶ。


 現在、悪魔は複雑な状況にある。無理強いはできなかった。


 明かされた情報だけでも有力で、着実なロードマップが出来た。


 ――ただ。


「待って。身体的な特徴は?」


「性別は男。身なりは軍服。見た目は十代後半で短い金髪だね」


 生じた疑問に対し、クオリアは的確に回答する。


 遠くにいるはずなのに、確信するような態度を見せる。


 まだまだ考えることは尽きないけど、これだけ聞ければ十分。


「……了解。あなたとの合流は、能力者を回収してからでいい?」


「ああ。戻ってきたら、空にセンスを飛ばしてくれ。すぐに駆けつけるよ」


 合流の合図を決め、必要な会話は全て終了した。


 クオリアは羽根で上昇を続け、店を後にしようとする。


「……そうだ。姉さんに『もしも』のことがあれば、関係は解消するからね」


 去り際にそんな言葉を残し、夜風と共に消えていく。


 性愛か、家族愛か、能力愛か。どれに該当するかは不明。


 解決すべき問題の一つだけど、今、考えるべき事柄じゃない。


「頼ってばかりで悪いわね。……移動をお願いできる?」


 自身の目的を優先し、リーチェはエミリアを頼る。


「承りました。次の目的地は――」


 彼女はこくりと頷いて、協力する姿勢を見せていた。


 今まで口を閉ざしていたのは、何らかの縛りでしょうね。


 恐らく、『クオリアに関連する情報の秘匿』。これが最も妥当。


 能力者捜しと並行し、道中で解決策を考えてもいいかもしれない。


「待ってくれ……」


 そう考えていると、壊れた壁から見覚えのある男が入ってくる。


 短い赤髪で、白のスーツを着た、精悍な顔つきをしている成人男性。


 装備品をいくつか紛失した状態で、第三王子ベクターは目的を明かした。


「行くなら俺も混ぜてくれ……。乗りかかった船だからな……」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ