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トリニティポータル  作者: 木山碧人
第八章 世界の終末

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第30話 進むべき道

挿絵(By みてみん)




 トルクメニスタン。首都アシガバートの東側。


 深夜の和食レストランではジャズの音色が流れる。


 そこで両手を繋ぎ、ワルツを踊っているのは男女二人。


 社交ダンスの代表的な種目で、ゆったりした三拍子が特徴。


 品行を磨いて、親交を深めるための紳士淑女の営みでもあった。


 品のない言葉や、みだらな行為とは対極に位置する文化とも言える。

 

「不純異性交遊。わたしくと子作りしていただけませんか? 第三王子」


 その神聖な場でミーナが行ったのは、身の毛もよだつバッドマナー。


 言葉遣いこそ丁寧だったものの、公共の場で口にしていい言葉じゃない。


「断る……。俺には心に決めた人がいる……」


 両手を拘束され、ワルツを踊らされるベクターは正式に否定する。


 体のいい断り文句というやつだった。実際の相手がいるわけじゃない。


 『心に決めた人がいた』と言った方が正しい。現在形ではなく過去形だった。


「嫉妬、してしまいますわね。殺せば、振り向いてもらえるのかしら?」


 ミーナはエミリアの蹴撃をいなし、アピールを続ける。


 反応から考えるに、目的のためなら手段は選ばないタイプ。


 意中の相手がいれば頭を悩ませるところだが、死人は殺せない。


 生きていれば明らかな地雷だったが、冷静に聞き流すことができた。


(厄介だな……。どうすれば、振り切れる……)


 ベクターは心を落ち着かせ、客観的に状況を分析する。


 意思能力が使われているのか、両手はピクリとも動かない。


 ワルツで体幹とペースを崩され、まともに攻撃も当てられない。


 イギリス王室の血を引いた二人でも手に余る、圧倒的な格上だった。


 心が昂ぶらないと言えば噓になるが、いまいち乗り気にはなれなかった。

 

 ――不調の原因は恐らく、一対一じゃないこと。


 タイマンこそが至高であり、目指すべき理想の闘い。


 武道の礼儀作法に則って、白黒がハッキリとつけられる。


 その土俵の上であるのなら、格上であればあるほど望ましい。


 勝ち負けを通じて、心身を鍛え、自らを成長させることができる。


 ――ただ、二対一ならどうか。


 仮に共闘で勝ったとして、成長したと言えるのか。

 

 真の武道家を志す身として、誇ることができる闘いなのか。


 ――答えは、否。


 集団でリンチすることを闘いとは呼ばない。


 武道から逸脱した行為であり、外道とも言える所業。


 敵の強弱や事情に関係なく、闘い方は選ばなければならない。


 ――すなわち。


「俺とタイマンしろ……。そうすれば、振り向くかもしれんぞ……」


 ベクターは足を止め、リズムを乱し、自分のペースに持ち込む。


 反応はどうあれ、武道家の道を歩むには、必要不可欠な工程だった。


 ◇◇◇

 

 独創世界『海宴廻鮨』。荒れた海の上には中型の漁船。


 『唸るほど旨い鮨を作る』。それが世界から解放される条件。


 鮨の素人が玄人になる過程をプロが指導するという、親切設計。


 ただ、達成までにかかる時間は不明。数時間か、数日か、数十年か。


 ――だから、面倒なことになった。


 放り投げられた、まな板とカレイと共に迫るのは、包丁。


 それらをザクリと貫通させ、勢い余って、店員の方に刃が迫る。


 本来、『海宴廻鮨』の暴力は無効。だけどそれには、例外が存在する。


「させない。この人だけは、なんとしても殺させないから」

 

 カキンと音を立て、リーチェは包丁の腹で、刃を止める。


 鮨の工程の延長なら、店員を殺害できて、独創世界は解ける。


 でもそれは、あまりに非道な行為。人としての道義に反している。

 

 元殺し屋だから、説教できる立場じゃないけど、止めることはできた。


「甘ぇなぁ。赤ん坊が舐める飴玉みてぇに甘ったりぃんだよ、お前の考えは」


 ラウラは怒りを露わにして、包丁を握る腕を震わせる。


 言葉を少しでも間違えれば、マジギレ必須の状況と言えた。


 ――でもこれは、演技。


 ラウラ本人じゃないと、今ので確定した。


 性根が優しいあの子には、到底選べない行動。


 だから、考える。止めるための最適解を模索する。


 暴力に暴力で応えるのは、最悪。相手の思う壺だった。


 どうすれば聞く耳を持つか。何を言えば、大人しくなるか。


 危うい均衡が保たれる中、ふと頭に浮かんできた仮説があった。


「ええ、そうかもしれないわね。……だけど、あなたは詰めが甘い」


 丁寧な前置きを挟み、リーチェは真実への核心に迫る。


「あ? 皮肉のつもりか? 適当な言葉で誤魔化されるほど、アタシは――」


 詰め寄られるラウラは、ようやくボロを出す。


 本来の一人称は僕。今の彼女が口にしたのはアタシ。


 そこを起点に考える。ラウラを操ると誰が一番得するのか。


 立場、状況、地理、因縁。それらを考慮すれば、答えは絞られる。


()教皇代理イザベラ・レナトス。どうやら、『魂の転写』で生き延びたようね」


 過程の説明を全て省いて、リーチェは結論を口にする。


 まな板の隙間から見える表情は、動揺を隠せていなかった。

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