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トリニティポータル  作者: 木山碧人
第八章 世界の終末

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第251話 天災

挿絵(By みてみん)





 真似る剣技はコピーのコピー。


 あーしの個人的な思想は入れ込まない。

 

 想像するのは一歩先。小十郎ならどうするのか。


 『犀落とし』に『秘剣・虎切り』ときて、次に何がくるか。


 連想ゲームと言うのは簡単だけど、そこに込めるのは、特別な感情。

 

「――――秘奥剣・龍流し」


 大太刀の刃に乗せたのは、殺意と愛。


 精神的に相反する二つの概念を混ぜ合わせる。


 正しいか間違いかじゃなく、それが一番しっくりきた。


 真似るコンテンツが好きであること。それが唯一の条件だった。


「…………くっっっ」


 でも、心と体と技が一致しない。


 振るう大太刀が言う事を利いてくれない。


 殺意の伝染の影響か、扱える技量に達してないか。


 なんにしても、剣技は暴走する。制御を失い、自我を持つ。


『――――――――』


 桃色の龍を模すセンスは、上空ではなく、地下を目指した。


 言葉を生じず、意図も分からないまま、見ていることしかできない。


「ちょ、ちょちょ、一体どこに……」


 埋まっていた地中を掘り進み、龍に引かれ、落下する。


 リールに繋がれた犬に引っ張れるように、勢いに抗えない。


 無秩序に土を削りに削り、到達したのは大空洞と見知らぬ宮殿。


「ここって……」


 訳も分からないまま、幻想的な光景に目を奪われる。


 品性はドブに捨てたままだけど、情緒は残ってるみたいだった。


『――――――――』


 すると、龍はグンと速度を増し、宮殿に巻き付いた。


 誰よりも先に動き、その行動によって意図が明らかになる。


「あー、そういうこと。完全に理解した」


 糸を引いた釣竿に獲物がかかったように、大太刀が反応する。


 両腕にドッシリとした重みがのしかかり、やりたいことが見える。


 あの龍は、あーしの本能。理屈よりも早く感情が先行した結果の行動。


 覚えのない宮殿を発見できた理由は不明だけど、アレを掴んだ理由は明白。


「宮殿一本釣り!! 海老で鯛を釣るってやつだ!!!」


 ◇◇◇


 一直線に迫ってくるのは、大規模な宮殿。


 回避するには範囲が広く、受けるには重すぎる。


(奇想天外な一撃。型にハマらない方のようですね)


 上空に浮遊するわたくしは、冷静に状況を受け止める。


 予期せぬ奇襲に心を躍らせながら、対処法を脳内で巡らせる。


「次にご案内するのは、『皇居前広場』でございます」


 選んだのは、最短距離の観光名所ワープ。


 同行者を二名ほど巻き込んだ、緊急移動だった。


 ◇◇◇


 エミリアの攻防を見守る中、それは不意に訪れた。


 彼女の移動系意思能力により、予期せぬ実現を果たした。


「「……」」


 皇居前広場で揃ったのは、同じ顔をした二人。


 何も覚えてはいないけど、置かれた状況は理解できる。


 白教の元教皇エリーゼの指摘が正しいとすれば、正体は明らか。


「あなたが門の番人。『三人のリーチェ』の一人ね」


 情報が慌ただしく動く中、私は前だけを見ていた。


 唐突に訪れた環境に合わせ、向き合うべき相手を定めた。


 直感が正しければ、彼女がいればこの騒動は早期に決着がつく。


「……流れには逆らえませんか。その時がきたようですね」


 観念したように、ピンク色の着物を着た女性は反応する。


 似ても似つかない口調ながら、その声色と思想は完全に同じ。


 やりたいことは一致し、私以上に腹をくくっているように見えた。


「解決法があるなら教えてくれる?」


「言うよりも体感した方が早いでしょうね」


 彼女は思わせぶりな態度を取り、青鎧を纏うエミリアに耳打ち。


 こくりと鎧兜を頷かせると、一切迷うことなく次の目的地を告げた。


「同行者を一名追加し、次にご案内するのは、『絶零城』でございます」


 ◇◇◇

 

 氷に閉ざされる城の中には、玉座に座る長い銀髪の少女がいた。


 露出が多い白のローブに身を包み、氷柱に映る映像を凝視している。


「……これもまた運命か。もう少し、楽しみたかったんだけどなぁ」


 先に起こるべき事態を予想する彼女は、ぽつりと告げる。


 その声は誰にも届くことなく、起こるべき流れには逆らえない。


「「「「……」」」」


 現れたのは四名。リーチェ、エミリア、ベクター、帝。


 条件は整った。期せずして世界を歪ませた三人が集結した。


 彼女たちの目的は一切の謎に包まれたまま、ある現象が起きた。


「――――――」


 光に包まれた『三人のリーチェ』は、一人の存在になる。


 身体は強制的に成長し、黒のローブと黒杖を携え、顕現する。


 由来も名称も不明。何もかもが分からないまま、青鎧は口にした。


「大人、リーチェ……」


 端的な情報を基にした、至極真っ当な呼称。


 絶対的な自信を黄金色の瞳に宿し、当の本人は言った。


「終わらせましょう。身の回りで起きてる、全ての騒動を……」


 ◇◇◇


 次に移動したのは、『永遠の国(ネバーランド)』、覚醒都市上空。


 そこで対敵するのは、広島、シェン、蓮麗の三人だった。


 国家規模の軍隊が必要な実力者の衝突。そこに介入するのは一人。


「お眠りなさい」


 黒杖を振りかざし、単純明快な呪文を唱える。


「「「……………っ!!!?」」」


 それは、予期することも、防ぐことも、避けることも不可能。


 天災に等しい実力を以てして、騒動の中心にいた三人は昏睡する。


「……」


 次に大人リーチェが目を向けたのは、天井に張り付く少年。


 黄金結晶により磔にされたジェノを、黒杖を振り払い、救い出す。


 フワフワと助けた存在を空中に浮かべ、次なる方針を彼女は打ち出した。


「一名加えて、帝国に行って」


 ◇◇◇

 

 国会議事堂は淀んだ空気に満ちる中、桃子は空を見る。


 回避された宮殿が重力に引かれて落ちる中、現れたのは四名。


 その中でも、飛び抜けた銀光を放つ大人リーチェを見て、言い放つ。


「うわぁ……アレは反則でしょぉ……」


 正体を知ることはないものの、おおよその実力を察する。


 自分の解像度が高いからこそ、それを物差しにして推し量る。


 『反則』という評価にふさわしい行動を、大人リーチェは開始する。


「チャンバラごっこといきましょうか。私の得物はコレね」


 黒杖を掲げ、落ちゆく天道宮殿を浮遊させ、振るう。


 バットをスイングするようにして、地上にいる桃子を襲った。


「んな……っ!! 無茶苦茶なっ!!!」


 桃子は大太刀を振るい、甲高い剣戟音を奏でるものの、押される。


 地面の耐久が足りず、見る見ると宮殿を振るう度に抉り取られていく。

 

 千代田区を地盤沈下させない程度に殴りつけ、たどり着いたのは、大空洞。


「灰は灰に、塵は塵に、土は土に、あるべきものは、あるべき場所に」


 宮殿を横薙ぎに振るい、会心の一撃を華麗に決める。


 銀結晶を伴う打撃を発生させ、桃子は大空洞の壁際で衝突。


 疑似的な磔状態となり、足元から桃子の身動きが封じられていく。


「こんな、ところで……。あーしの野望は……っ!!!」


 桃子は最後の悪あがきをしようとするも、凍結。


 銀結晶に全身を覆われ、滅葬具『迦楼羅』と共に封印。


 宮殿を元の場所に戻し、黒杖を振るい、修繕を施し、告げる。


「これで一丁上がり。次は国会議事堂頂上ね」


 ◇◇◇


 ドクンと音を鳴らすのは、巨大蝗が遺した卵。


 人の恐怖を糧とし、条件が整う瞬間を待っている。


 そこに現れたのは、大人リーチェを含めた四名だった。


「燃え上がれ」


 【火】の概念が消失した世界で彼女が放つのは、火の呪文。


 黒杖を振りかざし、物理的に起こるはずのない現象を心から願う。


『――――――』


 彼女の願いに応じ、巨大な卵は燃え上がる。


 物理法則に反して銀炎を生じ、災厄を灰燼に帰す。


 大人リーチェは新たな目的地に視線を向け、淡々と語る。


「次は……能力を頼るまでもなさそうね」


 ◇◇◇


 浮遊した大人リーチェが移動した先は、国会議事堂門前。


 唖然とした様子をする各陣営の顔を見渡し、威風堂々と告げる。


「ごきげんよう。私に届き得る方々。油を売ってないで相手してもらえる?」


 彼女が意図的に視線を飛ばしたのは、三名。


 顔ぶれは、神の上澄みに位置する『大神級』の人たち。


「「「……………」」」


 夜助、卓郎、椿の顔色は変わり、センスを纏う。


 彼女の身の回り起きる騒動は、大詰めを迎えていた。

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