表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トリニティポータル  作者: 木山碧人
第八章 世界の終末

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/269

第24話 表と裏

挿絵(By みてみん)




 セルゲイ率いる部隊が、気管を通過する5分前。


 樹々のように生い茂る体毛にアザミたちは隠れていた。


 範囲は広く、ジーナに気付かれず、広島とジェノも身を潜めた。


 ――問題はここから。


「さてさて、もうすぐ憲兵がやってくるだろう。やることは分かるね?」


 拘束された立場で主導権を握るベズドナは、指示を飛ばす。


 詳細な説明はなく、こちらの頭と腕を試すような発言をしている。


「追い剥ぎが常套手段ね。白軍の衣を纏えば、怪しまれない」


「戦時の憲兵と想定すれば、現れるのは最低でも4名。数は足りるな」


 バグジーとボルドは、前提となりそうな条件を言い合う。


 何も間違ってないし、恐らく、ベズドナの思い描いた通りの回答。


 ――だけど。


「何か言いたいことがありそうだね。君はどう考えるんだい?」


 表情の機微を察したのか、ベズドナはこちらに視線を向ける。


 答えをすでに把握しているのに、あえて聞いてきたような反応。


 掌の上で踊らされてる感があるけど、黙ってるわけにはいかない。


「け、憲兵は絶対に殺さないこと。それが前提条件です」


 アザミは真っ先に頭に浮かんだことを口にする。


 恐らくだけど、武闘派の二人は理由に気付いていない。


「……なぜ?」


 目を細めたベズドナは、声音を低くして尋ねる。


 今までの気の抜けた態度と違い、至って真剣に見えた。


 たぶん、品定め。駒として、どこまで動けるかを試している。


「け、結論から言えば、ジーナさんが反転アンチになるかと」


「言い得て妙な言葉を使うね。もう少し詳しく聞かせてもらえるかな?」


「せ、赤軍のベズドナさんと白軍のジーナさんは、敵対する組織の人間。い、今の関係は危うく、脆い。薄い氷の上を歩いているようなもの。踏む場所を間違えれば、壊れる。そのラインが白軍の人間が殺害された場合と判断しました」


 アザミは与えられた情報だけで、想像を膨らませ、説明する。


 両者の目的は分からないけど、ジーナが指示に従ってるのは事実。

 

 その主な原因は、ベズドナを突き出せば、出世してしまうからだった。


 ――逆説的に、ジーナは『出世したくない』理由がある。


 そのおかげで今の関係が成り立ってるけど、たぶん拘束力は弱い。

 

 少しでも亀裂が入れば、ジーナが白軍に傾く展開は容易に想像がついた。


「なるほど。そう口にした以上は、不殺を貫くんだね。少なくとも君は」


 するとベズドナは、嫌味ったらしい口調で責任を押し付ける。


 その言葉の意味を理解できないほど、駆け引きに疎いつもりはない。


(やられた……)


 気付いた頃には遅かった。一連の会話は言質を取るのが目的。


 悪辣とも言える、張り巡らされた罠にまんまとかかってしまった。


 答え合わせをするつもりはなくて、行動を強制させるためのやり取り。


 自らは責任を負わず、労力も割かず、他人を操ることに快楽を覚える人種。


 腐敗した政治家と同じ手法であり、数ある人間の中で最も嫌いなタイプだった。


(このままじゃ駄目だ……。あの人に飼い殺される……)


 敗北感に打ちひしがれ、己の無力さを痛感する。


 地理的に不利とは言っても、ベズドナが上なのは明白。


 何も変わらなければ、駒として使い潰されるのがオチだった。


 ――だからこそ。

 

(頭脳で勝ってみせる。この道中で……なんとしてでも……っ!)


 旅での目標が明確になり、アザミは野心を胸に抱く。


 今後のことを考えても、キャリアアップの良い機会だった。


「おや? 聞こえてなかったのかな? 確認したつもりだったんだけど」


 沈黙を見かねたのか、ベズドナは首を傾げて尋ねてくる。

 

 上手く頭を捻らせば、ここからでも修正できるかもしれない。


 でも、それだとベズドナと同じ。卑怯な手口が染みついてしまう。


 それも望んでない。自分らしいやり方で、彼に勝たないと意味がない。


「や、やります。自分で言った以上は、公約として掲げさせてもらいます」


 アザミは拳をギュッと握り、思いの丈の一部を言語化する。


 まずは目の前の問題を正攻法で片付ける。話はそれからだった。


「……いいね。ちょうど憲兵のご到着のようだ。お手並み拝見といこうか」


 会話を重ねていると、体毛の奥の気管側には5名の憲兵の姿が見えた。


 白い軍服はジーナと同じだけど、ヘルメットを被り、左腕には腕章がある。


 アザミは腰にある刀を抜き放ち、赤黒い刀身を露わにして、去り際に言い放つ。


「任せてください。ここは一人で切り抜けます」


 ◇◇◇

 

 数分後。気絶した憲兵は、気管の体毛で縛り上げられていた。


 内訳は、男性4名で女性1名。全員が下着姿で、追い剥ぎ済みだった。


 体毛の物陰で着替えは完了し、余っている衣服はひっそりと隠されている。


「……服が必要なのは三人だろ? 全員脱がす必要があったか?」


 一通りの作業が終わると、ジーナは疑問を口にした。


 彼目線だと、外部の侵入者はバグジー、ボルド、アザミの3名。


 ジーナは着替える必要はなく、ベズドナは赤軍の捕虜という役割があった。


 ――2名の追い剥ぎは余分のように見える。


 ただ、本音を言えば、ジェノと広島の分を用意しただけ。


 でも、馬鹿正直に言えないし、言い訳を考える必要があった。


「わ、わたしには、サイズが合わなかったので、仕方なくです……」


 アザミは機転を利かせ、豊満な女性憲兵に目を向けながら、嘘をつく。


 とはいえ、半分は事実。気絶した彼女と比べれば、貧相な身体をしている。


 広島にはちょうど良さそうなサイズだったけど、正直複雑な気持ちではあった。

 

「まぁ、そういうことにしといてやる。俺にも都合がいいしな」


 するとジーナは、余った1名のヘルメットと腕章を装備。


 白軍の兵士としてじゃなく、憲兵になりすまそうとしていた。


 恐らく、ベズドナを引き渡すという手柄で、出世したくないからだ。


 それに、ヘルメットを深く被れば、身内とすれ違っても、誤魔化せるはず。


「準備は万端のようだね。早速だけど、居住区を目指そうか」


 見計らったように、ベズドナは体毛から出ようとする。


 着替え終わった他の四人は、見通しのいい気管側に立っていた。


「……待て。誰か来る」


 しかし、ジーナは静止させるハンドジェスチャーを見せ、奥を警戒する。


「「「…………」」」


 三人は遅れて気配に気付き、表情を引き締め、視線を落とした。


 バグジーはメイクを落とし、ボルドは辮髪をヘルメット内に入れた。


 それでも完全とは言い切れず、会話が発生すれば、たぶん終わりだった。


「セルゲイ大尉に、ターニャ中尉に、オレグ少尉。おまけにアレクセイ……」


 すると、一人だけ顔を上げているジーナは目を見張っていた。


 大半は初対面だったけど、長い銀髪をした青年には見覚えがあった。


(駐在地にジーナさんと一緒にいた人だ。声をかけられれば、最悪……)


 悪い妄想が膨らみ、嫌な汗が滲み出てくる。


 身内なのは確実で、裏切られれば、戦闘に発展する。


 足運びから見ても、相当の手練れで、出来れば戦いたくない。


「…………」


 しかし、ジーナはすぐに視線を落とし、沈黙を貫いた。


 声をかけることも、声がかけられることもなく部隊とすれ違う。


 薄氷。目に見えないほどの薄い壁があったおかげで助かったような展開。


「今のが吉と出るのか、凶と出るのか。楽しみだね、ジーナ」


 勝手知ったる仲なのか、ベズドナは安全圏で煽るように語る。


 それ以降、ジーナが口を開くことはなく、黙々と気管内を歩き続けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ