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トリニティポータル  作者: 木山碧人
第八章 世界の終末
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第227話 ターニングポイント

挿絵(By みてみん)





 全身の魔獣化。状態3を維持し、現れたのは犬型の魔獣。


 その野生めいた見た目よりも、気になったのは独特な口調。


 『~っす』という語尾を好んで使い、浮かんだのは一人の女性。


「「メリッサ……!?」」


 ジェノとリーチェが同時に言い放つのは同じ名前。


 人違いの可能性も念頭に置きつつも、反射的に口が滑った。


「早速、身バレしちゃったみたいっすね。じゃあ、面倒な紹介と前置きは省くとして、うちから何を聞きたいんすか?」


 開き直ったように犬型の魔獣メリッサは、反応する。


 嘘をつくような気配はないものの、全く意味が分からない。


「えっと、聞きたいことは山ほどあるんだけど……まず、どういう状況?」


 大前提として、彼女の状況把握は必須だった。


 最優先ってわけじゃないけど、その次ぐらいに大事だ。


 契約の件も重要だけど、相手がメリッサなら話が変わってくる。


「それに関しては、ちょいとややこしいんすけど……さっきの話を聞いた限り、避けては通れなさそうっすね。盛り抜き、嘘なしで語らせてもらうっすけど、心の準備はいいっすか?」


「ええ」


「もちろん」


 メリッサの問いかけに対し、リーチェとジェノは相槌を打つ。


 彼女の人柄を考えれば、まず間違いなく真摯に答えてくれるだろう。


「ターニングポイントは冥戯黙示録。参加したジェノさんなら分かると思うっすけど、うちはバトルフラッグのルールにより殺されたっす。その影響で人間界からおさらばして、悪魔界に直行。そこで魔神蓮妃と面会し、人間界に戻るために賭けを申し出たっす。結果として、うちは敗北し、悪魔として悪魔界に残留。そこである条件を満たし、魔獣となって煉獄界に行き、覚醒都市民に倒され、食糧に。それを食べたソーニャが細胞と適合し、今に至るってわけっす」


 メリッサの口から語られたのは、壮絶な人生のダイジェスト。


 これでも省きに省いたんだろうけど、あまりの内容に頭がついてこない。


「……じゃあ、人間のメリッサには、もう二度と会えないってこと?」


 目の前がジワリと滲み、思ったことを端的に問いかける。


「それがそうでもなくて、ちょいとややこしいポイントなんすよね」


 メリッサは平然とした様子で、人差し指と親指をつまみつつ、語る。


 希望はある。と言うには時期尚早かもしれないけど、期待できそうだった。


「もう少し詳しく!」


「結論から言うと、うちが分裂したっす」


 しかし、返ってきたのは突拍子もない答え。


 それで理解しろというには、あまりにも無理がある。


「は? どういうこと?」


「へぇ……そういうこと……」


 疑問符を浮かべるジェノとは対照的に、リーチェは何かを察する。


 知識量や人生経験の差なのかな。なんにせよ、今のだけじゃ分からない。


「もう少し丁寧に、分かりやすく!!」


「人間界では選択肢による分岐はしないって話だったっすけど、悪魔界を含む三界では別っす。人間界でうちが死んだのは揺るぎない結果でも、悪魔界で起きた結果は簡単に揺らぐ。仮に魔神との賭けに勝った方をA、賭けに負けた方をBと呼称するっすね。Aは勝利報酬を受け取り人間界へ、Bは敗北結果を受け入れ煉獄界へ。という分岐があったとするっす。どちらの結果も人間界の干渉を受けないんで、両方存在してるみたいなんすよね。Bのうちは、こうして魔獣の姿でお会いしたことになるっすけど、Aのもう一人のうちは、人間の姿でジェノさんにお会いできる可能性は十分残ってるっす。ただそれなら、三界で起きた選択肢の数だけ分裂するんじゃ? っていう疑問が出てくるんすけど、そこは要検証。今のところ把握できてる個体の数が少ないんで、詳細は不明なんすよね。『世界をまたぐ分岐の場合、分裂する』。ってのが一番有力な説なんすけど、確定ではないっす」


 メリッサが語ったのは、さっきの話の延長線上にあるもの。


 世界改変が適用されるのは人間界だけ、という仮説の裏付けだった。


「うわ……。大体分かったけど、鳥肌立ってきた」


 ある意味では、そこらの有名な怪談話を聞くよりも怖い。


 ホラーなら空想と割り切れるけど、そうじゃないのがタチが悪い。


 話を聞く限り、99%正しい。フィクションじゃなく、ノンフィクションだ。


「ひとまず事実としましょう。それより、本題に入ってもらえる?」


 リーチェは動揺を見せることなく、淡々と話を進める。


 彼女の立場や関係値を考えれば、今のは余談になるだろう。


 冷たいように思えるけど、流されても仕方がないかもしれない。


「うちが介入することで蘇生可能にする、ジェノ案の件っすよね。反転の魔眼のリスクは今ので間接的に伝わったと思うんすけど、逆に何が懸念点なんすか?」


「単純よ。ジェノとジーノの魂を死後回収して、どうしたいの?」


 割って入る隙間は無く、二人は案の本質に踏み込んだ。


 死んだ三名を蘇生できる前提として、リスクを探っている。


「好きな人を独り占めしたい、それだけっすよ。うちってこう見えても、嫉妬深いもんで。……あぁ、それと、追加で一人蘇らせたいなら、死後の魂を一名追加してもらうっす。確か、『ヘケヘケ』という魔物だったっすよね。三人目は」


 そこでようやく見えてきたのは、メリッサが抱える欲望。


 ジェノにまつわるものを、全てコンプリートしておきたいらしい。


「…………」


 正直、面と向かって聞かせるこっちの身にもなって欲しい。


 耳が赤くなり、幼馴染に告白されたようなムズ痒い気分になる。


「雑に扱わないと約束してもらえる?」


「花を愛でるように、半永久的にお世話するっすよ」


 二人の間でとり行われるのは、最終確認だった。


 こちらとしては反論する余地はなく、すでに同意している。


 後はリーチェがジェノ案を選ぶかどうか。それだけにかかっていた。


「いいわ。あなたを信用する。……やってちょうだい」


「そうくると思ってたっすよ。……後悔はさせないっす」


 そこで行われたのは、双方の同意。


 事態は次のフェイズに移行していった。

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