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トリニティポータル  作者: 木山碧人
第八章 世界の終末
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第218話 城門前

挿絵(By みてみん)





 城門前に突如として現れたのは、黒スーツを着た角刈りの男。


 四角い顔が特徴的で、一度見たら忘れられない見た目をしている。


(こいつ……どこかで……)


 記憶の片隅に引っかかるが、思い出せない。


 確実に見覚えがあったが、ソースは不明だった。


「あなたがここの城主? それとも召使い?」


 迷っている間にもエリーゼは男に話しかけた。


 思い切りがいいというか、警戒心がないというか。


 一長一短だったが、うだうだと考えても話は進まない。


 特に未踏の地の場合、彼女のような立ち回りは必須だろう。


 羨ましくもあり、個人的に改善しなければいけない点でもある。


 ――ただ今は、監視者ウォッチャーに徹する。


 組織に属している以上、それが一番無難だ。


 主導的になる必要はなく、精神的にも楽だった。


「答える義理はねぇなぁ。用がねぇならけぇってくれ」


 質問に対し、男は仏頂面で正論を述べていた。


 城側の視点で考えるなら、こちらは予期せぬ訪問者だ。


 こんな辺鄙な場所に足を運ぶ物好きなんて、滅多にいないはず。


 ――ただ。


「用があるなら、入ってもいいんだな?」


 相手の言葉を深読みし、僕は冷静に突っ込んだ。


 グリッチでの侵入が不可能なら、他の方法を探るしかない。


「身内の紹介か、招待状があればなぁ。……ただ、もう一度カチコミかけようもんなら、次はブチ殺すど」


 拳の骨を鳴らし、角刈りの男は警告している。


 まさに門前払いと言ったところだが、収穫はあった。


 ――紹介or招待状。


 城に入るためには、どちらかが必要らしい。


 ここは男の要望に合わせるのが正攻法と言える。


 想定していた通り、ギミック型のイベントのようだ。


「……というわけだが、どうする。言われた通りに出直すか?」


 僕は返事を先送りにして、隣に視線を向け、問いかける。


 そこには、顎に手を当てる灰色のローブを着た金髪少女の姿。


 まともな思考の持ち主なら、意見に従うだろうが、果たして……。


「だったら、わたしたちを紹介してよ。あなたならできるんでしょ?」


 機転を利かせたエリーゼは、ルールの穴を探っていた。


 思考停止の強行突破じゃなく、向こう側に合わせている。


 悪い選択肢ではなさそうだが、可能性は高くないだろうな。


「……………………………………入れぇ。おでが話を通してやる」


 しかし、男は意外にも快い反応を見せていた。


 踵を返し、城門に向かって、右手をかざしている。


「そんな、あっさり……」


 都合のいい展開のはずだが、どうも嫌な感覚が拭えない。


 罠の可能性を考慮しているのか、別の引っかかりがあるのか。


 言語化できない感情に苛まれ、決して良い気分とは言えなかった。


「やるな、小娘。若い割に大した手腕だ」


 そこで声を上げたのは、ナナシだった。


 引っかかる様子もなく、手放しに褒めている。


 それを聞いて、ジクリと胸が痛むのを確かに感じた。


「本番はこっからっしょ。この程度は朝飯前ってね」


 エリーゼは得意げな顔を見せ、開いた城門に歩みを寄せる。


 背中を追うようにナナシも進み、僕は不思議と足が止まっていた。


「……あれ? こないの?」


 違和感に気付いたエリーゼは、首を振り向かせながら尋ねる。


 嬉しいような、居心地が悪いような、妙な気分に襲われていった。


「あぁ、今行く」


 その気持ちに答えを出すことはなく、言われるがまま身体は動き出した。


 ◇◇◇


 厳重な城門をいくつか通り抜け、たどり着くのは本丸。


 ウィンザー城を彷彿とさせる、西洋風の堅牢な要塞があった。


「これから話をつけてくるが……くれぐれもここから動くんでねぇぞ」


 返事を聞くこともなく、男は城の中へと入っていった。


 城門は突破したが、城内への侵入は許可されていないらしい。


「さてさて……ちょいと散策っと」


 するとエリーゼは、忠告を無視して、中庭に視線を送った。

 

 そこは、地上と変わらない緑地。整えられた芝生と常緑樹が庭を彩る。


「戻ってきたら呼んでやる。それまで遊んでいるといい。子供らしくな」


 ナナシは門前で両腕を組み、男の帰りを待ち受ける。


 大人の余裕と言うべきか、すでに来たことがあるからか。


 記憶喪失と言う割に、かなり肝が据わっているように思えた。


「甘いな。前世では子供でもいたんじゃないか?」


 僕は話の流れに沿いつつ、自然な探りを入れる。


 本人にも直接言ったことだが、こいつは信用できない。


 嘘をついているかどうかは、早い内に確かめておきたかった。


「さぁな。後輩の面倒見が良かっただけかもしれんぞ」


 ただ、簡単には尻尾を掴めそうになかった。


 どちらとも言える回答を口にし、お茶を濁している。


「どうだか……。言っておくが、不信感が勝ったらいつでも斬り捨てるからな」


「勝手にしろ。いざ戦うことになっても、お前には不思議と負ける気はせんがな」


 忠告するものの、ナナシは意に介さない。


 戦えるか分からないくせに、大した自信だった。


「……ふん。言い返すのも馬鹿馬鹿しい。ともかく、ここは任せたぞ」


 僕は顔を背け、エリーゼがいる中庭の方に顔を向ける。


 広大な緑地を見渡し、彼女がいそうな場所を隈なく探した。


 ――しかし。


「あいつ……ほんの一瞬、目を離した隙に、どこに行った……」


 見えるのは無人の庭。エリーゼの姿は消えていた。

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