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トリニティポータル  作者: 木山碧人
第八章 世界の終末

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第215話 対霧生

挿絵(By みてみん)





 軍用の西洋式サーベル。その伝来は一世紀以上前。


 1853年。黒船来航から日本は洋式軍隊の影響を受けた。


 結果として、西洋サーベルは将校用の佩刀として選ばれる。


 この段階では正式採用とはならず、導入は極めて限定的だった。


 ――転機となったのは、徴兵制と廃刀令。


 明治初期に行われた、軍隊の近代化と武士階級の消滅。


 そこからサーベルは脚光を浴び、軍で積極的に採用される。


 1877年に起きた武士の反乱。西南戦争では特に活躍を果たした。


 ――日本刀対サーベル。


 旧時代と新時代の象徴が衝突し、雌雄を決した。


 結果、当時の軍が勝利を収め、武士は名実ともに失墜。


 1886年には『明治十九年式軍刀』として軍に正式採用された。


「…………」


 亀之助が抜いたサーベルには、歴史と伝統が色濃く残る。


 直線的なデザインで、持ち手にはD字のハンドガードが備わる。


 刃渡りは約80cm。湾曲刀ではないことから、輸入品ではなく正規品。

 

 少なくとも、1886年以降に作られた軍用サーベルであることは確実だった。


「これはこれは、海軍元帥閣下殿。わざわざ軍のトップがお出ましとは、よほどの緊急事態なんでしょうねぇ」


 矛先を向けられる霧生は両腕を広げ、皮肉交じりに接する。


 必要最低限の敬意を払いながらも、その眼差しは血に飢えていた。


「部下には手に余る案件でな。被害を最小限に留めるにはワイが適任なんじゃ」


 紫色のセンスを纏い、右手でサーベルを握り、左手を腰に添える。


 日本刀のように両手持ちできるようなサイズ感ではなく、片手持ち用。

 

 ある種の必然であり、サーベルのセオリーに近い構えで戦闘に備えていた。


「お年寄りが神を殺せるとでも?」


「老兵だからこそよ。若人には荷が重い」


 青のセンスを纏う霧生に対し、亀之助は落ち着いた様子で応じる。


 経験に裏打ちされた自信。それが確かな基盤となり、足腰を支えている。


「…………」


 その対立関係を傍らで見つめているのは、夜助だった。


 亀之助につくか、霧生につくか、静観するか、干渉するか。


 様々な選択肢と複雑な立場の間で板挟みに合い、思考は止まる。


「だったらまずは、小手調べといきましょか」


「舐めた餓鬼じゃ。少々、痛い目に遭わせてやろうかの」


 誰にも止められることはなく、二人は戦闘を開始。


 常人には目にも留まらない速さの足運びで様子を伺う。


 足音だけが道路上に響き渡り、徐々にその間隔が短くなる。


 内向きに螺旋を描くように距離を詰め、やがてそれは衝突する。


「「「――――――」」」


 中心にいたのは二名ではなく、三名。


 亀之助、霧生、夜助はセンスをぶつける。


 サーベル、右拳、小刀が空中で拮抗していた。


 遅れて地面が揺れ動き、道路には亀裂が入り込む。


「「「…………」」」


 近くにいたリア、スサノオ、小十郎は静観する。


 飛び交う蝗の撃退を最小限に留め、戦闘に見入った。


 初撃でありながら、見る価値があると思わせる打ち合い。


 その期待に応えるようにして、三名の攻防は激しさを増した。


「「「――――」」」


 突き、斬り、打つ。基本的な動作ながら、威力が非凡。


 五分の打ち合いが続くものの、周辺の施設が耐えきれない。


 門は瓦解し、庭木は薙ぎ倒され、道路は陥没し、街灯は割れる。


 手数の多さと、並み外れた膂力と、類まれなセンスが街を破壊する。


 幾度も衝突を繰り返し、その威力とセンスは右肩上がりで伸びていった。


 ――行き着く先は、災害級の都市破壊。


 そんな可能性を秘める三名の戦闘には動きがあった。


 距離を取り、陥没した道路の隅に立ち、次の一撃に備えている。


「遊びはこんなもんにしときますか。準備運動にはなったんとちゃいますん?」


 エセ関西弁のイントネーションで霧生は問いかける。


 息を切らした様子はなく、汗の一滴すらもかいていない。


「若いのぅ。本音を言えば、老体には少し堪える。手短に済ませたいもんじゃ」


 それとは対照的に、亀之助は額に汗を浮かべる。


 息を切らしてはいないものの、肉体の疲労が見えた。


「…………」


 一方、参戦していた夜助は無言を貫いている。


 どちらにつくか不明な状態のまま、睨みを利かせた。


 肉体的な疲労は見えず、その立ち姿には余裕が感じられる。


「だったら、こっからはフルスロットルで行かせてもらいましょか!」


 道路をえぐり取るように、霧生は駆ける。


 疲労が見える亀之助の方へと一直線に向かう。


 接敵する寸前。霧生が右の拳を放とうとした瞬間。


「北辰流――【薄雲】」


 響いたのは、周囲にいた誰でもない第三者の声だった。

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