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トリニティポータル  作者: 木山碧人
第八章 世界の終末
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第213話 秘密

挿絵(By みてみん)





 マルタが展開する独創世界『福音の扉』。

 

 案内されたのは、黒い龍が飛び交う暗い谷底。


 そこで待ち受ける狼男は、低いトーンで語り出す。


「第三回廊区の件、忘れたとは言わんだろうな……」


「忘れるわけねぇだろ。つまるところ、復讐ってわけか?」


 ガルムの愚痴に対し、俺っちは尋ねる。


 おおよその当たりをつけて、話題に触れた。


 過去の因縁から考えれば、これが妥当だろうな。


 それ以外の理由もなくはないだろうが思いつかねぇ。


「もしそうなら、とっくに仕掛けている。これは別件だ」


 ただどうやら、予想は外れたらしい。


 真偽は不明だったが、ひとまず話を聞くか。


「なら、さっさと言ってくれ。……要件は何だ」


 周囲を警戒しつつ、俺っちは慎重に話を掘り下げる。


 戦闘するにせよ、交渉するにせよ、ガルムの発言次第だった。


「――フェンリルは今、どこにいる」


 余計な言葉を付け加えることなく、告げられたのは本題。


 前置きを徹底的に省略し、知りたい情報だけを淡々とぶつけた。


 こいつと何の因縁もなければ煙に巻いて終わりだが、そうもいかねぇ。

 

「仮に知っていたとして、会ってどうするつもりだ」


 肯定も否定もせず、まずは動機を掘り下げる。


 本当のことを話すかどうかは、それから決めたかった。


「この身体の神秘を紐解きたい。他に理由は必要か?」


 ガルムは胸に手を置き、神妙な面持ちで言った。


 知的好奇心。自分の遺伝子構造を知りたいってとこか。


「生みの親が近くにいるだろ。そいつから直接聞けばいい」


 俺っちは隣にいるマルタに視線を向けて、答えを先送りにする。


 どうせ反論されると分かっていながら、目の前の現実から目を逸らす。


「マルタ様はフェンリルの遺伝子を参照しただけに過ぎない。言葉を選ばなければ、丸パクリだ。本物に比べれば、造詣が深いとは言えない」


「だとしても質問は変わらねぇな。知ってどうする。分かったところでどうにもなんねぇだろ。知的好奇心を満たすだけの自己満の領域だぞ。クソの役にも立たねぇ」


「詭弁だな。聖遺物レリックが世界に与える影響力を考えれば、全く無駄とは思えない。むしろ、フェンリルの謎を紐解けば、世のため人のためになるだろう。今は目立っていないが、脅威が明らかになれば必ず脚光を浴びるはずだ」


「あんなもんは時代遅れの産物だ。量も質も伴う人間の方がよっぽど脅威だよ。第三回廊区の件もそうだが、ひねくれ者みてぇに過去ばっか目を向けてねぇで、今のことを考えたらどうだ? そっちの方がどう考えても生産的だろ」


「歴史なくして今はない。過去に目を向けてこそ、未来が切り拓けると私は考えている。世界が終末期に差し掛かろうとしている今だからこそ、目を向けるべきは時代遅れの産物なんだ。把握するかしないかで、毒にも薬にもなり得る」


 どちらも意見を譲らず、脅威の有無で真っ向から対立する。


 『あえて』か『わざと』か、真実を隠し、薄っぺらい論議が続く。


「だったらどうして俺っちに聞かない。お前の脳には共有されてんだろ。フェンリルのバックアップ的存在が! 目の前にいる男の正体が!! お前の欲しがる情報を持っている唯一無二のペテン師野郎が!!!」

 

 配慮か哀れみか知らねぇが、我慢の限界だった。


 ここを触れずにして、議論を前に進めることはできねぇ。


 独創世界なら誰にも聞かれてねぇだろうし、指摘する他なかった。


「当然、知っている。フェンリルの魂をコピーされた『転写体』であり、私が欲する情報に最も近い男。王位継承戦では未来の霊体を呼び寄せられ、ジェノと戦闘し、秘密を口走ろうとした末にお前に消された。あれは『フェンリル』=『ルーカス』という構造を隠したかったわけじゃない。そこから紐づく事実を隠蔽したかった。キーワードから連想し、ジェノの推理力で真相に辿り着くのを恐れた。だから、彼を殺そうとしていた。そうだろ? 銃職人ガンスミス『漆黒の兎』。……いいや」


 ガルムは一つ一つ情報を積み上げ、逃げ道を塞ぐ。


 行き着いたのは、ジェノの前では隠し通せていた真実。


 表沙汰にはならなかった問題が、身内によって明るみになる。


「――アサド・クズネツォフ」


 有耶無耶にしていた情報が開示された瞬間。


 これでようやく、腹を割って喋ることができる。


「そこまで分かってて、なぜ俺っちに直接聞かない。わざわざ、フェンリルの居場所を探るなんてまどろっこしいことをせずに、お前の遺伝子構造について教えを乞えばいいだけだろ。その身体に携わった生みの親の一人にな」


 事実を認めた上で残ったのは、解消しない疑問だった。


 正体を明かしたからと言っても、議論が尽きることはねぇ。


「コピーされた記憶が正しい保証はどこにある。フェンリルの情報共有を使えば、渡せる記憶の取捨選択が可能なのは、私の身体で証明済みだ。贋作に聞いたところで、私の望む答えが返ってこない可能性は十分あり得る」


 話を深く掘り下げた上で突き当たるのは、情報の信憑性。


 ひねくれた自分の性格を考えるなら、なくはない問題だった。


「だから、聖遺物レリックには明かされてない秘密があると?」


「あぁ、そうだ。素体が嘘つきということに関しては、信頼を置いている」


「それは……。あるかもしれねぇな……」


 質疑応答の果てに、行き着くのは共通の見解。


 『嘘つき』という不名誉な情報が、ガルムの論理を裏付ける。


「……というわけだ。あたいも、フェンリルの所在地には興味があってね。表のごたごたが終わったら、協力してくれないかい?」


 そこでようやく口を開いたのは、マルタだった。


 力で意見を押し通すつもりは初めからなかったらしい。


 帝に筋を通すなら、丁重にお断りするのがベストだろうが……。


「あぁ、いいぜ。乗ってやる」


「意外だね。もっとごねるかと思ったが」


 提案を快く受け入れると、マルタは疑問を口にする。


 俺っちが交渉で易々と折れたことに違和感を覚えたらしい。


 当たらずとも遠からずってところ。もちろん、本題はこっからだ。


「その代わり、帝と話を通せ。不義理には懲りたんでな」

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