第211話 四対四
帝国放送局二階。報道スタジオ。
「「――――ッッ!!!」」
マルタとルーカスは、拳と蹴りを正面からぶつけ合う。
周辺の機材をことごとく破壊し、地面は激しく揺れ動いた。
足場は不安定なものの、後れを取るような弱者はここにいない。
「……凍てついてもらうで」
「その技は既に見切っておるわ」
すかさず行動を開始したのは、既知の仲にある二名。
楓は扇子から凍てつく風を起こし、椿は魔眼を使用する。
襲い来る氷雪系の異能は時間停止。現象に対してのみ、適用。
それぞれの時間が止まることはなく、五分の状況が作り出される。
「示現流――【仁王】」
「ほぉ。懐かしい技よのぅ……」
アミは刀で上段から斬りかかり、天海は身を逸らし、回避する。
身に覚えのある太刀筋を見切り、互いに手傷を負うことはなかった。
「その大剣……。どこかで見たな。レアものか?」
「イギリス王室から拝借したものさ。少し縁があってね!」
カモラは軍用ナイフ、主に変装するミネルバは大剣で鍔迫り合う。
コレクター同士として波長が合い、白兵戦を行いつつ、話が弾んでいた。
――戦況は完全に五分。
浅からぬ因縁により結ばれ、思想の違いで対立する。
四対四。それぞれが一対一で衝突する形が自然と選ばれた。
同じような展開が続いているものの、影響度には優劣が存在した。
「一体、誰の差し金だい? 独断で動いてるわけじゃないんだろ?」
マルタは膠着状態の戦況を見兼ね、対話を続ける。
チームの代表者であり、戦闘に関する指揮権を有する。
影響度は極めて高く、続行も撤退も彼女の采配次第だった。
「口が軽い男に見えるか? 墓場まで持ってくよ、俺っちはな」
情報が開示されることはなく、対話は平行線を辿る。
拳と蹴りを打ち合うものの、戦闘の決着がつくこともない。
「そうかい。だったら、こっちにも考えがある」
マルタは目つきを鋭くさせ、冷たい声音でルーカスの義足を両手で掴む。
「なにを――」
「来れば分かるよ!!!」
口を挟む隙も与えず、マルタはルーカスを振り回し、天井へ放り投げた。
良い意味でも悪い意味でも足止めを食らう他の面々は、その場から動けない。
「「――――」」
上昇する二人が辿り着いたのは、帝国放送局の屋上。
そこには、ヘリ救助用の円形状のスペースが存在していた。
朝日が差し込んでおり、両者はそれに照らされ、無言の間が続く。
「まさか俺っちと、風情を味わいたいとは言わねぇよな」
「そのまさかだよ。もう一名を加えて、トリプルデートと行こうか」
紫色のセンスを纏い、マルタは不釣り合いな台詞を述べる。
物々しい雰囲気を放ちながらも、トーンはどこか和やかだった。
「あ? 誰のことだ? どこにいる?」
「百聞は一見に如かずってね。――独創世界『福音の扉』」
マルタは両手を握り込み、問答無用で足元に木製の両扉を展開。
それと同時に扉は開き、二人は否応なく別世界へと導かれていった。
◇◇◇
木製の扉は閉じ、辿り着いた先は暗い谷底だった。
上空には数匹の黒龍が飛び交い、付近を警戒している。
「殺風景な場所だな。……で、お呼びなのはどこのどいつだ」
マルタの口振りをなんとなく察し、問いかける。
目的は別にあるんだろうが、恐らく頭を切り替えた。
俺っちと因縁のある相手との接触を優先したって感じだ。
「あぁ、もちろんそうさせてもらうよ。出ておいで、あたいの可愛いキメラ」
話を振られたマルタは振り返り、暗闇を見つめる。
そこから現れたのは、闇に紛れた黒い毛を有する狼男。
鋭い眼光で俺っちを見つめると、低い声で冷徹に言い放つ。
「第三回廊区の件、忘れたとは言わんだろうな……」
ガルム・アンダーソンは過去の恨み辛みを吐き出そうとしていた。