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トリニティポータル  作者: 木山碧人
第八章 世界の終末

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第210話 既知と未知

挿絵(By みてみん)





 上空から落ちてくるのは、巨大蝗の死骸でした。


 真っ二つに切り裂かれ、議事堂周辺は緑に染まります。


 道路や、左右対称に並んだ低木の常緑樹は溶けていきました。


 ――酸性の体液。


 現実の蝗とは異なり、ややファンタジー寄りの成分。


 本来であれば、中性から弱酸性を維持しているはずです。


 巨大化したといっても、ここまで極端な性能にはなりません。


 特定条件下で変化したか、何らかの細工が施されているようです。


「「「…………」」」


 その場にいる私を含めた三名は、不動を貫いていました。


 残骸や体液が、身に降りかからないと分かっていたからです。


 無言のまま睨み合い、互いに目に見えない牽制を続けていました。


「思ったよりも刺激の強い体液を有するようですね。アレを大量繁殖させられれば、撃退しようがしまいが関係なく、帝国に欠かせない要人や要衝を的確に破壊することができる。国家を滅ぼすにはうってつけと言えます」


 相手の様子を伺いながら、私は探りをかけました。


 倒したいのは山々ですが、情報を把握したいのも確か。


 応じる気があるなら、なるべく対話した方がいいでしょう。


「……だとしたら?」


 白い鎧を纏うユリアは、肯定も否定もせず、問いかけました。


 どうやら戦闘か対話、どちらに傾くか見定めるつもりのようです。


 何にせよ私が能動的に動く必要があり、今のままでは情報が落ちない。


 ――だったら。


「鬼が出るか邪が出るか、試してみるまで!!」


 三叉槍の柄を握り込み、私は大きく跳躍しました。


 目指す場所は、議事堂の中央塔に刺さった白い卵の下。


 その勢いのまま槍を振りかぶり、縦に切り裂こうとします。


「……産まれるにはまだ、恐怖が足りない」


 そこで動いたのは、正体不明の金髪の悪魔でした。


 振り下ろされる槍の柄を手で掴み、勢いを殺しています。


 細身の割に、とんでもない膂力。鬼の肉体に匹敵していました。


 悪魔の外見を有するなら当然でしょうが、気になったのは発言の中身。


「つまり、今、壊されたら困るということですね!!!」


 細い腕をへし折るつもりで、私は膂力とセンスを高めます。


 青色の発光を伴い、槍は徐々に押し込まれようとしていました。


 センス込みなら私がやや上回る。接近戦で遅れは取らないでしょう。


「わたくしがいることをお忘れ?」


 背後から聞こえてきたのは、ユリアの声でした。


 押し切りつつあった槍を引き、回避を優先しました。


 悪魔には当たらない絶妙な位置を通過したのは白い羽根。


 防御を選べば、確実に当たり、悲惨なことになったでしょう。


 ――能力は『既知なんでもあり』。


 羽根が刺さった相手に対し、あらゆる現象を再現できる。


 人類が既に解き明かしたものであるなら、制限はありません。


 ヒット=必殺であり、生死はユリアの匙加減によって変わります。


「素晴らしいお反応。お種はお割れになっているようね」


 過度な丁寧語を用い、地上にいるユリアは冷静な反応を示しました。


 複数の白い羽根を右手で握り込み、いつでも投げる準備が整っている様子。


「――しかしながら」


 口を差し挟む隙もなく、次なる白い羽根は投擲されます。


 縦横無尽に飛び交い、逃げ道を防ぎ、確実に詰みにきました。


 槍で受けることも危うく、半端な結界なら破られることでしょう。


「なんの!!」


 空中にいる私は頭上で槍を回し、熱風を巻き起こします。


 投擲された白羽根は、風に煽られ、軌道が逸れていきました。


 それを見届けた上で、私は背後に小規模結界を展開し、反転攻勢。


 地上で待ち受けるユリアに向かい、一気に距離を詰めようとしました。


「――――次はわたしを忘れてる」


 その間に入り込んだのは、黒羽を羽ばたかせる金髪悪魔。


 進行方向を見事に塞ぎ、急ブレーキをすることは難しい状態。


「押し通らせてもらいます!!!」


 私は状況を受け入れ、槍を横方向にフルスイング。


 鬼の膂力とセンスを振るい、悪魔を叩き飛ばしました。


 その感触が一時の快感をもたらすものの、気は抜けません。


「――チェックおメイト」


 そこに浴びせられるのは、ユリアの強気な言葉。


 槍を振り切った後に迫るのは、一本の黒い羽根でした。


 ――能力は『未知』。


 羽根が刺さった対象に、解析不能の効果がもたらされる。


 恐らく、使用者のユリアでさえも制御し切れない能力のはず。


(当たれば、キクさんの二の舞に……)


 大振りの代償となる致命的な隙を晒し、思い浮かぶ。


 それは、起きてから聞いたみやびフェス東京の一部始終。


 味方だったはずのユリアに裏切られて、妨害工作が行われた。


 私とアザミの共同作詞『エンジェルロード』の作曲者キクの殺害。


 曲は無事に完成したものの、それが遺作となってしまった悲しい事件。


 ――犯人はユリア。


 キクさんの遺体状況からして、黒い羽根の影響が濃厚。


 刺さってしまえば最期。非業な死を遂げることになるでしょう。


(後遺症のない能力が引けるよう、天に祈るしか――)


 食らう覚悟を決め、私は意識をその後に向けました。


 鬼の肉体であれば、耐え切る可能性もないとは言えません。


「………………させませんから」


 そこに聞こえてきたのは、覚えのある声でした。


 右手を掲げ、黒羽根を溶かし、既知の仲間に窮地は救われる。


「葵さん……助かりました!」


「礼はいりません。それより、あいつらを倒しましょう、お義母かあ様」

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