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トリニティポータル  作者: 木山碧人
第八章 世界の終末
200/223

第200話 歴史的発明

挿絵(By みてみん)





 白銀の鎧は溶けた。赤雷によって、分解された。


 現れたのは、ありのままの相手。白服を着たベクター。


 それを見て、決闘の勝ち負けよりも、気になることがあった。


『君も白教徒か。これはまた奇遇だね』


 赤雷を纏う私は、気兼ねなく話しかける。


 ここで相手が降参するとは微塵も思っていない。


 純粋な好奇心。次の攻防に向けた、ほんの箸休めだ。


「だからどうした……。この決闘になんの関係がある……」


 折れた万能ナイフを懐にしまい、ベクターは言う。


 頼りの綱を失いながらも、彼の闘志は失われていない。


 少なくとも、雑談に興じるだけの余裕は残っているらしい。


 強がりか、勝算があるかは知る由もないが、今は今を愉しもう。


『この決闘は白き神が御覧になられている。くれぐれも粗相のないようにね』


 私は視線を送り、離れた結界上にいる少年を見つめる。


 白教の信徒であるなら、卒倒ものの偶像がそばに存在した。


 心理的揺さぶりというより、彼の信仰心を知っておきたかった。


 ――本物なら後々に使える。


 目先の決闘も大事だが、見据えるのは更に先。


 諸々の問題が片付いた後の、世界的情勢に関わる。


 恐らくだが、白教とそうでない者で世界は二分される。


 熱心な白教徒であるのなら、同胞になる可能性は高かった。


「教皇の次は主か……。今更、誰が居ても驚かんよ……」


 そんな期待に反し、ベクターは淡泊な反応を見せた。 


 振り返る様子はなく、揺るぎない赤いセンスを身に纏う。


 信じていないか、はたまた、目の前の戦闘だけ考えているか。


『冷たいな。君の信仰心はそんなものなのか?』


「マルタ福音書26章17節……。主は常に天より見そなわし、心正しき者が愛と善意で行う人道には報いを、心悪しき者の利己と暴虐で行う所業には赦しを与えられる……。近くにいようが遠くにいようが、本質は変わらない……。主は何処にでもおられ、我々の行く末を見守られている……」


 純粋な問いに対し、返ってきたのは100点に近い回答。


 敬虔深い信徒だからこその静観。動揺しないことが真の信仰。

 

 本来なら終わってもいいタイミングだったが、彼に俄然興味が湧いた。


『だとすれば、この戦いの果てに君は何を見出す』


「限界の超越……。武の神髄に至るまで、成長に終わりはない……」


 動機が言語化され、センスが膨れ上がるのを感じる。


 追い込まれたはずだが、それを感じさせない圧があった。


 芸達者な彼のことだ。玩具がなくとも、手札があるのだろう。


 もしくは、限界に直面したからこそ、新たな手札を編み出すのか。


『だったら、期待は裏切られないでくれよ。赤雷の決着では味気がない!』


 彼のスタンスを知った上で、私は吶喊を開始する。


 身に纏う赤雷と共に、10メートル級の巨体は人間を襲った。


 ◇◇◇

  

 迫るのは赤雷を纏う白龍。触れれば物質は分解される。


 有効打となりそうな武器を生成しても、潰されるのが関の山。


 吸収しようが、能力の性質上、物理的に不可能なことが証明された。


聖遺物レリック邪遺物イヴィル強化外骨格パワードスーツもない……。頼れるのは己だけ……。タイマン状態で独創世界は意味を成さない……。武器の生成も通用しない……。力も図体も頭脳も技量も全てが劣っている……。残された切り札は存在しない……)


 頭の中で情報を並べ、今置かれている状況を整理する。


 今までにない崖っぷち。誰がどう見ても追い込まれている。


 賭けが行われているなら、俺のオッズは十倍以上の倍率だろう。


 支持率で換算するなら、勝利を期待する者は一割にも満たないはず。


(あぁ、これだ……。この展開を俺は待っていた……っ!!!)


 内から溢れ出るのは、趣味嗜好に対する底なしの熱量。


 追い込まれるほど熱を帯び、意思の力に、センスに直結する。


 ――残す課題は、想像力。


 この多大なるエネルギーをどこに向けるか。


 目の前の障害に対し、どのような回答を示せるか。


 見せかけの衣では駄目だった。だとすれば、何が最適か。


 系統は芸術系。達成困難なモノづくりにこそ、真価を発揮する。


「我が意思に呼応し、身に纏う鎧と化せ。――聖意物ロゴスフィア


 この日、意思能力者の常識は一変する。


 汎用性の高い鎧の具現化は、革命をもたらした。


 龍に対抗する人間が、後世に語り継がれることによって。

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