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トリニティポータル  作者: 木山碧人
第八章 世界の終末
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第199話 赤雷

挿絵(By みてみん)





 鎖鎌術と、それに付随した能力は発揮された。


 鎌は龍の鱗を切り裂き、鎖は龍の巨体を捕らえた。


 結果だけを見るなら、胸を張って上々と言えるだろう。


 ――だが。


「これで降参とは言わんだろうな……」


 立ち向かってくる前提で、俺は問いかける。


 鎖で捕縛された白龍を見つめ、反撃を期待する。


 正直、初見殺しで終わらせるには惜しい相手だった。


 更なる成長を促すためにも、もうひと波乱あって欲しい。


『――当然だろ』


 その期待に応えるように、白龍が右前肢を握り込む。


 上空には薄暗い雲が形成され、赤い稲光を迸らせている。


(雷か……相性が悪い……)


 最悪を想定し、俺は大きく距離を取る。


 アレはさすがに見てからじゃ間に合わない。

 

 的を絞らせないよう、右往左往と回避を続ける。


 白龍を縛る鎖はそのままにして、技の終わりを待つ。


『――天意無縫ダノ・スヴィーシェ


 そこで行われたのは、白龍による短文詠唱だった。


 恐らく、ロシア語の文言で、意味までは読み取れない。


 最大限の警戒をしていると、降り注いだのは一筋の赤い雷。


 読めた展開だったが、意外にも俺に被害を被ることはなかった。


 ――むしろ、その逆。


 白龍は赤い雷を全身に纏い、縛る鎖を焼き尽くす。


 物理攻撃へのメタであり、必中効果は意味を成さない。


 工夫を凝らして、接近戦に持ち込んでも、アレに阻まれる。


「雷の鎧か……。考えたな……」


 焼かれた鎖の一部を回収し、俺は素直に賞賛する。


 恐らく、このまま鎖鎌に固執しても、勝機は薄いだろう。


『降参するかい?』


 受け攻めをいくらか考えていると、白龍は問いかける。


 嗜虐的な笑みを見せ、立ち向かってくる前提で聞いていた。


 性格の悪さがにじみ出ているが、これこそが俺の望んだ闘いだ。


「ふっ、愚問だな……。量子変換クォンタムチェンジ……」


 無用なやり取りは不要。今必要とされるのは行動のみ。


 鎖鎌に見切りをつけ、量子を変換し、次の得物を想像する。


 形状は棒。材質は黒鋼。長さは六尺六寸。白龍退治用の特注だ。


量子電導十手クォンタムジッテ


 ベースに選んだのは、日本の江戸時代に使われた鉄棒。


 色は黒、フォルムは棒状で、根本部分に鉤が備わっている。


 極低温に冷やされており、棒全体から白い冷気が漏れ出ていた。


『絶縁体でもこしらえたつもりかな? だとしたら、平凡だね』


 恐らく、真っ先に考え付くであろう答えを白龍は語る。


 まぁ、実際のところ、雷耐性特化も悪くはなかっただろう。


 ただ、相手が思い至る発想で勝てるほど、この闘いは甘くない。


「罵詈雑言は……。受けた後で聞かせてもらおうか……っ!」


 約二メートルに迫る十手を握り、俺は駆けた。


 一拍の隙も与えず、浮いた白龍の下半身へ潜り込む。


 拳が届く距離感ではないものの、この十手なら届く間合い。


『お手並み拝見』


 白龍は軽快なトーンで勢いよく右前肢を振るう。


 鋭利な五本の爪に加え、前肢には赤雷が纏われていた。


 絶縁体で雷を受けようが、物理攻撃で押し切るつもりだろう。


 ――上等だ。


 俺は両手で握り込んだ十手を、上空に振るう。


 巨体と雷に恐れ戦くことなく、真っ向から立ち向かう。


『「――――――――ッッ!!!!」』


 やがて赤雷を纏う爪と、十手の先端は空中で衝突。


 先に互いのセンスが干渉し、白と赤の異なる色が迸る。


 ――打ち合いは、やや押されていた。


 強化外骨格があると言っても、超人になれるわけじゃない。


 中身は普通の人間であり、当然ながら膂力には限界が存在する。


 白龍の物理攻撃に比べれば、劣っているのは紛れもない事実だった。


『衝突が成立するだけでも見事だが……それでは私に遠く及ばないよ!!』


 打ち合いに対する現状の評価を下し、白龍は攻勢に転ずる。


 右前肢に纏っていた赤雷を迸らせ、十手に伝えようとしている。

 

 衝突は瓦解寸前。下手に回避行動を取れば、爪の餌食になるだろう。


 彼の言い分はもっともであり、このままいけば、俺の敗色は濃厚だった。


 ――だが。


「いただくぞ……。お前の力……っ!!!」


 その瞬間、俺は意思を込め、十手の側面に備わるコアが開く。


 素材を吟味し、極低温状態で電気抵抗を0にし、それを通電させる。


 赤雷は吸い込まれるように、十手を伝い、コアへと流し込まれていった。


『――っ!!?』


 事象への理解よりも先に、攻防の競り合いが大きく動く。


 次第に出力が上昇し、押されていたはずの力関係は逆転する。


「屠り砕け……っ!!!」


 渾身の意思の力を乗せ、薙ぎ払うようにして、十手を振るう。


 形勢は逆転した。打ち所がよければ、勝てる。そんな確信があった。


 ――しかし。


『悪いね。解釈違いだ』


 防御する素振りも見せず、白龍は冷ややかな目を向け、語る。


 その言葉に誘発されるようにして、コアの赤雷が熱暴走を始める。


 ミチミチと音を立て、十手を破壊し、赤雷は身体を伝い、全身に巡る。


「く……っ!!!?」


 赤雷の本質は、『熱』ではなく『分解』。


 そう気付いた頃には、強化外骨格は溶けていた。

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