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トリニティポータル  作者: 木山碧人
第八章 世界の終末
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第17話 説教

挿絵(By みてみん)




 レストラン内に大きく開いたのは、吹き抜けの壁。 


 期せずして景観はよく、赤い三日月を拝むことができた。

 

 夜風が入り込み、ほんのり肌寒いものの、湿度がちょうどいい。


 心地良い空気を感じつつ、近くのテーブル席に正座で座らされていた。


「……弁明はいらんけぇ、まずは言う事があるじゃろ?」


 中年の店員は、頭のねじり鉢巻きを締め直し、問いかける。


 表情は穏やかなものの、広島弁の訛りが威圧感を助長していた。


「「…………」」


 計らずしも、リーチェとラウラの取った行動は同じ。


 非を認めず、沈黙を保つこと。大人げのない対応だった。


 実際、悪いとは思ってない。こっちは襲われただけの被害者。


 店が壊れたのも、無銭飲食に見えたのも、ただの不可抗力だった。


 ――本当に悪いのは、あちら。


 リーチェは黙したまま、隣に座る女性に目を向ける。


 短い青髪、黒スーツを着て、首には青色の蛇を巻き付ける。


 特徴はラウラ・ルチアーノと一致してるけど、恐らく中身は別人。


(襲ってこないなら、ひとまず様子見に回った方がよさそうね)


 頭の中で情報を整理し、聞き手に回る。


 暴れるのか、弁明するのか、謝罪するのか。


 いずれにせよ、ラウラは反応しないといけない。


 その内容次第で手段を変えるのがベストな気がした。


「弁償すりゃあいいんだろ? それで手打ちだ」


 開き直るように、ラウラは眉をひそめながら語る。


 悪びれた素振りはなく、彼女らしいと言えば彼女らしい。


 でも、どこか大げさでわざとっぽい。演技に多少の粗が目立つ。


 理想のラウラ像を無理やり押し付けられたような、不自然さがあった。


「はぁ……。ごめんなさいの一言がどうして言えん」


 内情を知る由もない店員は、怒るのではなく、呆れていた。


 額に手のひらの付け根を当て、ありがちな人情芝居を続けている。


「くっだらねぇ。謝ったら、壁が直るのかよ。黙祷と同じぐらい意味ねぇよ」


 すると、火に油を注ぐような形でラウラは応じた。


 その言葉に、さすがの店員も額に青筋を浮かべている。


 恐らく、わざと地雷を踏んだ。彼女の狙いは、混沌にある。


 喧嘩に持ち込むことで、うやむやにしようという魂胆に思えた。


(乗ってあげてもいいけど、万が一、死なれたら困るのよね)


 店員に視線を送り、ボヤ騒ぎが起きる前提で考える。


 白教との約束は『国土内で国民と悪魔を殺さない』こと。


 それが、中立の条件。店員が死ねば、破棄される恐れがある。


 他殺だったとしても立証できなければ、この手で殺したのと同じ。


 ――ここで選ぶべきことは。


「喧嘩なら私が買う。あなたは……」


 面倒な揉め事を起こされる前に、止めること。


 店員とラウラの間に身体をねじ込み、仲裁に入る。


 しかし、後に訪れたのは、予想だにしないものだった。


「独創世界『海宴廻鮨かいえんかいずし』」


 店員は手で寿司を握る動作を作り、独自の世界を展開。


「「は……?」」


 成す術もないままに、リーチェとラウラは異次元へ幽閉されていた。

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