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トリニティポータル  作者: 木山碧人
第八章 世界の終末
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第15話 利己主義

挿絵(By みてみん)




 巨大生物の喉の中で出会ったのは、赤髪の青年。


 ベズドナ・イワノフと名乗った軍人は確かに言った。


『ソビエト革命軍の最後の生き残りさ』


 聞き馴染みのない用語だけど、覚えがあった。


 革命軍は、社会主義での治世を志したロシアの軍隊。


 赤軍とも呼ばれ、資本主義派の白軍と国内で対立していた。


 四年にも及ぶ内戦が行われ、生き残ったのは、社会主義派の赤軍。


 それをきっかけに、史実では、ロシア帝国からソビエト連邦に移行した。


 ――だけど。


「か、革命軍って……。確か、もう……」


 ソビエト連邦は崩壊し、後にロシアに戻ったはず。


 それに伴い、社会主義から資本主義へと移行している。


 細かい内部事情は知らないけど、歴史との辻褄が合わない。


 革命軍がいた時期を逆算するなら、一世紀以上も昔の話になる。


 もしかしたら、この体内では、時間の流れが異なるのかもしれない。


「あー、よう分からんけど、『先に進みたい』ってことでええの?」


 知ってか知らずか、広島は会話を遮り、言い放つ。


 過去に紐づく情報より、現在に目を向けようとしていた。


「まぁ、平たく言えばそうだね。僕たちの利害は一致しているはずだよ」


 ベズドナは言い淀むこともなく、肯定していた。


 先に進みたい理由は不明。詳しい背景も分からない。


 怪しさ満点だったけど、内情に詳しい人がいるのは心強い。


 未知のダンジョンだと想定した場合、情報が生存率を左右する。


 あくまで攻略を最優先とするのなら、是が非でも欲しい人材だった。


「それはそちらの企み次第であるな」


「同行したいなら、目的を明かすのが条件よ」


 遅れて反応したのは、発言する権利のある二人。


 ボルドは腕を組んで、威圧するような態度を見せる。


 バグジーは兵士が後退したのを見計らい、戻ったみたい。


 その背中には、いまだ意識不明状態のジェノが担がれていた。


「目的か……。そっちが先に話すなら、考えてあげてもいいよ」


 一方のベズドナは、やや難色を示していた。


 簡単には明かさず、優位性を保とうとしている。


 若い見た目の割には、謀略に慣れていそうな雰囲気。


 一筋縄ではいかない。そんな気配を早々から感じられた。


「「「……」」」


 他の面々の表情は険しく、不穏な空気があった。


 誰かの地雷を踏めば、即戦闘に発展しそうな感じだ。


 忘れていたけど、ここにいる人たちは武闘派が多い印象。


 見方によったら見下されてる感じだし、気持ちは理解できる。


 ――ただ。


「た、タイム! 少し相談する時間をください」


 空気を読んだアザミは、すぐさまTの字を作り、告げる。


 彼らをまとめられるのは、消去法で自分しかいない気がした。


「三分だけ時間をあげるよ。それ以上は待てないからね」


 ベズドナは上から目線の言葉を添えて、タイムは成立。


 ゴゴゴという音を発してそうな三人を諫め、口内へ移動。


 目に見えない重要な戦いが、これから始まろうとしていた。


 ◇◇◇


「あぁ、腹立つぅ。あの手の輩は生理的に受け付けん」


「同感ね。少なくとも、命を預けられるタイプじゃないわ」


「服装も発言もフェイク。拙者たちをハメる罠かもしれぬしな」


 広島、バグジー、ボルドの順に所感を語る。


 案の定と言うべきか、否定派が優勢になっていた。


 同調圧力に屈したいところだったけど、そうもいかない。


 病状が悪化するジェノのことを考えるなら、ベズドナは欲しい。


 ――問題は、限られた時間で説得できるかどうか。


 場数も実力も、上だと思われる人たち。


 生半可な言葉じゃ、絶対に意見を曲げない。


 最初の一言で勝負が決まると言い切ってもいい。


 その上で何を選ぶか。最も適切な言葉はなんなのか。


 大日本帝国の内閣総理大臣という肩書きが試される局面。


 戦闘、ではなく、政治に意識を割いてきた手腕の見せどころ。


「か、彼抜きでは、ジェノさんは恐らく死にます。その重荷を背負えますか?」


 アザミは、それぞれの共通目的に杭を打った。


 ジェノとの関係性を考えれば、結果は目に見えている。


 ◇◇◇


「早かったね。答えを聞かせてもらおうか」


 中咽頭に繋がる肉壁に背もたれしていたのは、ベズドナだった。


 体感だと時間は大して立ってない。恐らく、1分以内にケリがついた。


「と、『凍土の魔女』に接触し、そこの少年の熱を冷ますこと。それが、わたしたちの共通目的です。い、一刻も早く脱出する必要があり、ベズドナさんのお力が必要不可欠だと判断しました。ど、どうかご助力ください」


「分かった。そこまで腹を割ってくれたなら、仲間になってあげるよ。攻略に必要な情報は全て伝える。……その代わり、詮索は無しだ。どういう状況に陥ろうと、僕の目的は話せない。この条件が飲めないなら破談になるけど、どうかな?」


 下手に出るこちらをしり目に、ベズドナは強気の姿勢。


 『目的を明かせば話してもいい』→『話さない』に変わった。


 詐欺師のやる手口。人を騙すことに、何の躊躇もためらいもない。


 政治家でも似たタイプはいた。道徳や倫理観を考慮しない、利己主義エゴイスト


 都合が悪くなれば、『言った』『言わない』の事実を平気で捻じ曲げる人種。


 ――ただ、この手の輩は御しやすい。


 互いの利害が一致している間は基本的に味方だ。


 底が見えないのは怖いけど、優先すべきは共通目的。


 ジェノの命を天秤にかければ、大して重要じゃなかった。


「も、問題ありません。その提案は想定の範囲内です」


「いいね、君。戦時なら優秀な指揮官になっていたと思うよ」


 お世辞なのか本音なのか、ベズドナは右手を差し出す。


 ひとまず、交渉成立だ。いざこざもなく、乗り切った形。


 差し出された手を握れば、強固な利害関係で結ばれるはず。


 ――だけど。


「ご、ごめんなさい。男の人は苦手なので、握手はちょっと……」


 アザミは事実を告げ、丁重に断りを入れる。 


「へぇ、良いことを聞けた。おかげで注意事項を頭に入れておけるよ」


 彼はすぐに意図を察して、手を引っ込めている。


 弱点を握られたと見るか、情報共有できたと見るか。


 今はどっちか分からないけど、なるようにしかならない。


「さて、一致団結したところで、野営地攻略のための作戦会議といこうか」


 ベズドナは取り仕切り、建設的な会議が始まる。


 有能か無能か。ここで彼の実力は把握できそうだった。

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