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トリニティポータル  作者: 木山碧人
第八章 世界の終末

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第103話 重要参考人

挿絵(By みてみん)




 シュプリーム・コート・オブ・トルクメニスタン。


 首都アシガバートの南部に位置している、最高裁判所。


 そこで行われているのは、異端審問という名の茶番だった。


 元々は、首都郊外にある砂漠地帯での『意思衝突騒動』が発端。


 その犯人は、ダヴィデ、ミーナ、ソフィア、アンドレアの四名となる。


 ――しかし、嫌疑をかけられるのは白教の修道女イブ。


 途中で割って入ってきた部外者であり、騒動には関係がない。


 当事者目線だとイブの『白』は確定し、つまらない議論に思える。


 ただ問題は、思っているよりも複雑だ。様々な陰謀と事情が絡み合う。


 ――その舞台に上がろうとする重要参考人がいた。


 アメリカの諜報機関。超常現象対策局『ブラックスワン』局長。


 事件の鍵を握るとハッタリをかまして、悪魔側に保護させた人物。


 意識が戻るまで外敵から命と体を守らないといけない、直属の上司。


「ダンテ・アリギエーリの入廷を許可する。証言台に立ってもらおうか」


 進行役のクオリアの発言により、木造の両扉は開かれる。


 ここからが腕の見せどころ。異端審問における最大の難所。


 ハッタリだと悪魔側にバレれば、保護は解消し、均衡は崩壊。


 ダンテを狙うソフィアとアンドレアは、戦闘を開始するだろう。


 法廷には混沌が訪れ、恐らく悪魔と人類は戦争に突入するはずだ。


 ――それだけは避けないといけない。


 超常現象を対策する局の理念から大きく外れる。


 裏を返せば、調和の維持が組織の本懐と言えるだろう。


 そのためにも、意識不明の局長を上手く使わないといけない。


 恐らく、車椅子に乗ったダンテが証言台に立たされてからが本番だ。


「……なっ」


 しかし、目に飛び込んだのは、思わぬ光景だった。


 付き添う悪魔はおらず、予想していた車椅子は見えない。


 地に足をつき、大理石の床に敷かれる深紅の絨毯を踏みしめる。


「ここでいいか……?」


 証言台と思わしき法廷の中央付近に立ち、彼は言った。


 ごくごく自然な会話の流れであり、おかしなところはない。


 だが、決定的に違う。口調、表情、態度、風格、纏ったセンス。


 客観的な証拠にはならないものの、主観的な材料は全て揃っていた。


(第三王子ベクター。魂の乗り移りだけじゃなく、入れ替えも可能なのか)


 局長の能力と王位継承戦に参加した知見から、正体を察する。


 ダンテが持つ魔術書『神曲』は、恩を売った相手に乗り移る能力。


 砂漠地帯で恩を売ったベクターに乗り移り、ダンテの体は眠っていた。


 ベクターの体に二つの魂が共存する認識だったが、どうやら違ったらしい。


・乗り移り→体ベクター魂ダンテ(優位)&ベクター✕


・乗り移り→体ベクター魂ダンテ、体ダンテ魂ベクター〇


 ダンテの体はベクターが動かし、ベクターの体はダンテが動かす。


 互いの魂が入れ替わっている状態となり、想定外の事態を招いている。


「そこで構わないよ。……早速だが、本題に入らせてもらう。君は『意思衝突騒動』を間近で目撃した重要参考人だと聞いている。それは間違いないかな?」


 思考を整理している間にも、クオリアは話を進めていた。


 あらかじめ予想した筋書きからは、大きく外れた展開と言える。


(いや、それよりも問題はこっちだ。この場を乗り切らなければ……)


 視線を飛ばした先には、最前列に座るソフィアの後ろ姿。


 表情を伺うことはできないものの、殺害対象が前にいる状態。

 

 万が一の場合、悪魔が介入するだろうが、このままいけば危うい。


 重要参考人じゃないと認定されれば、即戦闘に発展する可能性がある。


 ベクターを信用するのは現実的じゃなく、介入するのが最も手堅い選択だ。


「…………」


 最後方の傍聴席に座るダヴィデは、静かに動き出す。


 肩に留まる銀色のフクロウを手に乗せ、臨戦態勢に入る。


 小声で詠唱を挟めば、ソフィアに気取られず、先手を取れる。


 そのための最後方。地形的有利を惜しみなく活用する算段だった。


 ――ただ、リスクはでかい。


 ある種の最終手段であり、失敗=戦争の図式は揺るがないだろう。


 肌が炙られるようなジリジリとした緊張感が走り、不安が増していく。


 それでも、ベクターに命運を託すことはできず、詠唱を開始しようとした。


(待てよ。これがもし、局長の計画通りだったら……)


 そこで脳裏に浮かんだのは、希望的な観測だった。


 明確な根拠はないものの、あってもおかしくはない一手。


「よしよし。いいところだから、静かにしてくれよ」


 ダヴィデはフクロウの頭を撫でて、介入を見送った。


「……」


 その様子を振り向いたソフィアが見てくるが、お前は眼中にない。


 局長が出した命令は『緊急時の戦術レベルな対応は個々に任せる』だ。


 最優先事項は、状況によって刻一刻と変わり、流れを読む力が求められる。


 ――今がまさにそれだ。


 状況は変わった。計画は通用しなかった。その先が肝心なんだ。


 奇襲を読んだつもりだろうが、ベクターは……いや、局長はその先を行く。


「重要参考人なのは間違いない……。だが、今の俺はダンテではない……」


「へぇ。だったら、聞かせてもらおうか。……君の名は?」


「イギリス王室所属、王位継承権第三位、ベクター・フォン・アーサー……。砂漠地帯で起きた『意思衝突騒動』のきっかけ……。火種そのものだ……」

 

 期待を寄せた男から紡がれたのは、有力な証言。


 『重要参考人』の名目は保たれ、命のバトンは繋がった。

 

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