第102話 茶番
異端審問。白教の修道女である私を見定めるために開かれた催し。
その舞台。最高裁判所内で言い放たれたのは、予想できた一言だった。
「意思衝突騒動の犯人、私だから」
傍聴席の最前列にいた緋色髪の黒級代理者は、事実を語る。
場の空気が凍り付いて、聴衆のどよめく声が嫌でも耳に入った。
異端審問の根底を覆すような話題に、一瞬で注目の的になっていた。
(この人、考え方が似てるな。同じ立場なら私でもそうする……)
被告人席に座る私は、冷静に状況を分析していた。
意思衝突騒動の発端は、彼女を含めた四名の戦闘行為。
異端審問が開かれたのは、『私がやった』と嘘を言ったせい。
白教と悪魔は和平交渉中だったのが、問題をややこしくしている。
悪魔側からしたら、白教側が起こしたテロ行為のようにも見える状況。
――彼女からすれば、とんだ茶番。
早めに終わらせて、争いを再開させたいはず。
罪を問われるリスクもあるだろうけど、被告は私。
彼女たち四名が主犯でも、お咎めなしの可能性が高い。
だから、彼女が『黒』と主張すれば、終わる話ではあった。
――ただ、今のところ根拠が乏しい。
まごうことなき真実だけど、客観的な証拠がない状態。
少し波風が立ったぐらいで、いくらでもやりようがあった。
「はいはいはーい! 反論しまーす! 証拠はあるんですかぁ?」
私は手を上げ、学級裁判のような茶番を繰り広げた。
異端審問と名はついているけど、今回は悪魔側が主催。
どこまで白教が介入するか。ラインを見極めるのが目的。
エリーゼ教皇が本気を出せば、一発で終わる話でもあった。
「調べてみればすぐに分かる。教皇の能力なら一発でしょ」
私と似通った思考回路を持つ彼女は、同じ結論に至っていた。
やりにくいったらありゃしない。嫌なところを的確に突いてくる。
本来の被告人の立場なら、強力な味方だけど、今回の場合は面倒な敵。
――だって私は『黒確』が欲しい。
白教徒が犯人となれば、悪魔との和平は破断する。
そうなれば、エリーゼは失墜し、イザベラ教皇√の爆誕。
ただ、教皇の能力を発動されれば、一発で負けるのもまた事実。
(傍観して教皇に任せるか……それとも……)
黒級代理者が繰り出す一手に、頭を悩ませる。
考える時間は少なく、手を打つタイミングは限られる。
運を天に任せてみるのもいいけど、勝利は自分の手で掴みたい。
「いや、そもそもさ。黒級代理者が所属する組織、『ブラックスワン』ってアメリカの公的な諜報機関だよね。許可は取った? 取ってないよね? なに堂々と国土侵入してんの? 意思衝突騒動も大事かもしれないけど、これって立派な国際問題だよね。そんなやつの黒宣言なんかスパイ活動の一環としか思えないんですけど」
私は論点をずらし、ヒステリー気味に押し通す。
論理的じゃなく、感情的。客観的じゃなく、主観的。
能力発動=終わりという図式は同じで、本質的じゃない。
議論する場では、一番のノイズになるのは頭で分かっていた。
――でも、ジャッジするのは教皇でも私でもない。
「スパイ活動か。一理あるね。悪魔と白教の和平を阻むのが狙いで、能力を持ち出してきた時点で、何らかの対策か共謀をしている恐れがある。もし、そこのスパイと教皇が裏で手を結んでいたら、僕たちの立場は危うくなるだろう。仮に能力で裏を取れたとしても、教皇の発言次第でいくらでも改竄可能だ。疑うのは失礼かもしれないが、能力のアリバイ証明は客観的な証拠にはならない。……と僕は判断しているが、教皇のご意見はどうかな?」
進行役のクオリアは、狙い通りの方向に舵を切る。
ヒステリーだと切り捨てず、前向きに議論を進めていた。
「異論なし。そのまま進めていいよ」
エリーゼは突っかかることなく、GOサインを出した。
これで能力発動は避けられ、一発アウトはなくなった形になる。
「……というわけだ。そこのスパイの『白黒』は一端保留として、前向きに議論を進ませてもらうよ」
クオリアは話を進め、傍聴席の後方に視線を飛ばす。
私と彼女のターンは終了。両者引き分けの結果で終わる。
次に注目を浴びるのは、恐らく私たちじゃない。別の関係者。
「ダヴィデ・アンダーソン。君も組織『ブラックスワン』の代理者だったね。事前に申請していた重要参考人をこちらで保護しているが、お呼びしても構わないかな?」
クオリアは目を細め、冷たい声音で問いかける。
恐らく、次に言いくるめないといけない、面倒な一手。
「あぁ、もちろん構わない」
ダヴィデは声音に一切の迷いなく、堂々と同意していた。




