55.救出
奥様は静かに扉の方を見て俺だと知ると驚きの声を上げる。
「もしかして、アレスなの?!」
「ハイ、奥様を救出しに来ました!」
俺は久々に会う奥様の状態を確認する。パジャマのようなドレスを着て、肌には傷跡が無い。だがその代り少しふくよかになって、特に胸が大きくなっているように見える。
健全な男子だと目をそらしてしまいそうだ。だが俺は変態弟子からハグされている上に、胸を押し付けているから少しぐらいは大丈夫だ。
俺は奥様についてある隷属首輪の機能を止めようとしたところ、奥様がいきなり胸を押し付けてきた。
「ムグッ!?」
久々の感触にドキリとしつつ興奮していると、奥様はアリスの方に興味を持つ。
「あら、この子はだれなの?」
「あ、えっと……私の名前はアリス・エレメンツです」
アリスはハッと我にかえって自己紹介をする。奥様はアリスの名目を聞くと俺を手放す。
俺はさっきので少し苦しかったから深呼吸する。その間に奥様はアリスと話す。
「あら、アリスちゃんはアレスの彼女さんかしら?」
「ハイ、アレスと私は恋仲なんです」
「アラアラ~いつもアレスからあなたの事を自慢していたわ」
「イエ、それは嬉しい事です」
アリスと奥様はこの戦場でも呑気に話している。やっぱりアリスって誰でも話しやすい性質なんだろうな、一年かけてトラウマが軽くなったお嬢様と初見なのに軽く話せるなんかになったからな。
だけど――。
『何だよこれ! 滅茶苦茶固いぞこれ!』
『誰か火炎魔法を使える奴か、戦斧を持って来い!』
『にしても下級魔術なのに固すぎだろ!』
塔の下からやって来た兵士たちが、今でも氷の壁を突き破らんと叩いている。
「奥様! アリス! お話の途中悪いけど、塔の下から兵士達が来ているので急いでください! マジで!」
俺は慌てながら二人の会話の中に入る。マジで時間が迫っているから会話は後でさせよう。
俺は奥様の首に着けられている隷属首輪に魔封じの輪を付ける。すると魔封じの輪が隷属首輪に溶け込んで、隷属首輪に南京錠のマークになる。
これで絶命の効果を封じられたけど、この首輪の他にも靴に束縛の呪文が刻まれて動きにくくなっている。
失礼かもしれないがこの状況だ。俺は奥様を抱えてアリスに指示する。
「奥様、失礼します! アリス、急いでガレキに目掛けて撃ってくれ!」
「分かったよ!」
「アラアラ」
アリスは元気よく答えてガレキに向けて〈20式小銃〉を撃つ、奥様はお姫様抱っこされた事で少し驚きつつも懐かしそうに話す。
「この感じ懐かしいわね……そう言えばガロンもこんなふうに――」
「奥様!」
俺は苦笑いで話をさえぎる。
この夫婦やっぱり仲がいいんだな。そう思っているとアリスが俺の方に向いて叫ぶ。
「準備ができたよ!」
俺はアリスの言葉を聞いて鉤爪の縄を床に深く刺し、腰に巻き付けて奥様に注意を呼び掛ける。
「奥様、少し掴んでくださいよ! オラッ!」
剛力で筋力を強化したらそのまま崩壊寸前のガレキに突っ込む。するとガレキは発泡スチロールのように崩れて、下にいる兵士たちに降り注ぎ、アリスも腰に縄を巻き付けたらついて行くように飛び降りる。
それと同時に兵士がやって来た、だが俺達はすでに奥様を救出しているの見た兵士達は下にいるのを共に叫び声を上げる。
「「グワーッ!?」」
「「何ィィィ!?」」
兵士達は俺達が下に飛び降りた事に驚いている。だが鉤爪の縄に隠蔽をかけている事で、敵に見えずに降りる事ができる。
しかし下にはガレキの雨を避けた兵士たちがいて、俺達に魔法弾を放とうとしている。だがこっちは純吸血鬼や吸血鬼に対する武器を用意してある。
「奥様、少しだけ息を止めてください!」
俺は叫びながら腰に着けてある手榴弾を取ると、安全ピンを外して下にいる兵士たちに向けて投げる。
手榴弾は地面に着いたと同時に辺り一面に爆発する。
「「グァァァァ!」」
兵士達は叫び声を上げる。死なせないように調整しているが、しばらくの間は動けないようにしたし、それに――。
「ウグゥ……!」
「何だと……これ!」
「もしかして……銀粉か!?」
一人の兵士の言う通り、この手榴弾には爆薬と共に多少の銀粉を含ませている。
手榴弾が爆発したと同時に離れていても、吸血鬼ならこれを吸ったら猛毒ガスを吸い込んだような苦しみを味わうだろう。
本当はあの兄弟に使うなんては秘密だ。そうして俺とアリスは口に布を巻いて、奥様は口や鼻を抑えている上に、息を止めているため銀粉の日が撃を食らわずにいる。
そして兵士たちが悶え苦しんでいる間に、俊敏で速度を上げて森に向かって走る。
よし、これでミッションコンプリートだ! そう思っているとアリスが声を荒げながら前に出る。
「ッ――止まって! 無盾!」
アリスは無盾を五枚展開すると、森から闇の矢が飛んできて無盾を破壊する。
誰だ!? 森から撃って来たから分からなかったけど、もしアリスが無盾を展開しなければ俺と奥様はお陀仏だったろう。
それにこの矢の気配、どこかで感じたような?
そう思っていると一人の狼人が森から出てきて、俺はその姿を見て驚愕する。狼人は感心しながらこちらにやって来る。
「魔像や機動鎧を創って騒ぎを起こすのは中々良い戦い方だ。だが熟練者からすれば演技しすぎているように見えているぞ……アレス」
俺は驚きつつもその狼人にいう。
「まさかアンタがあの兄弟の味方になるなんて……ウォーロックさん!」
俺は懐かしい教官の名前を叫ぶ。そこにいたのは俺に戦い方を教えてくれたウォーロックさんが敵陣にいた。
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