42.苦しみと祝い
一体どうしたんだ? そう思いながら落ち着かせようと、声をかけると通行人の男は、懐かしそうにお嬢様に話しかける。
「おやおや、これはレノン嬢ではないか?」
「アァ……」
するとお嬢様は通行人に脅えてしまう。
俺は危険な空気を察して、俺はお嬢様の前に立って、通行人に聞く。
「ちょっと待ってください! いきなりなんですか?」
「何だ、貴様は? 関係ない奴は引っ込んでろ」
「関係なくありません、俺はレノン嬢のお世話係です」
そう言うと通行人は腹を抱えて爆笑した、俺は何か変な事を言ったのか?
首を傾げながら思うと、通行人はお嬢様に指を指しながら言いつける。
「ダッハハハハハ! こんな落ちこぼれのお世話係を着けさせるなんて、ガロンの奴はどこまでも愚かだな!」
「何だと?」
俺は通行人の言い分を聞いてものすごく怒りを感じる。
コイツ、お嬢様だけじゃなく旦那様もバカにしやがって……!
俺は通行人に一発食らわせようとすると、後ろからもう一人現れる。
「兄者よ、どうしたのですか?」
「弟よ、この小僧がぶつかってきたが、落ちこぼれ少女もあったんだ」
「そうですか……」
弟と呼ばれた男はやせ細って、兄者と呼ばれた男は反対にふくよかな体格をしているが、どちらも俺とお嬢様をかなり見下していた。
こいつらどうして俺たちの事を知っているんだ? まるで調べたかのようだった。
その時にウォーロックさんが俺達の前に現れる。
「レヴァン殿にレヴィン殿、ここで騒ぎを起こすのは止めていただきたい」
ウォーロックさんが謎の兄弟を落ち着かせようとする、だがその兄弟はめんどくさそうに言う。
「ウォーロックよ、なぜお前が奴隷級二人をかばう?」
「そうだぞ! 汚らしいものをかばうなんて、どうかしているぞ!」
「ですが『あまり娘と関わるのやめて欲しい』と言われたのでは?」
「ッ――!」
ふくよかな男は舌打ちをして、やせ細っている男は苦虫をかみ潰したようにしていると、またしても後ろから誰かがやって来る。
やってきた奴は男で、筋骨隆々でさわやかな青年だが、なぜかレヴァンとレヴィンみたいな目線を感じる。
すると青年はレヴァンとレヴィンに近づく。
「お父様にレヴィン小父様どうしたのですか? こんな場所で立ち話を?」
「おお、アイヴァン。ちょうどレノン嬢と奴隷級のお世話係に出会ったんだよ」
「へぇ……」
アイヴァンと呼ばれた青年はそう呟きながら、お嬢様に近づいて行く。
するといきなりお嬢様の頬を強くつかんで言う。
「こんな血の持ち腐れの子を世話するなんて、俺の愛玩具として――」
俺はコイツの言った事に切れて、そのまま強く頬を殴りつけた。
アイヴァンは少し揺らいだが、倒れずにそのまま俺を睨みつけ、俺の襟首をつかむ。
「いきなり何するんだ? 雑魚の奴隷級が……!」
「いきなりはそっちだろ? お嬢様だけじゃなく旦那様をバカにしやがって……何様のつもりなんだよ!」
俺は今までの言葉で切れて殴ってしまった、だがお嬢様だけじゃなく旦那様をバカにするなら、相手が何だろうと許さない。
アイヴァンは俺に手を向けて詠唱する。
『火の根源よ。今一度、灼熱の――』
俺はコイツのやろうとしている事を察して、俺は急いで無盾を発動しようとした時に俺達の目の前にカイン様が現れる。
「カイン様!? どうしてここに?」
「説明は後だ! とにかくこの場から去るぞ!」
カイン様はそう言うと、懐から謎の玉を地面に叩きつける。
すると一気に煙が噴き出してきて、目の前は真っ白になってくる。
カイン様は俺とお嬢様を担いで、ウォーロックさんとこの場から去る。
▲▽▲▽▲▽
俺とお嬢様はカイン様が手配した馬車に乗って、屋敷にかえるときに教えてくれた。
レヴィンとレヴァンは旦那様と同じ純吸血鬼で、その上旦那様の兄弟だと言う。
旦那様に兄弟がいたのは驚きだが、全然似てない方も驚きだ。
そいつらは旦那様の事を、目の敵にしていて一度、本家と戦争する事になった。
本家は総勢一万人に対して、旦那様達を含めて百人だが、そんな数を軽く圧勝した。
理由は二つあって、一つ目は精鋭を集めた集団で、もう一つは皇帝級の肩書を持つ旦那様の存在だ。
戦争に負けたレヴィンとレヴァンは無罪放免になった、それは旦那様が『とても楽しかったぞ! ただもう少し鍛えたほうがよろしいな』と言ったから。
あまりの可笑しさに奥様も笑ってしまうほどだ。
それかなり大丈夫なのか? あいつ等全然反省している様子じゃなかったぞ。
そう思いながらお嬢様を心配していると、カイン様が警告する。
「良いかアレス? お前はまだ知らない事がある、あまり危険な連中に、喧嘩を売るようなことは、しないようにしろ。じゃないと自分の首を絞める事になるからな」
「分かりました……」
そう答えると、お嬢様がいきなり俺に抱き着いてくる。
俺はドキッとしたが、お嬢様の瞳には一粒の涙が流れていた。
お嬢様は俺の腕を強くつかんで言う。
「アレスさん……私を救ってありがとうございます」
「いえ、俺はお世話係として守っただけです」
「できれば……屋敷に着くまでこのままにして欲しいです」
「そんなのお安い御用です」
そう言うと、お嬢様は安心したか目を閉じて眠る、それにしてもアイヴァン、アイツはなぜか俺と同じ感じをした。
なんといえばいいか分からないが、魂が似ているのか? それになぜかとても嫌な予感がするが、これは気のせいであって欲しい。
その後は屋敷について、お嬢様を部屋に連れた後にこの事を話した、旦那様と奥様は呑気に笑っていたが、肌で感じる通りかなり怒髪天を通り越していた。
証拠にフォルトさんとシャロンさんが冷や汗をかいていた。
▲▽▲▽▲▽
あれから一週間が経って今はお嬢様の誕生日を祝っている。
お嬢様はかなり喜んでいて、俺が腕を振るって作ったスイーツを食べた皆は、とても舌鼓を打った。
お嬢様が喜んでいる姿を見て、俺もとても喜ばしいが、楽しい時間は早く進み終わりに近くなると、お嬢様は顔を真っ赤にして箱を持っていた。
「あの……これは今までのお礼で受け取ってください」
何だろうと思いながらそれを受け取って開ける、すると中に入っていたのは昔俺が使っていた魔導手袋だった。
これをどうやって手に入れたんだ!?
そう思いながら聞くと、どうやら俺の話を聞いてお礼として、取り戻したのだった。
俺はあまりの喜びで一粒の涙を流してお礼を言う。
「ありがとうございます、家宝して大事にします!」
「そんなの大袈裟ですよ」
お嬢様は口を隠して笑っている、今まで怯える事しか出来なかった少女が、こんな笑みを浮かべて俺も苦労したかいがあったな。
そう思っていると、ウォーロックさんが何かを投げてきた、それを受け止めてみると、獣の牙出来た武骨のアクセサリーだ。
なんでこのアクセサリーをくれたのだろうと思っていると、ウォーロックさんはこのアクセサリーを教える。
「これは一族が信頼した者に授けるものだ、もしお嬢様の身に危険が迫ったならお前が守ってくれ……!」
「……ハイ!」
俺はウォーロックさんの願いに恥じない様に強く答える。
だがその後にとんでもない事が起きる事をまだ知らなかった。
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