28.旅立ち
「……俺がすることは冒険者になる事です。理由は人助けをしたいからです。」
俺がそう言うとリーベット先生が微笑む。
「フフ、そうですか……」
リーベット先生は、そう言うと「そろそろ降りたほうが良いですよ」と言って一応俺達は下山して村に戻る、すると大人たちはいっせいに祝福する。
「オオ、まさかこの村の英雄と王族級の子が結ばれるなんて……今日は祝杯だ!」
「誰か赤パン持ってこーい!」
多分、某双生の錬金術師がこういうだろう〈勘のいい奴は嫌いだ〉ってね。
てか、何で瞬時に知っているんだよ!? 情報網凄すぎない!?
もしかして……。そう思いながらヴィンセントの方を向くと、当の本人は目を合わせない様にあさっての方を向いている。
やっぱり、出来れば少し落ち着いた後にしてくれよ! 心の中で叫んでも意味はないと思いながら呆れていると、ルイさんが大人達を落ち着かせる。
「落ち着きなよ、二人もいきなりの事で驚いているから、祝杯は別の日にしておこうよ」
ルイさんがそう言うと、大人達は徐々に落ち着き始める。
「マァ……確かに」
「いきなり祝杯だって言われても理解できないよな……」
「それじゃあ、別の日にするか……」
「「そうだな」」
そう言うと大人達は元の持ち場に戻っていく。
た、助かった……。ルイさんがいなかったら、この場を収める事ができなかっただろう。
そう思いながらも、孤児院に戻る。
ルイさんは「他の場所で復興作業を手伝う」と言って別の場所に向かった。
俺達とリーベット先生は孤児委員の部屋に入って向かい合う。
俺とアリスはリーベット先生の前に座って、ヴィンセントは壁に寄り添って俺達を見る。
なぜか三者面談に見えるのは俺だけだろうか? そう思うとリーベット先生は冒険者について質問してくる。
「アレス君、冒険者というものは何だと思いますか?」
「それは不浄人形の討伐や護衛などを受ける人たちの事ですよね?」
俺がそう答えるとリーベット先生は頷く。
「ハイ、アレス君が言った通り〈冒険者〉は魔力量ではなく実力を中心に選定されます」
リーベット先生はそう言って、淡々と説明する。
冒険者は分かりやすく言えば、魔法をある程度使わずに技術だけ戦う人たちの事であり、魔術師と協力する事もある。
冒険者になるにはある程度実力が必要で、剣術大会で好成績を収めたり、魔術師学校を卒業したり、推薦を受けたりすることだ。
その話を聞いて俺は少し唸る。
ムムム、実力はある程度あるが、剣術大会に出て無いし、魔術師学校の入学は今からやっても奴隷級だから合格は無理に等しい。
どうやって冒険者になればいいか迷っている時にリーベット先生が助言する。
「そこについては、ルイさんが行ってくれますから安心してください」
そう言うと、俺は安心して胸を撫で下ろす。
良かった……あの人がいなかったらかなり難しい事だからな、そう言えば幼い時からルイさんに世話されているな。
ルイさんは俺にとって恩人だな、魔鉄鉛をくれなかったら剣術を中心にしていただろう。
なんて思っているとリーベット先生が大事な事を言う。
「今から大事な事を言いますのでよく聞いてください、最初に弱い者いじめをしてはいけません」
それについては、いつも言われている事だから大丈夫だ。
次は何だろうと思っていると、リーベット先生は顔を赤く染めながら言う。
「次はえっと……その、そう言うのはちゃんと手順を終えてからしてくださいよ?」
リーベット先生が顔を赤く染まりながら言う事は、絶対十八禁の事だろう。
俺は声が強張ってしまうが、叫びながら否定する。
「ハァァァァァ!? そんなことはしませんよ!」
俺が叫んで否定している時に、アリスは首を傾げている。
「それに、女の子をエッチな目で見ない事」
その言葉に俺の心は会心の一撃が入ったように感じる、少し引きつりながら目をそらして答える。
「アハハ、一体何の事でしょうか……?」
少しだけ記憶が無い振りをする、しかしアリスとリーベット先生がジト目でこっちを見ながら言う。
「うそおっしゃい、女の子の胸やおしりをよく見ていましたよね? 特に夏場の時とか」
「てっきりわざとかと思っていたよ」
「ハ、ハハハ……」
俺は冷や汗で笑っているが、心の中は焦っている。ヴィンセントの方を見ると笑いを堪えながらくるまっていた。
俺は観念して額に床をこすりつけて謝罪する。
「申し訳ございませんでしたー!」
額が赤くなるほどこすりつけると、ヴィンセントが呆れながら止めさせる。
「さすがに笑い過ぎたから止めなよ」
俺が土下座を止めると、リーベット先生が注意する。
「年頃の女の子は異性の目に敏感ですから、隠れエッチな性格は直して方が良いですよ」
「ハイ、分かりました……」
「後それから――」
まだあるのか!? 俺は心の中で身構えていると、リーベット先生が微笑んで言う。
「後悔せずに幸せになってください」
そう言うと俺とアリスは笑顔で答える。
「「……ハイ」」
会話が終えると俺達は作業の続きをして就寝する。
そして俺がアリスと付き合ってから数日が経ったある日、まだ早朝なのに門前には大人達がいた。
アリスは大粒の涙を流しながら俺に抱きついていた、その様子を見たルイさんは少し呆れていた。
「オイオイ、いくら泣いても行かなきゃダメだろ?」
「ウゥ、でもぉ……」
しかしアリスはまだ俺に抱き着いていた。
よほど離れるのは嫌なんだろう、だけど俺はアリスの肩を叩いて言う。
「魔術師学校を卒業するのは二~三年くらいだろ? それにルイさんやヴィンセントを待たすのは良くないだろ?」
「ウゥ……」
「それに俺はアリスとヴィンセントが卒業するまで待つぜ。俺達は仲間だからな」
俺がそう言うと、アリスは涙を拭きとって言う。
「うん、そうだね。でも他の人に負けないでよ!」
「オウヨ!」
アリスはそう言って、馬車に乗るとルイさんが手綱をもって馬を走らせる。
馬車が動くと、門前から徐々に離れて行く。
するとアリスが馬車から出てヴィンセントが倒れぬように支える。
アリスは両手をメガホン代わりにして叫ぶ。
「アレス! あの時私を助けてくれてありがとー!」
俺は少しだけ笑みをこぼすと、大声で叫び返す。
「アリス! 辛かったら一人だけ抱える癖は直せよー!」
「……ウン!」
アリスは満面の笑みで返し、ヴィンセントは呆れつつも俺とアリスを祝福しているように見えた。
その後は必要な物をまとめて、裏山の小屋に残ってある魔鉄鉛を回収し終えたら夜になっていた。
忘れ物が無いかチェックしている時にふと思った。
そう言えばあの日も夜だったな、転生してから数年経っているけど、昼飯は大丈夫か?
なんて思っているとリーベット先生がやってきて質問する。
「良いのですか? こんな夜に一人で行くなんて」
「すみませんが、俺は目立つのは少し苦手なので」
「そうですか……」
リーベット先生がそう言うと最後の助言を言う。
「アレス君、君がどれだけ困難に合っても決してあきらめないでください」
「……ハイ!」
俺はそう答えて馬に颯爽と乗って旅団集落キャラバンに向かって走り出す。
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