第6話 訓練なの~~
☆☆☆王宮謁見の間
「この痴れ者めらが!!!」
「「「ヒィ」」」
・・・王宮で父上の怒号、今日はいつもより大きい。無理もない。我が弟、第三王子のジャステンが、婚約者の妹を断罪し、追放したと判明したのだ。
しかも、貴族籍を抜けさせたことが、義姉上エリザベス様の報告により分かった。
私は第2王子のマークガレ、遠征中の兄上の代わりに、父上の側に侍る。
演劇なら良いだろう。しかし、実際は、10歳の幼子を、商会に放り投げた。名目の商会長にして、破産させるのだろう。
債権者の怒号を浴びせ。平民の使用人たちに、侮蔑の目を向けられる。貴族の令嬢では耐えがたいはずだ。
「ほお、メアリー嬢が、ジャステンに、色目を使った?10歳の女児が?なら、軽くいなせば良かったではないか?女児なら、年上の男子に憧れることもあるだろう。
お前に憧れる令嬢は、恋愛小説に浮かれるオリビア嬢と、その取り巻きぐらいだろうがな」
「しかし、おねだりをして、伯爵家の財政を傾けたのですよ」
「ほお、マーク、説明してやれ」
「御意、陛下」
「ジャスよ・・・王族費の国庫に占める割合は、いかほどか調べてあるか?」
「半分くらいでしょうか?」
「・・・・国費の3パーセントだ。そして、王宮執事長の給与は金貨120枚(1200万円)だ。
諸々合わせて、父上と母上は金貨5000枚(5億円)の予算、兄上と義姉上は、金貨1200枚(1億2000万円)そして、私は独身なので金貨500枚(5000万円)、お前は婚約者予算がついて、金貨800枚(8000万円)だ・・・意味分かるか?」
「いえ・・・」
「つまりだ。国庫中、3パーセントの王族費の中で、更に、低い数字が、我ら、王族に割り振られているのだ。決して、ないがしろにしていい数字ではないが、
贅沢をしてもたかがしれているのだ。財政とはそうなっている。領地持ちの貴族の割合はだいたい同じだ。
10歳の幼子の言うとおり。ドレスを買い与えたと?領地経営費も欲しがったのか?
それで、家を危うくしたのなら、ローゼン伯は、貴族当主失格である・・・と私なら、断定する」
・・・若輩者の私に、得々と、諭され。メアリーの父母は何も言い返せずに、第三王子ジャステン、オリビアとともに王宮を後にした。
これはもうダメだ。
その後、執務室でメアリー嬢の対策会議を行った。
☆
「ローゼン伯は、どうやら、あちこちに投資をして、財政を危うくしたようだ。さすがに、実家に返すわけにはいかない。どこか、子育ての経験豊富な家門に、養子にするべきだな。皆はどう思う?」
・・・それしかないだろう。よくあるお家騒動だ。
しかし、義姉上が異議を申し出た。
「もう少し、様子を見させて下さいませ。商業が発展し、無軌道な経済戦争が起きておりますわ。法整備も急いでおりますが、何かが足りないのです」
「ほお、メアリー嬢の追放先は、確か。駅馬車商会だったな」
「その何かを持っているような気がします。あの子、侯爵家に独りで乗り込んだのですわ。それも、部下のために・・」
「憐憫で、義妹にしたと思っていたが、そうか。まるで、ブラウン将軍のようだな」
「父をお褒め頂き恐縮にございます」
・・・ほお、面白い。女傑か。10歳で??
そうか。ゴールデンロール侯爵家の令嬢との婚約が流れたのは、メアリー嬢のおかげと言うのは本当か。義姉上が、主犯だと思ったが、彼女のおかげで断る口実ができたのだな。
法整備は私の職分だ。リトルアキバで、転生者たちから教えを請うているが・・・
どうも、商業が発展した未来がイメージできない。
なので、メアリー商会を見に行くことにした。
・・・まずは調査だ。商業ギルドで事情を知っている者がいるかもしれない。
☆☆☆商業ギルド
ザワザワザワ~~~~~
「メアリー商会の予約をさせてくれ」
「債権を買いたいが、売りに出てないか?」
「お客様、メアリー商会の駅馬車は本日予約満員でございます。数日、お待ち頂くことになります」
大人気だな。理由を聞こう。
「そりゃー、事故率0だよ。ゴブリンの襲撃があっても大丈夫だよ」
「だけど、本数を減らしているから、順番待ちだ」
「王国物流は?」
「ありゃ、貴族か。官吏しか乗れないだろう」
「そうそう。それでも、この前、襲撃されて負傷者が出たって」
・・・そうか。非常事態には、民間人も乗せるように、陛下に奏上だ。
そして、
メアリー商会に行ったが・・・・
何だ。あのヒラヒラのドレスで、熊のヌイグルミを抱えている女児は?あれが、メアリー嬢か?
「訓練なの~~~~、ゴブリンが来たの~~~~ガオ~~~~なの~~~」
「「「お客様、ゴブリンの襲撃です!顔を伏せて下さい。スピードを上げます!」」」
「次にやるのは~~~~~~~」
「「「信号弾!プシュ~~~~~」」」
「次は~~~~」
「「「「ツーツツ・ツン・ツツツツ・・・・ゴブリン襲撃あり。いつ、どこで、ゴブリンが、何匹、装備は!」」」
中庭で訓練か?網が被った駅馬車が置いてある。見物人もいる。
「クスクスクス、何だあれは?馬鹿?」
「おい、黙っていろ!」
「そうだ!あれで助かったんだよ。俺の母ちゃん」
「ヒィ、どうかしているぜ」
「みんな、よい子なの~~~~~次は、トム先生のお話なの~~~、ゴブリンから逃げた体験談をするの~~~~」
「グスン、俺、行き先間違えたけど、メアリー様が、クビにしないでくれたから、頑張って」
「前置きはいいの~~~~」
ペシ!ペシ!
「「「アハハハハハハ」」」
「トム、いいぞ。もう、立派な御者だ!」
近くで見物していた者に事情を聞いた。
「そこの方、この訓練はいつからやっていますか?」
「はあ、御御足で踏んでくれないかな」
・・・何だ。こいつ。
聞けば、商会の債権者で、メアリー嬢のファンらしい。トーマスという投資家だ。
「本数を減らしたから、余剰人員で、二人一組で乗っている。一人が魔道通信士、客室に指示とか出す役だ。あまり、乗せるとスピードが落ちるからな。護衛が一人屋根に乗って、警戒だ」
・・・なるほど、
「でも、収益は落ちないか?債権者としては文句も言いたくなるだろう。運行100台の内2台の損失の計算でも、元は取れるのではないか?多くの商会がその考えだ」
「はあ、あんた。ゴブリン注意報の中で、都市間を移動しなければ、飯を食えない人、大勢いるんだよ。
帳簿上、一台損失でも、それに、あんたの彼女が乗っていたら、どう思う?」
変態に、返す言葉がない。
この男に頼み。債権者集会に参加させてもらうことにした。
「何じゃ、お仲間か?!よし、債権購入希望者で会場に連れて行ってやる」
「有難い」
☆☆☆債権者集会
ケン・コバヤシという者が、財務状況を説明する。親が転移者だそうだ。
「・・・以上の事から、本数を減らしました。予約待ちの状況ですが、収益は減りました。財務・調達担当者として宣言します。このまま続けば利息の支払いは、デフォルトになります」
「・・・ごめんなちゃいなの。利息、払えないのかもなの~~~~~」
ペコ!
「いいぜ。これは仕方ない。日を延ばそうか?」
「ああ、それよりも、追加で融資しようか?」
「叱って下さい」
「これ以上、借りたら、更に返せなくなるの~~~」
「他で借りられるよりもいいさ」
「でも、運転資金はあるのだろう?」
「あのペシペシをして下さい」
意地悪を言ってみた。
「それなら、使用人の給金を減らせば良かったのではないか?」
シーーーーーーーン
「馬鹿か?お前、メアリー様の役員報酬を見たか?銀貨36枚(36万円)それも、ケリーさんに預けて、お小遣い制だぞ」
・・・誰だよ。ケリーって?役員報酬?聞き慣れない。給金まで公開しているのか?
「前のオリビア様は、銀貨200枚だ。財政破綻待ったなしの時に」
「最年長のクロウが銀貨35枚、さすがに、使用人よりも低かったら、それは筋が違うからと、皆、意見をしたのさ」
何か違う。ビジネスは情が入りすぎてはいけないものではないのか?
皆、メアリー嬢を自分の子供のように見ている。
愛玩人形か?
義姉上は何を感じたのだろう。さっぱり分からない。
「この人の言うことは正しいの~~~~~、だけど、総反攻作戦するの~~~~、士気をあげるために、お給金は据え置きなの~~~~
戦略を練るのは~~~メアリーの仕事なの~~~」
「「「オオオオオオオオオオーーーーー」」」
「詳しく・・・」
「って、お前誰だよ」
「債権者じゃないな」
「ああ、ワシの変態仲間だ」
「はあ?」
トーマスめ。仲間って、変態の意味か?自覚あるのか?
その時、従者が呼びに来た。
(マーク様、お時間です。商務卿との面会に間に合わなくなります」
「そうか・・・」
話を聞けなかった。まだ、判断するのは早計だと、心が訴える。
後ろ髪を引かれる思いで、会場を後にした。
最後までお読み頂き有難うございました。