第3話 お客様は神様じゃないの~~
☆☆☆メアリー商会駅馬車基地
「もうだめだ。オリビア様の妹、わがまま令嬢が新商会長だと!しかも幼女だ」
「オリビア様も引っかき回したけど、逆に考えるんだ。執務室でヌイグルミと遊んでくれたら、逆に良くないか?」
「そうだな。口を出さなければいいか」
「オジさんたち、初めまちてなの~~~~」
「「「ギャアアアーーーー」」」
「来た~~~~~~」
戦略は決まっている。お姉様が買い集めた駅馬車は、型式や色が様々だ。それはいい。
しかし、塗装がはげかかっている馬車が散見される。
きたる破産の日にむけて、少しでも高く売ろう。
塗装を塗り直してもらうのだ。
「馬車、汚いの~~、ペンキ塗るの~~~~」
「はあ?お嬢様、資材は?」
「忙しいから無理ですね」
「そー、そー、現場に出たら、そのヒラヒラのドレス、汚れますよ」
やはり、聞いてくれないか?
なら、仕方ない。
歌って見せよう。欲しがり妹の唄。
こちとら、伊達におしがり妹として生きていない。年季をみせてやる。
ドンドンドン!
地団駄を踏み、
金きり声をあげる。
「ウワ~~~ン!やーなの!汚い馬車や~なの~~~~!綺麗な馬車が欲し~~~~の!
淡い茶色に塗るの!統一するの~~~~~、綺麗な馬車がいいの~~~~
でないと、貴族院に告発して、令嬢に対する不敬罪として、ぬっ殺してもらうの~~~~~!チンを出して、ヘラヘラ笑っていたと言うの~~~~
今、辞めても、紹介状に、チンを出してヘラヘラして笑っていたと書くの~~~~
辞めたければ、馬車を綺麗にしてから、辞めるの~~~~~」
「ヒドイ!オリビア様以上に滅茶苦茶だ!」
「客は気にしてはいませんよ」
「そんなーーーーーーーー家族がいるのに」
「ウワ~~~~~~ン、ウワ~~~~ン、綺麗な馬車が欲し~~~の!」
プィと踵を返して、本部に戻った。
「ケン、資材調達するの~~~この前の手付け金から、茶色のペンキと資材を調達するの~~~」
「畏まりました」
「クロウさんは運行表を持ってくるの~~~~一緒に、調整するの~~~~」
「はい」
色を茶色に統一するのは、馬車ごとに色が違うと、ややこしい。資材を一括購入できて、お安くなるかもしれない。
塗りやすいように、馬車の運行を調整して時間を作る。
これで、塗らなければ、使用人達の責任だ。
解雇できるぜ!
と思ったが、命令通りやりやがった。
「俺も、塗装がはげているのは、どうかと思っていたぜ」
「だな。資材も届いたぜ」
「しかも、運行が調整されている。まさか、あの幼女がやったのか?オリビア様とは何か違うかも」
「まさか、偶然だろう」
「「「アハハハハハハ」」」
・・・チィ、それなら、就業規則違反だ。
どうせ、この商会は破産する。
なら、早めに退職させるのが幸せってものだ。
「クロウさん。マニュアルを持ってくるの~~~~」
「はい、ただいま」
ドン!
「何なの~~、これ?」
うわ。机に山と積まれた。
これは、お姉様が作ったもの。さすが才媛と評判なのは伊達じゃない。
もしかして、アメリカの某ファーストフードチェーンみたいに、出来もしないマニュアルを作って、何かあったら、マニュアルに書いてあるでしょうと、従業員に責任を押しつける戦略か?
それもいいな。とりあえず読んでみよう。
どれどれ、まず。書類の折り目の付け方は・・・・・
「いらん!」
なので、使用人達の前で燃やした。
ボオオオオオオオオオオオーーーーーー
「おイモ焼くの~~~~串焼き持って来たの~~~~~~」
「「「ギャアアアアア」」」
「ヒィ、メアリー様!オリビア様の作ったマニュアルを・・・」
「それでは、私たちはどうやって、業務をすればいいのですか?」
「顧客対応は難しいですよ・・・・」
「これなの~~~、お芋を食べながら見るの~~~~ケリーがお塩をもっているの~~~」
モグモグモグ~~~~
「これは、安全と、緊急事態と、後は簡単な業務の進め方だけ・・・」
「では、面倒なお客様の対応は・・・」
「良識で判断するの~~~~~!迷ったら、リーダーに相談するの~~~!リーダーは迷ったら、メアリーに相談するの~~~~」
幸いお姉様は魔道通信を駅馬車に装備していた。あれだ。口を出すために用意した。
南北戦争時の北軍か??
兵の配置まで、ワシントンに電報を打って、お伺いを立てる?イメージか?
だから、それを簡略したのだ。
「あの、私は、総支配人は・・・」
「リーダーが対処できなかったら、商会長判断なの~~~、クロウは慌てて、事案を報告する係なの~~~~一緒に、うんうん悩むの~~~」
「ヒィ、なんでまた」
「即決なの~~~~三審制なの~~~~」
「皆、よい子なの~~~~~自信を持つの~~~~~」
数百にも及ぶ事案対処など暗記できるわけがない。
と思ってこの指示を出した。
「マニュアルに権限のガイドラインが書いてあるの~~~~、御者は、馬車内の治安を守る一切の権限を付与したの~~~~!内勤者は、予約のお客様の席を配車する権限なの~~」
「しかし、前例がありません」
「やーなの!このマニュアルでやってきれなきゃ、やーなの!皆、よい子になってくれなきゃ、やーなの!」
「まあ、やってみるか」
「あの膨大なマニュアル邪魔になったし」
「いちいち見るの面倒だったんだ」
しかし、権限を与えたことで、使用人達は斜め上の行動を取る結果になった。
☆☆☆メアリー駅馬車運行中
ガバ!
「ヒィ」
「おい、馬車内で、親子でフードを被っていると思ったら、獣混じりか?」
「ミャー、ミャー、ママの耳、掴まないで~」
「獣混じり!がワシの隣の席?準男爵であるぞ!馬車を止めろ!降りろ」
「申し訳ございません。申し訳ございません。どうかこのまま乗せて下さい」
「ミャー、ミャー、ママを虐めないで!」
「ああ、クソガキ!」
「ミミーや、我慢おし、グスン、グスン」
「ドウドウ」
「ヒヒ~~ン」
馬車は止り。御者が客室に来た。事情を聞く。新体制での初めての事案対応である。
「おう、この商会は獣混じりを乗せるのか?俺は準男爵だ。獣混じりを下ろさせろや」
「・・・降りるのは、貴方様です。当商会は、料金をお支払い頂いた方で、泥酔者や、著しく不潔な方以外はお客様として対応させて頂いております」
「はん!平民が!商会長に苦情を言うぞ!」
「とにかく、貴方がプライペートの馬車で獣人族の方を乗せないのは自由、ここは公共の馬車です。許されません。
この方に謝罪をして下さい。でなければ、車内の治安を守る責任者として、降車を命じます」
「何を!」
「おい、親父、さっさと決めろ。こっちは急いでいるんだ」
「僕もそう思う」
「クゥ、悪かった」
「では、こちらのお客様がご不快に思われるでしょう。誰か席の交代をお願いします」
「はい!はい!あたい、大丈夫だよ。冒険者仲間にウルフ族いるから、慣れているよ」
「おう、準男爵様、俺の隣だ。プライペート馬車、用意できるようになればいいな」
「クゥ」
パチパチパチパチ!
この準男爵は、岩石のような厳つい冒険者の隣の席に移動になり。
そして、我が商会にやってきた。
「ここの教育はどうなっている!私は準男爵だぞ!」
「私は~伯爵家なの~~~~」
「はあ、こんな子供が、商会長で伯爵家だと!」
「メアリーは、伯爵令嬢なの~~~~」
「理不尽なクレームはやーなの~!準男爵の家に乱入して、地団駄踏んで我が儘言うの!
家小さいの~~~の、一代限りの貴族の家はや~~~なの、お前の家族に出て行けと言うの~~~」
「何故、お前が、私の家に来て、家族を馬鹿にする・・・お前の所の馬車、使ってやらんぞ!」
(何だ。ワシはこの我が儘令嬢と同じ事をしていたのか?)
「使わなくていいの~~~~お客様は神様じゃないの~~人族なの~~~バイバイなの~~~」
捨て台詞をはいて、このまま去った。
王国に寄付をすればもらえる一代限りの準男爵だろう。
この件はこれですんだ。
「御者はケビンです。如何されますか?」
「どうもしないの~~メアリー通信にこの事例を書いておくの~~~、この対応はOKって知らしめるの~~~」
あったな。会社の新入社員の研修で寺に行ったら、住職がこんな講話をしていた。
『実は、善を行うのは易いのです。皆、悪いことをするよりも、善いことをしたがるものです。そして、善は伝播する性質があるのです。児童福祉施設に劇画のジャガーマスクの名前を使い。寄付をすることが流行しました・・・』
・・・・・・
使用人達が、神対応を始めやがった。精算のやりづらくなったな。
この商会の利用層は、平民から下位貴族まで、伯爵家の名で何とかなるだろう。
幸いまだ貴族籍は抜けていない。
実家に苦情が向かっても、それは好都合だ。知ったことじゃない。
☆☆☆メアリー商会営業所
「え、メアリー様・・ケビンの行動を是とした?」
「それどころか。苦情を言いに来た準男爵を追い返したそうだ」
「オリビア様なら、貴族の言うとおりにしろと言っていたな」
「お客様は神様?精霊様じゃない。人族だって喝破したそうだ」
「当たり前じゃないか?いや、何故、今まで、忘れていたのだろう・・」
「・・・少し、頑張るか」
「「おう」」
少しずつ変わっていくことになる。
最後までお読み頂き有難うございました。