第11話 グシシシシ、お嬢様、お困りなの~~?
実のところ、初めてのメアリー貨物のお客様の名、家門は伝わっていない。
低位貴族の令嬢か、商会長の子女とも言われている。
後世の史家が、巷間の婦女子の日記まで調べても、残っていないのだ。
もし、残っていたら、名が人族が滅亡するまで、語り継がれただろう。
何故なら、産業革命の発端になった人物かもしれないのだから・・・
とある令嬢の話
☆☆☆王都近郊都市セゾル
スキップ♩スキップ♩
「ランランラン♩ルンルンルン♩今日はショッピングよ。あら、キャアアーーー、あの店にモエコ様の絵がありますわーーーーーーーーーアンリ!お店にレッツゴーですわ」
「はい、お嬢様、走ると危ないですよ」
・・・・・
「これは、モエコ様が、この街に滞在した時に描いた作品です。魔道ゴーレムに乗る赤毛の美少女でございます」
「まあー、斬新ですわ。ゴーレムに乗るなんて!頂くわ!」
「はい、有難うございます」
「でも、運べないわ。駅馬車で来ましたの~~、そうだわ。モーゼン商会に頼むわ!」
「え、そこは、お高い品は、冒険者に依頼した方が・・・」
「冒険者だと、最低2名雇って、荷馬車のレンタルも必要ですわ。殿方のラブ本・・・いえ、他に買いたい物もございますのよ!」
「わかりました。依頼しておきます」
☆一週間後
☆☆☆王都モーゼン営業所
「届いておりませんわ。調べて下さい」
「はあ、時間が掛かりますよー」
・・・おかしいですわ。そろそろ届く頃ですのに、
「お嬢様、あれを」
「キャーーーー、私が買った絵が、王都の古物商で売られているわーーーー、抗議するわ!」
・・・
「今朝持ち込まれたものです。誰かって、ガムと名乗る男です。怪しかったですが、しかし、これは、モエコ画伯の本物だから仕入れました。
このサイン、異世界の『かんじ』と言うもので、リトルアキバに問い合わせたら、ネィテブの『かんじ』だそうですよ。
最近、偽異世界人が多いですからね」
「悔しいですわーーーーー、モーゼン商会に抗議しますわ!」
「やめときなさい。ゴールデンロール家がついています。高価なものを、モーゼンに頼むが悪い」
「ウワ~~~~ン、グスン、グスン」
「お嬢様・・・」
☆2週間後
☆☆☆王都近郊、商業都市アマゾル
「今月のお小遣いもらいましたわ。モエコ様のマンガ本、探しておりますの。キャアアアーーーー、モエコ様の絵ですわ。あのお店にレッツゴーですわ!」
「お嬢様・・・また」
・・・・
「空を飛ぶ魔道少女です。モエコ様の最新作です」
「まあ、斬新ですわ。ホウキに乗って、空を飛ぶなんて、困りましたわ。モエコ様は、放浪の画家、あちこちで描くから困りものですの。おいくらですか?」
「銀貨30枚でございます」
「キャー、買えるけど、冒険者への依頼費が、グスン、グスン、もう、絶対モーゼンに頼みませんわ」
「お客様、最近、出来たサービスなのですが、今、営業が来ております」
その時ですわ。
店の奥から、幼女が出てきましたの。
まあ、クマのヌイグルミを抱えて、ペロペロキャンディーを舐めておりますの。可愛いですわ。
でも、
「キャア」
「お嬢様」
「「・・・・・・」」
後ろにゴロツキが二人おりますの。
「グシシシシ、お嬢様、お困りなの~~?」
「困っておりませんわ。結構ですわ!」
「メアリー商会のメアリーなの~~、新しい宅配サービスを始めたの~~」
「まあ、私は騙されない女ですわ!」
え、何、何、メアリー商会
最近、聞く名前よね。
大丈夫かしら。
この絵を買うと、駆け出しの冒険者ボーイが、店に集荷に来て、最寄りの冒険者ギルドに届ける。
それから、駅馬車で、王都の最寄りの冒険者ギルドに届けてくれて、お届けクエストで、私の家まで、届けてくれる。ですって??
「ヒヒヒヒ、恥ずかしい品なら、冒険者ギルド止まりでもOKなの~~」
「今日は、違いますわ!モエコ様の殿方のラブ本は買いませんわ!お父様に怒られましたの!!」
でも、冒険者ギルドを使うと、
「どうせ。お高いのでしょう?」
「銀貨一枚と大銅貨3枚なの~~~」
「まあ、お安いわ~~~モーゼン商会の半分以下ですわ」
「・・でも、何故、そんなに安くできますの?やっぱり、怪しいですわ!!」
ペロペロ~
「グシシシ、冒険者ギルド間は、メアリー商会の駅馬車が運ぶの~~、屋根を改造して、荷物を載せるようにしたの~~お客様も運ぶから、お安くできるの~~」
「・・・でも、何故、そんなことをしますの?やっぱり、怪しいですわ!!」
「グシシシシ、メアリーは、野望があるの~~、この世界を、荷物が届く世界に塗り替えるの~~!!やがて、黒猫族が、ニャンと言ってお荷物を届ける優しい世界になるの~~~!!」
「何ですって!!メルヘンですわ!!」
「さあ、一緒にメルヘンな世界を作るの~~、この契約書にサインするの~~~」
「まあ、冒険者への依頼クエスト2枚?とメアリー商会の契約書?サインするわーーー」
・・・・
「お嬢、何故、あっしらをお供に?」
「イケオジ作戦なの~~~」
「嬢ちゃん。嬉しいけど、逆効果ですぜ」
「フニャ?」
☆5日後
☆☆☆王都、とある令嬢の屋敷
オロオロオロ~~~
「やっぱり、怪しいですわ。あの幼女の口車に乗りましたわ。騙されたのかしら」
「お嬢様、お荷物が届きました」
「まあ、梱包を解いて下さいませ!」
・・・・
「キャーーーー、本当に届きましたわ!!
空飛ぶ魔道少女、手には、お荷物を持っていますわ。あら、添え書きがありますわ。何々、この美少女は、魔道で空を飛び。お荷物を届けています。
貴方に、幸運を届ける絵ですって!!」
「アンリ、お茶会を開きますわ!お友達にチヤホヤしてもらいますわ!」
「まあ、まあ、お嬢様ったら」
☆☆☆お茶会
「「「まあ、素晴らしい絵ですわ!!!」
「アマゾルで買いましたの」
・・・
「まあ、そんなことが、これで、安心してショッピングが出来ますわ。どこの商会ですの」
「メアリー商会ですわね」
「最近、聞く名前ですわ。お父様も商用で使いますわ」
「エヘンですわ!!」
「メアリー様は、ブラウン侯爵家、エリザベス様の、義理の妹ですわ」
「ヒィ、私、失礼なことを言いましたわーーー怪しいって」
「まあ、そんなことが、そろそろ、王国軍が帰って来るのですって」
「戦勝よね。お兄様無事かしら」
「講和だそうよ。魔族と講和したのですって」
「ヒィ、エリザベス様の旦那様、エドモンド様が帰って来ますのーーーーー私、怒られないかしら!」
「私たちには、関わりのない雲上人よ。メアリー様が、そもそも商会の営業をしていたのも怪しいですわ。どんな方でしたの?」
「10歳くらいの幼女で、クマのヌイグルミを抱いてましたわ・・・・」
・・・・
「まあ、それは間違いなく、メアリー様よ」
「万が一があるわ。不敬罪・・」
「あの幼女のことは、綺麗さっぱり忘れますわ。日記にも書かないでおきますわ!」
「私たちも」
「「「「シィーーーーーよ」」」
☆☆☆モーゼン商会貨物部
「先月の貨物の売り上げの日ごとの平均を、当月の売り上げと比べる。日ごとに報告だ」
「はい、モーゼン様」
「今日は、マイナス1パーセントです」
・・・・
「マイナス2パーセント」
「たいした数字ではありません」
・・・
「マイナス3パーセント」
「減っていますが、軽微です」
「そうか、負けだ」
・・・終わった。負けた。これから、なし崩しだ。当たり前すぎて、冒険者ギルドは、思いつかなかった。
王国史に残る旅客・貨物戦争であるが、二ヶ月半で、勝負は決した。
さらに、その一月前には、モーゼンだけが、正確に予想していたが、歴史には残っていない。
「・・・確実に荷が届く。なら、私でも使うわ」
「モーゼン様、まだ、負けてはいませんよ」
『愛とか優しさだ。これはビジネスと矛盾しない』
トーマス(へんたい)の言葉が浮かぶ。そういう事か。
【分かってはいたんだよーーーー】
「「「ヒィ、モーゼン様」」」
・・・息子は?
☆モーゼン駅馬車
「でよ。もし、ここに、聖剣と、誰でも使える魔法杖があって、魔王とザウスがいたら、どっちを攻撃する?」
「魔法杖で、ザウスを攻撃して、それから、聖剣でザウスを真っ二つにする」
「「「アハハハハハハハハ」」」
「う、ぐ、畜生、クビにしてやる!!」
「どーぞ、どっちみち、あんた、紹介状に碌なこと書かないでしょう」
「もう、冒険者になるか、自力で辻馬車をやるしかないんだ」
ザウスは、目の前で悪口言われても、何も言えないか。
かろうじて、主任級で、駅馬車を回している。
形だけは、営業しているが、損益分岐点を割った。
その後、執務室にこもって、無茶なコストカットの指令を出しているだと、
「ザウスよ。最期の手段を執るぞ。オムスビ・オニギリ氏から、つなぎが来た。馬賊に妨害してもらう。
草原だ。騎馬なら、どんな駅馬車も逃げられない。準軍隊だから、冒険者では荷がおもかろう」
「はい、父上」
☆☆☆草原、夜
「グシシシシ、ここが、連絡地点です。松明を三回回すと、大陸一スゴイ盗賊が出てきます」
「ああ、分かった。ザウスよ。掛け合いの現場を見ておけ。いいか、絶対に、文書に残すな」
「はい、父上!」
ボゥ~
ガサガサ
一人の男が暗闇から出てきた。手には何かを持っているな。
暗くて見えないな。
体がチカチカ光っている。
馬賊にしては、良い鎧を着ている。
顔が分かるまで、近づいたら、分かった。
手に持っているのは、首だ。斬ったばかりの首だ!
「ヒィ、ゴフンの首だ。逃げろ!」
オニギリ氏は叫んで、逃げようとしたが、すぐに、周りに松明が灯される。
ボオオオオオー
「囲まれた。これは、国軍!」
ゴフンの首を持っている男が、まるで、日常会話のように、話しかける。
「あ~、何か、帰ってきたら、草原で、武器を持って、ワチャワチャ、している奴らがいたから、とりあえずボコッて、吐かせて斬った。お前が、オニギリ・オムスビで、そっちが、モーゼンと、その息子ってな感じか?」
「父上!」
私は何故か、普通に返した。
「さようでございま・・す。もしかして、第一王子のエドモンド殿下ですか?私はモーゼンです」
ニコッと笑って、
「であるか。う~ん。とりあえず。お前ら、拷問なっ!!」
と挨拶のように、返された。
・・・これで、本当の終わりだ。
☆☆☆刑場
「最期に、何か、言い残すことはあるか?」
「一つ、ございます。メアリー商会のメアリーへ。せいぜい、金の魔力に飲み込まれて、私のようになるが良い。と」
「分かった。伝えよう」
バサッ!
☆☆☆メアリー商会
モーゼン親子と偽転生者の処刑の報と、モーゼン最期の言葉は、メアリーに伝えられた。
メアリーは、分かったと力なく手をあげて、無言であった。
「・・・・・・」
モーゼンの後ろ盾であったゴールデンロール侯爵は、子爵に降格。
この後、モーゼン商会は、駅馬車業務は停止、貨物は重要性に鑑み。しばらく運行されたが、
ブラウン侯爵家の輜重部隊が、臨時で王都近郊の物資の搬送を行い。メアリー商会に随時、引き継がれることになる。
モーゼン貨物の最期は分からない。商業ギルドの記録が、この時以来、変わっておらず。やがて、閉鎖された。
最後までお読み頂き有難うございました。




