第9話 ガオー、攻勢なの~~
☆☆☆モーゼン商会営業所
「おい、まだ、出発しないのか?」
「お客様、満員にならなきゃ、出発できませんね」
「じゃあ、メアリー商会の駅馬車に乗る。あそこは時間になったら、客が少なくても出るからな」
「ちょっと、お客様!」
☆☆☆モーゼン商会本部
「ほお、なら、料金を下げて、薄利多売だ。駅馬車をガンガン回せ。時間など気にしないですむようにな」
「「はい」」
・・・・
「でも、メアリー商会は、護衛がついているからな」
「100台に1台しか犠牲になりませんよ」
「じゃあ、お前、一日1便乗っていたら、3ヶ月少しでゴブリンに襲われるってことだ」
・・・・
「なら、冒険者をつけろ。メアリー商会よりも依頼料、高く設定しろ」
「でも、それじゃ、利益が出ません」
ダン!
「馬鹿野郎。お前は指示待ち人族か?そこを考えるんだ。高く設定して、理由をつけて、報酬金額を引けば良いだろうが!」
「なるほど、さすが、商会長!」
・・・・
「一日、銀貨2枚のはずじゃ!半額以下の大銅貨7枚!」
「ええ、一日は24時間です。半日しか仕事していませんよね。大銅貨3枚は席料です」
「辞めてやる」
「ゴブリン注意報が解除されるまでが契約ですよ。未達成と、ギルドに報告させてもらいます」
「畜生!」
☆☆☆モーゼン商会
「どんどん、駅馬車を回せ!」
「商会長、メアリー商会を圧倒しています」
「売り上げは上がっていますが、利益率が低いです。事故も多いです。その賠償も馬鹿になりません」
「今だけだ。メアリー商会が倒産すれば、価格は自由自在だ。耐えろ」
「しかし、薄利多売で回すとしても、駅馬車が足りません」
「それなら、ガシムのところから駅馬車を買おう。半額、3分の1でいけるか」
フフフフ、元々、貨物を扱っていたのだ。規模が違う。これで、メアリー商会は終わりだ。
意外と早かったな。利益率の低い王都内路線では持たないだろう。
買収をするか。
まずは、ガシムだな。
☆☆☆ドワーフ工房、友愛
「ガシムよ。駅馬車を買い取ってやる。納入先が次々に潰れていると聞いたぞ。今なら、特別に、三分の一で買い取ってやる」
カン!カン!カン!カン!
「帰れ!」
「すっかり寂れているな。職人がいない。クビにしたか?」
ガン!
「おい!足下をハンマーで叩きやがって」
「帰れ!作業中、後ろでゴチャゴチャ言われたら、危ないけ!」
「まあ、いい。競売で買えばもっと安くなる」
次は、メアリー商会だ。
息子のザウスを連れていこう。
「いいか。交渉とは、始めに出来ない要求を突きつけ。次に、少しだけ下げれば、相手は喜んで要求を飲むのだ」
「はい!父上」
「嫁を紹介してやる。メアリーと婚約だ。後ろには王太子妃がついているからな。王国の仕事も請け負うぞ」
「でも、欲しがり妹でしょう」
「なら、お前のビンタでも与えてやれ。躾けろ」
「はい!始めにガツンと言ってやります」
護衛を連れ乗り込む。
モーゼン商会が雇った護衛専門の冒険者だ。
「ボム、ギミー、ついてこい。いざとなったら、脅す。短刀を忍ばせておけよ」
「「ヘイ・・」」
☆☆☆メアリー商会本部整備工房
カン!カン!カン!
「ゴム付き車輪に交換OK!」
「油差しヨシ」
「安全点検やるよ!」
何だ。活気がある。自前で整備工房を作っただと。
馬鹿だ。設備投資は最小限にしなければいけない。
「ヒヒ~~ン」(何をしているの?)
「うわ、馬だけに野次馬?」
「コラ、フラワ!精霊の落とし物袋交換するよ。コウジさん。ごめんなさい」
「い~え、実際にお客様の現場見られて勉強になるよ」
何だ。馬のケツのところに、袋がついている。何だ。
あれは、ガシムのところの若い奴。コウジじゃないか。次期工房長の!
ガシムのところの最新式駅馬車か?
メアリー商会に、駅馬車を投げ売りし。人を引き取ったか。
愚かな。すぐに、モーゼン商会のものになる。
建物の中に入った。
ピ~~タンタン!
「経路4,渋滞発生!・・・予備の駅馬車を回します。慌てずに、安全第一で運行されたし。打電!」
「おい、モーゼン商会のモーゼンだ。メアリーに会いに来た」
「先触れは・・ございませんね。今、不在です。少々、お待ち下さい」
「おう、すぐに呼びに行け」
時間は優劣関係だ。先触れ無しで訪問し、呼びつける。メアリーの時間を奪ってやる。
☆☆☆1時間後、応接室
「遅い!いつまで、待たせるんだ!私はモーゼンだぞ!お茶は何杯目だ!」
「ええ、駅馬車、最大手のモーゼン様ですよね。知っております」
「なら、さっさと、メアリーを呼び出せ」
ダンダン!
机を叩くと、まるで、合図があったように、ドアから人が出てきた。
「モーゼン様。うちの商会員が何か?」
冒険者か。メアリーに会う前に騒ぎを起こすのは不味い。
「早くしてくれたまえ」
☆☆☆5時間後、応接室
やっと、現れた。何だ。あれは、噂に聞いていたが、幼女、笛を吹いている。ふざけやがって!だが、我慢だ。
ピ~ピロピロピロ~~~~~
「メアリー様、紙笛、また、オモチャ沢山買いましたね」
「お小遣い大丈夫ですか?」
「お小遣いの範囲なの~~」
「ケン、ケリー、貧民街の孤児院に行ってきたのよ。そこで作っているオモチャ、買ってきたよ。楽しかったよー」
あれが、財務のケンと、内勤長のケリー、護衛の女冒険者というところか。
ピ~ピロピロ~~~
「メアリー商会のメアリーなの~~、おじさん。初めましてなの~~~」
ピキッ!
「6時間も父上を待たせるとは!お前は何様だ!」
ピ~ピロピロ~~~
「メアリーなの~~~」
「まあ、いい。そちらは、厳しいだろう。どうだ?合併しないか?すると、こちらも料金をつり上げられる。そちらにとっても悪くない話だ。
こちらは、モーゼン商会の次期商会長夫人の座を差し出す。息子と婚約してもらう」
「おい、俺がザウスだ。今日から、家に来い。モーゼン商会のしきたり教えてやる」
ピ~ピロピロピロ~~~~~
「条件はこれだ。とりあえずサインをしろ!!」
ブ~~~~、チ~~~~ン!
ポイッ!
読みもしないで、鼻紙にしやがった!
「メアリー様、お顔にインクがつきましたわ」
ゴシゴシ!
「ケリー、ありがとうなの~~~」
「はっ!馬鹿にしやがって!野郎ども!押さえつけろ。無理矢理拇印を押させろ!」
「「・・・・・・」」
「おい、どうした!」
「旦那、あれは、リリーだ。『猟師の絆』、さっき、出てきたのが、コリー」
「かないません。下手したら殺されます」
「お前らの命なんて、欲しくはないわ!やれ!」
「旦那様と坊ちゃんの命が危ないんでさ!依頼は、護衛ですぜ。脅すだけって話では?」
「まず、リリーが、お嬢ちゃんをソファーの後ろに放り投げ。旦那様に斬りかかる。ドアからコリーが出てきて、旦那様を守ろうとするあっしらを斬るんでさ」
「何だと、うわ!目が!」
プシュ~~~~~!
「ギャアアアアアーーーーー」
「唐辛子スプレーなの~~~死なないの~~~安心して連れて帰るの~~~」
「・・・恩に着るぜ」
「ヒィ」
「さあ、坊ちゃんも」
・・・うん?
ここで、あたしゃ、閃いたよ。
「リリー、あの二人は~何で、モーゼンに忠誠を誓うの~~」
「う~ん。雇い主が、どんなに人柄が悪くても、一度契約を結んだら、冒険者は、絶対に依頼主を守るよ」
ピコン♩
「例えば~、荷物の護衛でも~~~」
「うん。だけど、日給×人員×日数+エトセトラだから、個人で頼む人は少ないかな。今は、モーゼン商会とか、王国物流で頼むのが主流かな。あっ、ごめんね」
ククククク、閃いた。
このまま行けば、モーゼン商会が事故を起こして・・と予想するが、いや、現実に事故が多発している。
しかし、それは嫌だ。待つ女は性に合わない。肉食系女子で行くぜ。いや、肉食系幼女か?
あたしは、他に楽な手段があれば、そっちを取るぜ。
「戦略会議開くの~~~、クロウもなの~~」
「債権者と、使用人集会一度に開くの~~~」
設備投資は、少なくてすむ。
思いつきで動くのは愚か者だ。
ミニスタートをするか?
まずはリサーチだ。
「グヒヒヒヒヒ、こちらから、攻めるの~~~~ガオー、攻勢なの~~~」
☆☆☆
「お前ら、クビだ!契約未達成だ」
「「ヘイ」」
冒険者2人はクビにした。使えない奴ばかりだ。
情報ギルドに、ガシムとメアリー商会の関係の調査を依頼した。
「リース契約をしています。工房員を出向させています」
破産を回避したのか。そっちからは攻められないか。
そうだ。裏組織に依頼しよう。
「おい、支配人、若い奴、5,6人連れて来い!」
「はい、しかし、人員手一杯で」
「やれ!」
☆☆☆王都、裏組織フランク商会
「王都を出たら、メアリー商会の駅馬車を襲撃して欲しい。薄い茶色の駅馬車だ。礼金の半分を渡す」
「・・・・・・」
「・・・あのな。お前のところの乗り合い馬車、市場内で、暴走しただろ。時速20キロは出てないか?屋台に突っ込んで、子供が怪我したぞ」
「ああ、あれは、買収した辻駅馬車だ。賠償はすんでいる」
「少ねえんだよ。あそこは俺たちのシマだ。屋台、営業が3日止ったぞ!!!」
「その金、賠償でもらっておくわ。いい加減にせえよ!若い者、配置して、お前のところの馬車はシマ立ち入り禁止じゃ!!ボケ!!」
一人しかいないが、迫力に押されただと、
王都内の裏組織はダメだな。
すっかり、体制内に取り込まれている。
なら、貧民街だ。
貧民街の顔役は、極悪シスターと名高いオイ婆さんだ。
孤児院を運営しているから、貧民街で、尊敬を集めている。
☆☆☆貧民街女神教ドングリよい子孤児院併設懺悔室
「メアリー商会の駅馬車を襲って欲しい。
そちらにとっても悪い話ではない。これは寄付です。何、少し、脅して、メアリー商会の馬車は安全ではないと宣伝して欲しい」
ガサ!
おっ、金貨の袋を取ったな。シワシワの手が見える。
【ボケ!アホ!カス!間抜け!お前の母ちゃんは天国で泣いているぞ!ボケ!―――――】
カン!カン!・・・カン!カン!
「お前達!プランC。包囲!サスマタ改を忘れずにじゃ!!」
「「「オオオオオオオーーーーーー」」」
「「「ヒィ」」」
貧民達に取り囲まれた。
あれは、何だ。トゲがついた棒?
「ボケ!こちらは、メアリー商会から、馬糞をもらえる権利をもらったんじゃ、ボケ!馬糞は肥料の原料で売れるんじゃーーーーーボケーーーー!」
「そうだよ。荷馬車と駄馬ももらった」
「孤児院でもオモチャを作る方法を教えてくれた」
「今では、メアリー様は上客だよ」
あの馬のケツにあった袋は、そういうことか?
散々、説教されて開放された。
うん?
「金は取ったままかよ!!」
なら、闇ギルドに依頼だ。闇ギルマスとコンタクトを取る。
犯罪のコーディネーターだ。
「へへへへグヒヒヒヒヒ、ギルマスの日系王国人のオムスビ・オニギリと申します」
「ほお、異世界人らしい名だ。何か不思議な力がありそうだ」
「大陸一スゴイ盗賊をご用意出来ます。馬賊のゴフンです。しかし、時間が掛かります」
「フン、それは困る。今のうちに、勝負を決したい」
「なら、山猫獣人族に依頼しては?つなぎです」
この男、モーゼンの唯一の美徳は、直接、自分が現場に行って、話をつけることだ。
しかし、今回は、息子に任せた。
何故なら、凶報が飛び込んできたからだ。
「大変です!メアリー商会が貨物に参入です!」
「何だと!すぐに、対策会議だ。ザウス、お前はオムスビ・オニギリ氏についていき。交渉をまとめろ!」
「はい、父上、でも、あの規模じゃ、脅威になりませんよ」
「馬鹿!堤防もアリの穴から決壊することがあるんだ。旅客でもこれだけ苦戦しているんだぞ!お前も現場に出そうか?!」
「ヒィ、それは」
「畜生!畜生!どこ系統だ?王国物流の請負だったら良いが」
「今、調査中です」
慌てふためくモーゼンであるが、それには、この世界、いや、地球でも1970年代まで抱えていた問題があった。
貨物出身だったモーゼンは、それがわかりきっている。
ちょうど、この日、
☆☆☆草原
「浄化!」
ボア~~~~
「ふう~、やっと、瘴気の元を特定したぜ」
「ゴブリンも狩り尽くしたし、これで、聖女様が判断すれば」
「聖女シルビアの名において、宣言します。ゴブリン注意報を解除します!」
「「「ハハー」」
「魔道通信と伝令で王城に連絡だ。二重で連絡し、情報の真性の担保とせよ」
「魔道通信、伝令、二重の連絡!了解です!」
ゴブリン注意報が解除された。
最後までお読み頂き有難うございました。




