4-27 ティエスちゃんは二回戦
「おう、ようやくきたか。遅かったじゃねぇの。機体は仕上げてあるぜ」
「サンキュ。ちょっと野暮用が小火になっちまってね」
ちょっと慌ててティエスちゃんだ。駆け込みで試合会場のピットについたところ。いろいろ想定外のお話が多くて時間押しちゃってさぁ、王国軍人としてのお仕事に差し障りが出るところだったぜ。今頃姫も慌てて貴賓室に駆け込んでんじゃないかな。
あ、ガメッツィード・ファミリーとの話はついたぜ。賢狼王統軍に協力してくれるってさ。まあそれなりに対価は吹っ掛けられたけどな。それでも当初思ってたよりはよっぽど良心的でちょっとずっこけちまったよ。全く何考えてやがんのか、底の読めない姐御だあね。
おやっさんから受領証を受け取りサインしつつ、先の試合などまるでなかったかのようにピカピカに仕上げられた愛機を見上げる。うんうん、今日もお前はかっこいいな!
「なぁおやっさん、こいつの塗装だが、もとの迷彩に戻すとしたらどれくらいかかる?」
「なんでぇ、荒事かい?」
「ま、そんなとこだ。……いつでも出れるようにキャリアは準備しといてくれ。隊の連中の機体は実戦仕様で調整を」
「ただごとじゃねぇな。塗装を直すだけなら、1時間……いや、30分あればやって見せるぜ」
後半を耳打ちするように囁くと、おやっさんが肩をすくめて見せる。頼もしい限りである。
強化鎧骨格の塗装は、塗装とは言うものの実際にやるのは装甲表面の組成変化だ。光の反射率をいじって色彩を変化させるわけやね。おやっさんをはじめとした整備班選抜チームの連中は、その半数が水魔法の認可もちである。30分という数字は、けしてフカしではあるまい。スプレー噴いたり乾き待ちしたりしなくていいのは大きいね。
「ま、そう急ぎでもねーさ。まだ表立って動く気はねーみたいだしな」
素人考えだが、クーデター軍が動くとすれば祭りの最終日あたり、一番人も物もごちゃごちゃしてる頃合いだろう。まだ一週間はある。まあ姫が表立って動き始めた以上、連中が動きを速める可能性は十二分にあるから希望的観測だがね。そのあたりはまあ、姫やハラグロイゼ卿あたりが頭を絞ればいい話だ。俺は所詮手足だからな。頭の命じたように動くだけなのでいっそ気楽だ。
「ったく、何か起こるのはわかりきってんのにいつ起こるかわかんねぇってのは、面倒極まりねぇなー」
「ま、人生えてしてそんなもんだろ。ほい、起動キー」
俺がぶちぶち愚痴りながら受領証を返すと、おやっさんは苦笑いしながら言った。さすが、人生経験豊富な男は含蓄があるね。投げ渡された起動キーをスタイリッシュに受け取る。
「いつ起こるかわかんねぇことに悩むより先に、今やることがあるだろ、アンタにはよ」
「へっ、ちがいない」
愛機の頭部ユニットに触れる。ピットの照明をぬるりと照り返す装甲版の、硬質で冷ややかな質感が、グローブ越しに感じられた気がした。おやっさんの言うとおりだな。無骨なマシーンを身近に感じてると、難しいことは割かしどうでもよくなってくらァな。結局のところ、こっちが俺の本分、本領だ。ティエスには政治がわからぬ。ティエスは、王国の軍人である。剣を振り、マシーンを乗り回して戦って来た。つまり暴力に関しては、人一倍に大得意であった。
「じゃ、勝ってくるわ」
「おう、行ってこい」
おやっさんのサムズアップに見送られ、俺はキャットウォークからコクピットへ滑り込んだ。ハッチを閉鎖し、起動シークエンスを開始する。体が拡張された感覚。
「さぁて、次の相手はどんな奴かね」
名はよく知っている。森域統合軍青の武士団所属、カテル・ウルフマンは、かの豪傑チワワ、マケンの子だ。会うたびに自慢されてりゃいやでも覚えちまう。なんでも超強くて最年少で武士団幹部に抜擢された上にイケメンなんだと。ほんとかなぁ?
ま、実際にやりあってみれば否が応にもわかることだ。その実力が噂にたがわぬものか。ほえ面拝むのが今から楽しみだぜ。




