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ティエスちゃんは中隊長  作者: 永多 真澄
ドキドキ! 決斗編

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4-26 ティエスちゃんは持ちかける

「思うにだ。今回の蜂起にゃ、がっつり帝国の息がかかってる。違うかい?」


「さてね」


「んも~。そうふてくされてんなよぉ」


 出された茶をすするティエスちゃんだ。あれからしばらく、ひとまず落ち着こうってことでガールズトークは茶会に姿を変えていた。席に着いているのはガメッツィーゼとその腹心っぽいゴブリンと、俺、姫、ライカ君、そしてオティカである。ちなみにオティカは飲み食いできないのでやつの前には空の茶器がおかれている。これも一種の詫び寂びだろうか。ゼンめいてもいるな。まあそんな深い意味はないだろうが。


「帝国の力添えはあるでしょう。そもそも私たち賢狼人は、盟主氏族に次ぐ勢力と喧伝こそすれ、その総数はいたって少ないのです。経済規模もそうです。とてもではないですが、このような大事を為すには力不足です」


「姫様、そのような」


「……あまり自虐的になるな」


 姫が身内の恥ですわとばかりにため息交じりに語ったのを、横から騎士2名がフォローする。おいおいドリカム状態じゃねーの。なんかオティカがナチュラルにこっちの組に混ざってて若干距離感バグるな。


「そもそも。そもそもだよ? 賢狼の姫、なんたってアンタは自分の身内を裏切るようなことをやってんだい。賢狼の世がくれば、あんたは晴れて森域の盟主だろうにさ」


 ガメッツィーゼの言はごもっともである。正義とか大義とかはなしだよ、と釘をさすのも忘れない。そういや俺も動機までは細かく聞いてなかったな。茶請けのおこしをかじりながら、姫の言葉を待つ。


「……私の家系は確かにル・リンの名を継ぐものですが、傍流なのです。それを父王は、簒奪にて王位を掠め取りました。本来であれば、こちらのライカこそが真の王統なのです」


「え、ライカ君ってそんなに偉かったん?」


「今はただ姫にお仕えする、無位無官の騎士だ」


 ライカ君は誇るでもなく、偉ぶるでもなくそう言った。言われてみれば、ライカ君と姫は何となく顔立ちが似てなくもない気がしないでもなくもない。騎士の時点で無位無官ではないのでは、とは思ったがまあそういう心もちということなのだろう。姫が少し寂しそうな顔をした。


「父王は氏族のオビトの座を手にしただけに飽き足らず、その手を森域の全域にまで伸ばさんとする野心家です。……それが身内の恥でとどまるならばまだ我慢もしました。ライカには、悪いですが……。ですが、事ここに至りいたずらにル・リンの名を穢す父王を、もはや看過することはできません」


「ふぅん、家名のためってことかい」


「ひいては、賢狼人という氏族の名誉のため」


 姫はわりかしガンギマった目でそう言った。ガメッツィーゼがおこしを噛み割るばきんという音が、やけに響く。

 俺は口の中の菓子の残骸を茶で流し込んで、会話に割って入った。


「それで王国の後ろ盾を得て、ライカを旗印に王統軍としてクーデター軍を横から殴ろうって腹か」


「はい、大まかには」


「すこし子供じみてないかい?」


 ガメッツーゼはいぶかしむように言う。言うはやすし行うはきよしってなもんで、すでに動き出しているクーデター軍を横から殴って潰せるくらいの軍勢をいまから用意するなんてのは、どだい夢物語だ。オークの一派がクーデター軍についてる以上、統合軍もそこまであてには出来ない。そもそも統合軍なんて名乗ってるが、中身は各氏族の騎士団・武士団の寄り合い所帯だ。さっぱり統合出来てないのが現状である。


「軍閥の切り崩しはどのくらいやってんだい?」


「……魚人族の一部は、クーデターに参加しないことを約束してくださいました」


 姫の返事はどうにもはかばかしくない。立場があるから人を動かせるという一面は確かにあるが、立場があるからそう表立って動けないというのも事実だ。しかも身内がしこしこクーデターを準備してる合間に隙を見て裏工作、というのは、考えるだに至難だろう。というかマジで、何でクーデター軍は姫を野放しにしてんだ? 身内の姫だから、ってのはあんまり理由になんねーぞ?


「それでよく王国の協力を取り付けられたもんだねぇ。王国のお悩み相談センターはずいぶんと慈悲深いようじゃないか?」


「ま、裏に帝国がいるとなりゃなぁ」


 言うまでもないが、王国と帝国は互いにそれぞれを最大の仮想敵国としている。いまでこそ仲良く国交を結んじゃいるが、水面下じゃ殴る蹴るの応酬だ。王国と帝国の境界に広がる森域はその緩衝地帯として重要な意味を持っており、それがどちらかの勢力に染まることは非常によろしくない。ただでさえ王国は、強化鎧骨格のライセンス生産というアドバンテージを帝国にとられているのだ。あの王宮が黙って看過するとは到底思えない。

 ハラグロイゼ卿がどんな密命を帯びて森域くんだりまでやってきたのかは定かではないが――。

 俺は椀に残っていた茶を干して、ガメッツィーゼに向き直った。


「ま、そんなわけでどうだいガメッツィーゼの姐御。ウチの姫さんと組んで、わるいクーデター軍を一緒にやっつけねーか? そんなに報酬は出せねーが、王国との伝手を作る世話くらいは喜んでさせてもらうぜ?」


「ごめんだよ。高くつきすぎる」


 ガメッツィーゼは俺の提案をにべもなく打ち捨てると、キセルに火種を入れた。俺は食い下がった。


「そこをなんとか、頼むぜぇ~~。今ならなんと豪華特典として、期間中に限り最強戦力ティエスちゃんを使い放題できる権利だってつけちゃう!」


 俺は"最高戦力"の部分にことさらイントネーションを置いてアピールしながら、ずいと顔を寄せる。ガメッツィーゼは少しだけ変な顔をした後、ひどくうっとおしげな顔をしてから、躊躇の一つもなく俺の顔に浅黄色シアンの煙を吹き付けた。グワーッ副流煙が目にィ―!!


「ハン、あんたが出しゃばんじゃないよ。たかだか護衛騎士風情が、なにを偉そうにしてんだい。えぇ?」


「けほけほ。いやまぁ、ごもっとも」


 いけないいけない、少し先走っちまった。ガメッツィーゼの指摘は一理どころか九理四理甘い十三理だ。俺の身分は賢狼の姫の護衛騎士にすぎず、また王国の一中隊長に過ぎない。こういう大事な約束事を取り交わすような身分じゃないんだな。ということで、後はウチの主人である姫に任せて俺はお茶会に集中しよっと。


 あ、お茶のおかわり良いっスかぁ~?

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