4-25 ティエスちゃんは姉御と会う③
「どういう意味だい?」
「へ、そう怖い顔すんなって。どういう意味もない、そのまんまの意味さ」
おお、こわいこわい。さっきのが児戯に見えるほど鬼気あふれる眼光に首をすくめるティエスちゃんだ。現在ガールズトーク続行中。
数はゴブリンという氏族の一種アイデンティティだ。そこを無遠慮になぜられちゃ、そりゃ黙っちゃいられねーわな。
ガメッツィーゼの形のいい瞳がスゥッと細められる。
「だから、そう怖い顔すんなって。せっかくの美人が台無しだ。安心しな、さしもの俺だって何の考えもなくオークを豚呼ばわりはしねぇさ」
「くだらない前置きはおよし。数がアタシらの専売じゃないってのはどういう意味だい? 答えな。ティエス・イセカイジン」
ドスの利いた声は小心者が正面から受ければそのままひっくり返っちまいそうな迫力がある。怒った美人ってのは怖いね。まあ俺は部下に言わせれば心臓に金ブラシの毛が生えてるらしいから、怯みやしないが。
「かがくのちからってすげー、って話だよ。オティカ」
「……」
今の今まで姫の横でおとなしくちょこんと座っていたオティカが、おもむろに立ち上がる。囲みがざわつくが、姐御が片手で制した。見届けてくれるらしい。
オティカが衆人環視の中でしゅるりとローブを脱ぎ去ると、艶めかしい金属光沢の地肌があらわになる。そして胸に手をかけたオティカは無言で胸のロックを外すと、その中身を外気にさらした。
「私は……強化鎧骨格だ」
胸の中身はというとがらんどうだった。なんていうか警察じゃない方のアルフォンスな感じ。まあ強化鎧骨格のツリーから発展してるならその構造もわからなくはない。その空間は元来、操縦席が収まるべきスペースだ。……マジでダウンサイジングした強化鎧骨格なんだなこいつ。俺は少しだけロマンを感じた。
周囲がどよめく。俺も思いのほかノリのいいオティカの行動に驚く。何でお前が驚いてんだ、と言いたげなガメッツィーゼの視線が俺を刺す。いやしかたねーじゃんまさかここまで合わせてくれるとは思わなかったんだから! さっきまで敵対してたかんね俺たち!
「……」
役割は果たしたとばかりに胸を閉じると、オティカはローブを羽織りなおして姫の横にちょこんと座った。どうしたお前マジでおとなしいな? ほらライカ君もびっくりしてんじゃん。
ともあれ、だ。気を取り直して、俺は咳ばらいを一つ。ガメッツィーゼに向き直る。
「見ての通り、このオティカは自立稼働する小型の強化鎧骨格だ。この意味、アンタならわかるだろ?」
「……なるほどね。ちっ、いやッてほどわかっちまうよ。ナマの兵士の数に依存しない人造の兵士ってわけさね。おぞましいったらないよ」
ガメッツィーゼは怖気と怨嗟をないまぜにした感情で持ってオティカをにらみつけるが、対するオティカは推定そしらぬ顔だ。暖簾に腕押しってやつだな。俺は横から、ガメッツィーゼに畳みかけた。
「あんたらのことを”畑で採れる”なんて揶揄する向きがあるが、こっちは正真正銘工場生産のマスプロダクト・モデルだ。現に俺たちを襲い、アンタの倉庫を吹き飛ばした狼藉者は。オティカの同型機たちだぜ?」
この時代、前世ほど鉱物資源というものには困っていないのが現状だ。なんたって土魔法使いがいれば、金だろうが鉄だろうがレアメタルだろうが鉱物生成し放題だし、水魔法使いが入れば組成弄り放題である。普段はエーテル総量枯渇問題とか安全保障とか市場価値の安定化なんかの名目で鉱物資源の製造は強く規制・管理されているが、有事ともなればその辺の決まりごとはただの紙になる。特に国家間の直接戦争でもないこういった内戦では、その向きも顕著だろう。
まあ、さんざ脅かしはしたが認可もちクラスの魔法使いもそんなぽこじゃかいるわけでないし、所詮人である以上四六時中働き続けることなんてできないので得られる資源の総量に限度はあるだろうが、それでもその調達コストの低さは前世比で破格である。あとは工場の月当たり生産数の限度なんかも考慮する必要はあるだろうが――
「いろいろ加味したって、アンタらゴブリンがおぎゃあしてから戦士になるまでの間に、その100倍以上の数は揃えられちまうだろうさ」
いやあホント、工業力って暴力だね。




