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ティエスちゃんは中隊長  作者: 永多 真澄
ドキドキ! 決斗編

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4-20 ティエスちゃんはぶらつく

「ここが中央市場かぁ、テンション上がるなァ~まるでテーマパークに来たみたいだぜ」


「……遊びに来たんじゃないんだ。仮にも姫の護衛騎士なら、仕事くらいはちゃんとやってほしいものだな」


 異国情緒にまみれた光景にすっかり観光客気分のティエスちゃんだ。ここは森域の中央市場。庶民の台所であると同時に、森域中の流通の要でもある。どうやって食うのかもわからない果物がずらりと並び、得体の知れない肉がつるされ、怪しげなファストフードを販売する屋台などが軒を連ねている。食料だけではない。見事な刺繍の施された絨毯やら、艶めかしい光沢の布やら、紙に墨、絵画に彫刻、陶器に漆器、チープなアクセサリーからぎらぎらと輝く宝飾品まで、とにかく雑多に無秩序にひしめき合っている。共通するのはモノを売ってるってことくらいだ。雰囲気的には中央アジアや中東らへんのバザールに近い。実際、ただ観光で来るだけならテーマパークみたいな楽しい場所だ。同じくらい物騒ではあるがね。

 まぁ今回は観光ぶらティエスしに来たわけではないので、ライカ君に窘められてしまったわけだが。


「わぁーってるって。ライカ君は真面目だねぇ」


「……」


 頭の後ろで腕を組みながら気楽げに言うと、ライカ君はむっつりと黙ってしまった。うーんディスコミュニケーション。期限付きとはいえ同僚なんだからもっと愛想よくしろよ~。まあ無理な話か。とはいえ会話がないのはそれはそれでさみしいぜ。

 というわけで、俺はこの場にいるもう一人に声をかけた。


「それにしても姫、ずいぶんお詳しいようですね。こういう下々が屯する場所には縁遠い方かと」


「あら、そんなことはありませんわ。民草の暮らしあってこその私たちですし……それに、ずっと城の中というのも肩が凝るでしょう?」


 リリィ姫が息抜きするたびにライカ君の息が詰まってそうだな、と思わなくはないが、俺はあいまいな笑みで返した。確かに活力はみなぎっているが、ぱっと見するだけでも数人のスリが仕事をしているのが見えたし、BGMかなって頻度で怒号が聞こえるし、ちらっと見えた路地裏では社会的にあかん顔した連中が屯ってたりする。最低限の治安は保たれているようだが、薄皮一枚剥けば犯罪と暴力がとぐろ巻いてる感じ。

 そんな雑多な人の荒波をスイスイ描き分けて、たまにお買い物なんかを差し挟みながら進む姫の"勝手知ったる"感は、一朝一夕で身についたものではあるまい。ライカ君の両手は荷物でいっぱいだ。おてんばさんめ。


「しかしなるほど、まさしくここは人種のサラダボウルですな。すれ違うたびに違う氏族だ」


「ええ。統合府が開かれて50年、この中央市場こそ、もっとも建国宣言に謡われた理想に近しい姿でしょう」


 姫はふふんと薄い胸を張った。確かにこれだけ顔形の違った連中が集まってれば、そこに紛れ込んだ異物オティカを見ても「そういう氏族かな?」と思うにとどまるだろう。メカメカしい見た目にしたってほとんどはローブか何かで隠してるだろうし、魚人みたいに陸上生活するためには相応の装備が必要な氏族もいるからな。


「まさに木を隠すなら森の中、奴も考えたものだ」


「軍部も中央市場には手出しできませんからね」


「それならなおさら疑ってかかるべきとも思いますが……」


「仕方ありません。軍は中央市場に対する警察権を持たないのです」


 中央市場はゴブリンの一党が率いる「商会」が支配的な一種の治外法権エリアで、物資の流通ルートを「商会」に握られている軍としては手出しがしずらいらしい。ゴブリンが盟主氏族のひと柱だというのも大きいだろうな。下手をこくとゴブリンがまるっと離反しかねないわけだ。そうすると国体を維持するのが難しくなるので、そう強く出られない。表向きは。


「姫様、そろそろ」


「ええ」


 今まで黙っていたライカ君が、短く姫に警戒を促す。中央市場の中でもひときわ繁華なエリアを抜けて、倉庫街とも呼べるエリアに入った。ここは森域中の流通需要にかなう資材を保管している重要なエリアではあるが、個人向けの商売をする店がないことから先ほどまでの喧騒とは打って変わって人通りは少ない。明け方から午前中にかけては他のどのエリアよりも活発になるが、今の時間は閑散としている。

 襲撃させる(・・・)には丁度いい。


「そろそろ出て来いよ、オティカ。おめーは足音でまるわかりだ」


 出ておじゃれ、獣は臭いで分かりまするぞ……いややめとここれ死亡フラグだ。てか、そんなカションカションとシャドームーンみて―な足音たてやがって。知らないふりをするのも疲れたぜ。わざわざ目立つように市場のど真ん中を歩いてきたからな。途中からついてきてんのはお見通しなんだよ。


「…………この間の女か」


 無機質ながらも、どこか苦みばしった声がする。振り返ると、そこに黒づくめの襲撃者オティカは居た。

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