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ティエスちゃんは中隊長  作者: 永多 真澄
ドキドキ! 決斗編

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4-10 ティエスちゃんは呼び止められる

「イセカイジン卿、ちょっと」


「……何でありましょうか」


 朝飯を終えて部屋に戻ろうとしていたところを捕まったティエスちゃんだ。ハラグロイゼ卿は今日も素敵な笑顔で俺を手招く。いやな予感しかしない。俺はエルヴィン少年に隊のみんなと先に戻るように言い伝えると、吐き出したい溜息を我慢して卿のもとへ向かった。

 だいたい、ハラグロイゼ卿を筆頭とする外交使節の方々は朝食が別会場だ。なんでもお膳の料理が出るんだと。仲良くなった使節のひとりから聞いた。いやそんなことはどうでもよくて、問題は何でこのお方がここで出待ちしてるのかって話である。ね? いやな予感しかしないでしょ?


「なに、そういやな顔をするものではないよ。今日は確か、これから式典までの間は技術交流会だったね?」


「はい、そのような予定になっております」


 今日の午後からは記念式典の開会式みたいなセレモニーがあるが、それまで暇できるかといえばそうでもない。俺たち選抜隊メンバーは森域の技研――つまり強化鎧骨格なんかを研究開発してる軍の機関の連中と顔を突き合わせて技術交流会の予定が入っている。この会の主役は使節団の技官と整備の連中だが、俺たちも俺たちでパイロット視点からの意見出しやトラブル対策の観点から同席する運びとなっているわけだ。森域にいる間は割とミチミチにスケジューリングされているから、気軽に観光とかはできそうにない感じである。ちぇー。


「ふむ。すまないが、イセカイジン卿には別件にあたってもらいたくてね。その予定はキャンセルだ」


「――何か、ありましたか」


 俺の目にさっと剣呑さが宿る。昨日の襲撃事件があっての今日だ。なにか動きがあったか、はたまた次の襲撃か。

 しかしハラグロイゼ卿は少しだけ呆れたような、もしくは自嘲含みの笑みを浮かべて、ゆるゆると首を横に振った。


「卿の思っているようなことは起きていないよ。ただまあ、関連した話といえばそうだがね」


「はぁ……?」


 ハラグロイゼ卿は少しもったいつける。王都のお貴族ってのはいちいちワンクッション挟まないとおしゃべりできねーんだろうか。まぁこのお方はそれなりに砕けた喋り方をしてくれるけど。俺は剣呑さを霧散させて、代わりに頭上にハテナマークを浮かべた。


「卿が昨晩お助けしたお方――リリィ・ル・リン殿からお招きがあってね。なんでも、卿への礼がしたいらしい」


「ル・リン――賢狼人レイフィールですか」


 その家名には聞き覚えがあった。さっきもちらっと話題に出た、四大盟主氏族に次いで気をつけるべき氏族、賢狼人。その氏族長の家名であったはずだ。てことは、昨日襲われたのは賢狼人の姫ってコト? うへぇ、勘弁である。厄介ごとの規模が想定よりも些か大きいぞこれ。


「うん。ほかの木っ端氏族なら王国としても突っぱねられたんだがね。一応、軍閥としてはオークに次ぐ規模の賢狼人からの誘いとなると、そう軽々にも扱えないのさ」


「……それでも、卿のお持ちの権限であれば、いかようにも突っぱねることはできたでしょうに」


「そうでもあるね」


 ハラグロイゼ卿はふわりと笑んだ。その軽やかな立ち居振る舞いと裏腹に、その言葉はひどく重たい。飲み下すのにえらい難儀する上に、飲んだら飲んだで腹の底にたまって仕方ない、そんな重圧がある。ハラグロイゼ卿が出来ることをしなかったということは、つまりそれを受けるだけの価値を見出したということだ。それが何かは教えてくれないのだろうが、期待だけはしっかりされている。マジ勘弁。


「ま、これも得難い機会だ。賢狼人という氏族を、卿にはよく見てきてもらいたい」


「そういうのは、観光局の連中に任せられたほうが……」


「それはもうやっているとも」


 さいでっか。俺は肺腑にたまった重しを吐き出すように長い溜息をはいた。これくらいは、ハラグロイゼ卿もお目こぼしくださるだろうよ。


「先方の指定してきた時刻は――君たち風に言うなら、ヒトマルマルマル。場所はこのホテルの最上階「天の間」だ。身だしなみを整えて、必ず顔を出すように。いいね?」


「アッハイ」


「それと、エルヴィン従士の帯同を許可する。武器を持ち込むなら、隠し通せるものだけにしたまえよ?」


「荒事確定でありますかぁ」


「まさか。もしものため、さ」


 ハラグロイゼ卿はにっこりと笑むと、俺の方をポンとラフに叩いて去っていった。その肩ポンが、やはりひどく重く感じた。

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