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ティエスちゃんは中隊長  作者: 永多 真澄
ドキドキ! 決斗編

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4-4 ティエスちゃんは電気羊の夢を見るか

「ずいぶんなご挨拶じゃねぇか、ええ?」


「…………」


 なんかしゃべれや。舌打ちを我慢して剣を構えるティエスちゃんだ。現在鉄火場中。

 手に持つ剣は即席のお手製。そこらのなまくら鍛冶よりは良いものが作れている自信はあるが、軍に正式採用されるような出来じゃない。切れ味には期待しないほうがいいだろう。第一、さっきぶつかった感触でわかったがこいつは鎧を着てる。これはもう、剣の形をした鈍器だと思ったほうがいいな。刀身の重量配分を操作して、トップヘビーの打撃力強化スタイルに調整する。

 対する敵は手に剣を構えたまま、油断なくこちらを見ている。しかしなんだあの剣、ガントレットに直付けしてあるのか? 肉厚で刀身は短く、袖口からその刃だけがのぞいている。なんというか、暗器な感じ。


「……どけ。時間がないんだ。お前にかかわっている暇はない」


「本当にご挨拶だな。そういわれて、はいそうですかってなると思うか?」


 ようやく発した言葉は、ひどくそっ気のないものだった。感情の起伏を感じさせない声音は、変声期を迎えたばかりの少年という感じ。暗がりとフードのせいで依然人相はわからないが、予想よりもずいぶんと若い。


「思わない」


 敵が踏み込む。パンチの要領で繰り出された鋭い刺突は速く重い。合わせた刃が甲高い金属音を奏で、ビリビリ震える。なんてパワーとスピードだ。巻き取ろうとしたこちらが力負けしている。こいつ、強いぞ。後ろに女をかばっている以上、動きが制限されるのも厄介だ。震えてねーで、さっさと逃げてくんねぇかなあ!


「オラァ!」


 とはいえお貴族の令嬢にそれを求めるのも酷か。俺はブーツのつま先を硬質化させ、掛け声に合わせて敵の股間を蹴り上げる。金的の痛さは俺も身に染みて知ってるからな。いかに鎧で身を守ろうと、男の急所は守れないのだ。鎖帷子程度なら、貫けはしまいが衝撃は通る。そのように蹴った。予想通りの硬質な手ごたえ。しかし反応は……ない!


「オイオイ、どんだけかて―タマだよ。鉄のパンツでも履いてきたのか?」


「下品な女だ」


「そりゃどうも!」


 俺は蹴り上げた足をそのまま使ってヤクザキックをお見舞いする。しかし敵の体幹はほとんどブレない。鍛えてやがる。敵は再びバックステップで距離をとると、着地と同時に地を蹴った。再び突き出される刺突を屈んで回避。紙一重、俺の自慢の金髪、その末端が切れ飛んで宙を舞う。ちょうど散髪に行きたかったんだ、助かったぜ。

 お代とばかりに、懐に潜った俺は剣を大振りして敵の腕をカチ上げる。盛大な金属音と火花が飛んで、さすがに抑えきれなかった敵の体が大きく開いた。その代償とばかりに、振り切った剣の刀身が半ばから砕けて折れる。うそん。即席つってもはがねのつるぎだぞ、どんだけ固いんだよ畜生。俺は舌打ちしたいのを我慢して、とっさに顔を真横に動かす。左のストレート。頬にひとすじ赤い線が引かれた。野郎、両腕に剣を隠してやがったのか。


「んなろっ!」


「ぬっ」


 俺は半ばで折れたなまくらを捨て、突き出された左腕をとる。体術を警戒した敵は体を締め、さらに跳ね上がった右腕を戻して攻撃の構えだ。残念、遅いね。口の端を吊り上げる。俺はこう見えて、インテリなんだ。


「燃えろォ!」


 わざわざ口に出す必要はないが、気分がノるので発声する。そもそも魔法自体は、「も」を言う前には発動しているのだ。

 左腕を発火点として燃え広がった炎は、瞬く間に敵の全身を包み込む。赤々と咲いた火の華は、闇夜にまみれた庭を白々と照らした。

 さすがにこれは効いたのか、敵はたじろぐように二歩、三歩と後ずさる。敵の全貌を隠していたフードは端から灰に変わり、それらを焼き尽くしてなお火勢は衰えない。当然だ。周囲の空気そのものを燃やしてるんだからな。これでたとえ鎧に遮熱の効果があったとしても、酸欠でお陀仏ってワケ。この世界に人型生物は数多いるが、酸素を必要としない種は一つとして存在しない。

 しかし、またもや俺の予想は裏切られる。敵の鎧のスリットからシューシューと音を立てて何らかのガスが噴射されると、俺の起こした火はたちどころに消火されてしまったのだ。そしてあらわになった敵の姿に、さらに俺は困惑した。


「強化……鎧骨格!?」


 敵の姿は、おおよそ鎧を着た人間という様子であった。しかしよく観察してみればわかる。鎧を着た人間としては無理がある身体形状、関節構造や四肢の接続方法、見え隠れするエネルギーラインは、どちらかといえば強化鎧骨格に近いものだ。

 そしてそうだとするならば、身長1.5メートルもしないその機体は小さすぎる。この世界に、アレに搭乗できるような知的生命は居ない。可能性としては何でもアリな魔物だが、それにしては意志の疎通が出来すぎている。――アンドロイド。そんな言葉が、それにはよく似合った。

 明緑色に発光するカメラ・アイが、じっと俺を見ていた。


「……必ず、迎えに来る」


「なに?」


 その言葉は、きっと俺に向けたものではなかったのだろう。おそらくは、俺が背にかばってるこの女に向けた言葉だ。聞き返した俺には応えずに、推定アンドロイドは両手の剣を収めると大跳躍してその場を後にした。まさしく人間離れした跳躍力であった。


「……ったく、なんだってんだ」


 俺はそれを見送ってから警戒を解くと、だらだらと血の流れていた頬の傷に手を当ててさっと治療する。ったく乙女の顔に傷をつけやがって。頭の傷は程度に見合わん出血をするから嫌なんだ。軍服も汚れちまったな。クリーニングでとれるかしら……ひとまず、色が黒で助かった。


「あ、あの……」


「ん?」


 俺がほこりを払うように軍服の上着をばっさばっさやっていると、ふいに声をかけられた。顔を向けると、そこには顔を(おそらく)青くした獣人のご令嬢がいて――。

 ああ、本当に面倒なのはこれからかよ……。

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