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ティエスちゃんは中隊長  作者: 永多 真澄
ドキドキ! 決斗編

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4-0 密談、某所にて

「西の者どもが統合府に到着したとの知らせあり。いよいよですな、王」


「うむ。しかし、急くなよ。機を見損なってはならん。前線の兵たちにも、くれぐれも先走らぬよう厳命せよ」


「抜かりなく」


 照明の落とされた密室に、数人ばかりの人物が積めて額を突き合わせていた。交わされる会話には、どこか隠し切れない高揚が見え隠れする。浮足立つのとは少し違う、戦前の静かな興奮ともいうべき雰囲気。

 王と呼ばれた最も高座に座す男は、その形のいい髭をしごきながらふとまなざしを陰らせる。


「して、0号機のゆくえは」


 先ほど報告していたものとは別の、ひどくやせぎすで猫背の男が背をピクリとはねさせた。男は眼鏡をカチャカチャと弄りながら落ち着きなく起立すると、その神経質そうな声をもって落ち着きなく述べた。


「い、以前捜索中であります、ハイ」


「まったく、大事を前にして余計な手間を。技研はことの重大さを理解しとるのかね」


「そ、それはもちろんのこと。わ、我々としても八方手を尽くして……」


 痩せ男に横やりを入れるように、先ほどまで報告を行っていた男が強く嫌味を込めてなじる。男は痩せ男と対照的にでっぷりと肉がついていて、しかし同様に猫背だ。肥え男はデスクをしきりに指でつついて、さもさも苛立っていることをアピールしている。尖った爪が樹脂製の天板を叩くコツコツという硬質な音は、痩せ男の精神をひどく苛んだ。

 痩せ男は弁明するも、肥え男はそれに被せるように唾を飛ばそうとした。先んじて王が制したため、その口が開かれることはなかったが。


「よい。チャドラ、あまり技研を責めてやるな。それに此度の一件、わが身内にも責の一端はあるのだ」


「は。しかし、姫様の責を問うのは、些か……」


 肥え男――チャドラは恭しく首を垂れた後、少しばかり難しい顔をした。王は少しだけ笑んだ。


「あれにも、少しばかり反省をさせねばならん。……フィンクス、しかし事態は一刻を争う。捜索は急げよ」


「は、ハハッ!」


 すぐに顔を厳めしく戻した王の下知に、痩せ男――フィンクスは首を垂れた後すぐさま部屋を辞した。チャドラはそれをしらじらしく見送った後、王に問う。


「よろしいのですか、王。あれがまかり間違って明るみに出れば、我々の計画も……かくなる上は、わが軍団を動かし」


「ならぬ。急くなといったぞ、チャドラ」


「しかし……」


 なおも食い下がるチャドラに対し、王は一つ息を吐いた。


「万一あれが明るみになったとて、今となっては我々の決起が早い。チャドラ、お前は軍団を十全な状態で、しかるべき時に一斉蜂起できるよう準備に専念せよ。よいな?」


「……ハッ。しかと」


 チャドラはしばし難しい顔をした後、深々と首を垂れた。決起は近い。軍団の配置を今更弄るのが得策でないことは、将軍であるチャドラにはよくわかっていた。王の言は正しいが、しかしどこかしこりを感じる。このカンじみたものは、今までも幾度か己の生死を分けてきた。これを放置するのは、少しすわりが悪い。


「これより、私も統合府へ赴く。任せたぞ、チャドラ」


「ハッ! 王も、ご武運を」


「うむ」


 王は深々と頷いたのち、マントを翻して席を立った。部屋にいた全員が起立し、敬礼でもって見送る。王は確たる足取りで戸口まで歩み出ると、振り返って部屋に残る面々を眺めた。戸外の光を背負い、それはさながら釈迦の後光のようですらある。

 その姿に、部屋に残った者たちは感じ入ったように背筋を伸ばす。あのチャドラでさえも。

 王は部下たちの目に煌々と燃える焔を幻視し、大いに二度ばかし、頷いた。


「野生の復権を!」


『野生の復権を!!』


 王の宣言めいた言葉に続き、そこにいた全ての者が声を一つに唱和する。それは、彼らの掲げる大義……すなわち、スローガンであった。

 王はそれを聞き届けた後、マントを翻して颯爽と踵を返した。自動扉が圧搾空気の抜ける音とともに閉じられ、部屋は再び密室となる。

 そして密室は、すぐさま喧噪でいっぱいになった。ついに動き出したのだ、という実感が、部屋の中にいる全員にあった。あるいは、これが歴史の転換点である、とも。


「……0号機の捜索、特務隊より兵を出せ。やはり技研の連中には任せておけん」


 席に座りなおしたチャドラが、おのが副官に対して耳打ちする。副官は胡乱げな目でチャドラを見た。


「よろしいので? 王命に背くことになりますが」


「かまわん。王は軍団を動かすことはやめよと仰せになったが、我が私兵に関しては何も仰っておらん」


「……ハ。すぐに手配させます」


 副官は小さくうなずくと、闇に溶けるように消えた。


「少しの失敗も許されんのだ。我らが大義をなすためには、な」


 チャドラの独白めいた言葉を聞く者はいなかった。元よりそのつもりであったチャドラは、懐からエルフたばこを取り出して火をつける。これから長丁場になる。集めた物資の中に、煙草はいかほどあったろうか。大事を前にして、チャドラは一時だけそんな益体もないことを考えた。

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