3-11 ティエスちゃんは身を清める②
「おっちゃーん。大人二人、子供一人ね。あとタオルも」
「あいよ、ゆっくりしてってね。今日は御星様が奇麗だよ」
この町一番の宗教施設にやってきたティエスちゃんだ。番台に座る初老のおっちゃんに券売機で買った券を渡してタオルに交換する。
ここはこの世界で最も影響力のある宗教勢力の一派が運営する施設で、神社でいうところの拝殿にあたる。本殿は存在せず、空に浮かぶ星々がご神体だ。参拝者は満天の星空の下、一糸まとわぬ姿で禊をしながら天を仰ぎ祈りを捧げる。
なお、禊に使用される泉の水温は40度前後。御山からほど近いだけあって、加水なしの源泉かけ流しだ。また薬湯や泡風呂、電気風呂などの内風呂にサウナも付いて、入湯料は450マギカ(小人250マギカ)。石鹸もちゃんとついてるゾ。
ただの銭湯じゃねーかって? 銭湯だよ。でもただの銭湯じゃねぇぞ。スーパーな銭湯だ。フードコートもあるぞ。
ただ、本質として宗教施設というのはマジだ。奥にはいわゆる原始的な社みたいな感じのやつがある。卑弥呼様―! みたいなやつ。
この世界で一番浸透している宗教に名前はない。強いていうなら輝星信仰ってとこか。古くから伝わる御伽噺めいた神話に端を発する信仰らしいのだが、要するに夜の空に光る星々が神様で、それを祀っているのがここだ。
祀っているといってもご神体は空の上なので、集落の中で星が一番よく見えるところにこうやって神殿を建て、定期的にお祷りとかしてる感じ。
それがどうして銭湯文化とがっちゃんこしたのかは正直わからん。前世でも恐山とかには参拝者が身を清めるためのの温泉とかあったし、火山活動が活発で火山噴出物や温水が多く湧出する地域は地獄谷なんて呼ばれたりする。まあ温泉そのものがどうこうというよりも山岳信仰のおまけって感じだが、案外宗教と温泉は親和性が高いのかもしれん。しらんけど。
とはいえ実情、王国の公衆衛生の向上に一役買ってるし結構なことではなかろうか。
「うし、じゃあ行くか」
「いや、俺は男湯に……」
「そうよ、なに普通に女湯に引っ張り込もうとしてんの」
エルヴィンの少年の腕をひいて女湯の暖簾をくぐろうとしたら、予想外の抵抗。え、おいおい合法的に女湯に入れるチャンスなんだぞお前。この国の法律では10歳以下の子供は男湯女湯どちらに入ってもいいというのが明文化されている。何をはばかることがあろうか。
ニアが心底呆れたように肩をすくめたので、俺はちょっとむっとした。
「10歳までは女湯オッケーだって法律にも書いてあるんだぞ。据え膳食わねば男の恥って言葉知らんの?」
「いや知らんて。どこの言葉?」
「まあそれはどうでもいいんだ。重要なことじゃない」
俺は誤魔化した。
「問題なのは、だ。お前、お祈りの作法とかちゃんと知ってるのか? ただ浸かるだけじゃダメなんだぞ」
「いや知ってるよ。さすがに。あんまり子ども扱いすんなよな」
「知ってるか。そうか……」
知ってるらしい。うーん、よく考えたら俺がわざわざ心を砕いてまで女湯に引っ張り込んでやる理由はないんだよな。まったく、チャンスを棒に振りやがって。俺は深くため息をついた。
「ハァーー……。わかった、オーケー。じゃあ、22:00にここに集合な」
「了解っと。じゃ、いってくる」
エルヴィン少年は俺からタオルをひったくると、男湯の暖簾をくぐっていった。難しいお年頃である。俺は肩をすくめた。
「じゃ、俺らも行くか」
「そうね」
ニアもやれやれという感じでタオルを受け取る。呆れの対象がエルヴィン少年じゃなくて俺に向いてるのは若干の理不尽。
女湯の暖簾をくぐると、そこには桃色空間が広がって……は、いなかった。削げ落ちた胸板に2本のへちまをぶら下げたばあさんが数人脱衣所でたむろっているくらいである。ここは歓楽街に近く、そういう店で働いてる連中がやってくるにはまだ早い時間だった。俺はがっかりした。
「なに露骨にがっかりしてんのよ」
「いや、もっとこう、目の保養になるかなって」
「あんた、ホントにスケベね。……私ので我慢しときなさいな」
そういってニアはガバっと上着を脱いだ。小ぶりな双丘が、それでもぷるんと弾む。さすが軍人してるだけあって、引き締まったいい体だ。それでいて女性的な丸みはちゃんと担保されている。フム、なるほど、なるほど。見慣れてはいるが、これもなかなか。まあ、今日はこれで満足しておこう。
「……ちょっと、そんなにガン見していいとは言ってないわよ」
「すまんて」
俺がニコニコしながら頷いていると、上体を腕で覆ったニアにさすがに咎められた。ちぇー。
俺も上着を脱ぐ。あんまりここでもちゃもちゃやってると、湯に浸かってる時間もなくなっちまうからな。女の子は色々身だしなみに時間がかかるのだ。髪乾かしたりとかね。




