3-8 ティエスちゃんは遊ぶ③
「こちらです」
「へぇ~ここがVIPルームか。テンション上がるなぁ」
裏カジノに足を踏み入れたティエスちゃんだ。あるとこにはあるもんだな裏カジノ。ちょっと興奮してきた。
照明は薄暗く、広い室内にただ一卓だけある雀卓には煌々とスポットが当たっている。室内の調度は見てわかるあけすけな華美さこそないが、見る者が見れば相当にカネがかかっているのがわかるだろう。落ち着いたムーディーな雰囲気だ。かすかに耳に入る音楽も品がある感じ。何語かわからないスキャットがおしゃれ。まぁ聞くものが聞けばそれが魔法結界のための呪文だってのがわかるんだけどな。しかし結構高度な術式だな、さすがエルフ。解析するのにちょっと手間取りそうだ。
ちなみに王国の風営法みたいな法律では、賭博場自体は禁止されていない。禁止はされていないが、規制というかいわゆる天井があって、100点棒1本につきここまでしか賭けてはだめですよという基準がある。これをぶっちぎってるのが、いわゆる裏カジノ。摘発の対象だ。
この世界、というかこの国では中隊長以上の軍人は警察権を持つ。なので強制執行しようと思えばできなくはないのだが、それはいささか無粋だろう。あとで書類とかいっぱい書かなきゃならなくなるのが面倒くさいわけでは決してないぞ。決してない。
「どうぞ、お座りください。VIPルームのワンゲームは東南西北ループ戦。メンツが最後のひとりになるまで続く特殊ルールとなっております。初期点数は三万点ですが、追加はご自由に」
「なぁ、なんかヤベーこと言ってないか?」
「いいんだよ、これくらいじゃねーと張り合いがねぇ」
アサイエルが物騒なことを言いながら着席を促す。エルヴィン少年がさっそく怖気づく中、俺は豪奢な革張りのソファにどっかりと身を沈めた。ふかふかだぁ。一般人ルームのしけた丸椅子とちがって座り心地抜群だぜ。こんなに座り心地がいいと打ってる途中に寝ちまいそうだな。
ちなみにフリードリンクということで、俺はさっそく烏龍茶を注文した。アルコールは判断力が鈍るからな。なんで異世界に烏龍茶があるかって? 知らんがな。麻雀広めた奴と同じ奴が広めたんじゃない?
エルヴィン少年はオレンジジュースを注文していた。
「ティエス様、点棒の追加はなさいますか? ちなみにレートはこちら」
「ワオ」
1点1000マギカですか。ちなみに王国風営法で定められたレートは最大で1点10マギカである。なかなかやりますね。
「え、つまりこれ、負けたら3000万マギカぶっ飛ぶ……ってコト?」
数学の得意なエルヴィン少年が導き出された解に青くなっている。まぁ尋常な額ではないな。
「最低でも、な。飛ばされた時のマイナス分も上乗せされるゾ」
「ヒョエ」
エルヴィン少年が息をのんだ。が、そこは考え方の違いだ。勝てば3000万どころじゃない金が手に入るってワケ。ふってわいたボーナスステージにグラスを傾ける口の端が愉悦にゆがむ。歌唱呪文の解析も終わっている。何のことはない、魔法を感知して警報を鳴らすタイプの術だ。しかしずいぶん指定が細かいな。試しに懐からエルフたばこを取り出す。アサイエルが一瞬壮絶な顔をしたが、次の瞬間には糸目のスカし面に戻っていた。なんだよ灰皿用意されてるんなら禁煙ってわけじゃないんだろ? とすっとぼけてみる。
指先を煙草に添えて、火をともす。魔法は一切のレジストを受けることなく発動し、同時に耳障りな警報がVIPルームに響いた。
「おっと失礼。申し遅れましたが、当VIPルームではいかなる魔法の行使も厳禁となっております。この警報が鳴った時点でイカサマと判断いたしますので、どうぞお気を付けください。なに、火が必要でしたら、スタッフに何なりとお申し付けを」
アサイエルが我が意を得たりとばかりに嗜虐の色を強くして、慇懃無礼そのものといった態度で恭しくこうべを垂れる。
俺はエルフたばこを大きく吸い込み、ぷかあと煙を吐いた。まだ熱い灰が灰皿に落ちて、ジュウと音を立てる。
やっべ、ティエスちゃん大ピンチ。




