3-7 ティエスちゃんは遊ぶ②
「ロン。リーチ一発ドラドラ大三元四暗刻単騎。144000点な」
「グエー!?」
フ、ちょろいぜ。東一局親番でゲームセットなティエスちゃんだ。奇声を上げた黒シャツの老人は一瞬で点棒を空にされ、黒服に連れられて行った。あのつわものムーブはなんだったんだ。黒シャツ着てるくせにイカサマ一つ仕掛けてこねぇ。燕返しとかしろよ。
俺? まあなんだ。ちょっとした魔法の応用だ。
こういう賭場にはイカサマ防止の魔法防御があるんだが、俺にかかりゃあ障子紙より薄いプロテクトよ。
払い出された点棒をじゃらじゃらさせながらも、ヤってることはゴト師だなぁなどと思っていると、ふいに後ろから声をかけられた。
「へぇ。君、なかなかやるね」
「……あんたは?」
振り向くと、そこに立っていたのは針金のように背の高い糸目の男だった。それ役に立つのかってくらい小さい眼鏡をかけ、真っ黒なスーツを身にまとい、先端の尖った靴を履いている。ネクタイはクリスマスカラーのストライプ。どんなセンスだ目に悪い。浅黄色の結い紐で括ったロン毛は目の覚めるような緑色で、耳も心なしか水平方向に長い。見間違えようもない。エルフだ。ここは国境の街、居たっておかしかねぇが……。
俺は心中にじわりと冷や汗をかいた。いでたちが黒服のそれとクリソツだからな。明らかにカジノ側の人間、もといエルフである。
「私はこのカジノの経営者でね。アサイエル・スプリットというものだ。お見知りおきを。この度は君を凄腕の玄人と見込んでひとつ、お誘いでも――とね」
「そいつはどうも。つっても俺は麻雀で食ってるわけじゃねーからな。玄人とは言えねーよ」
俺はおどけて肩をすくめて見せる。
スプリット。森域を統べる四種族のうち、エルフの王に連なる氏族の姓だ。こりゃ大物が出てきやがったな。適当に入ったカジノだったが、ここいらじゃもしかすると格の高いところだったのかもしれん。さっきニアが受付で揉めてたのはそれか?
「麻雀を生業にする者だけが玄人ではないと、私は常から思っていてね。重要なのはそのハート。燃え上がるような勝負師心得にあるはずだ。違うかね?」
「さてね、考えたこともねーな。それで誘いってのは?」
アサイエルはエルフ特有の整ったかんばせにどこか嗜虐的な笑みを載せて問いかけてきた。俺は肩をすくめる。ここには別に、麻雀談義をするために来たわけじゃないんでね。
「うん。我がカジノの誇るVIP専用卓で打ってみないかね? レートは《《少々》》上がるが、よりスリリングなギャンブルが楽しめるはずだ」
少々、ね。ずいぶんとアバウトな算数してそうな響きにぞくぞくしちゃう。
しかし罠の匂いがプンプンするな。ちっと暴れすぎたか。このまますんなりとは返してくれなさそうだ。よしんば無事に店を出たとして、星のない夜は暗い。いや、実力行使で突破することは大いに可能だろう。エルヴィン少年がいるとはいえ、俺もニアもバリバリの現役武闘派軍人だ。まぁ軍人であるがゆえに、無用なトラブルは避けたい。任務中だしね。
ちらりとニアを見る。こくりと小さくうなずいた。俺の判断に任せるというアイコンタクト。エルヴィン少年は初めて見るエルフを物珍しそうに眺めている。のんきだ。こいつぁ大物になるな。
俺は小さく息を吹いて、腹を決めた。
「いいぜ、ノってやる」
「そうこなくては」
アサイエルが嗜虐的な笑みを深めた。造形はいいのに厭らしい顔だ。まったくこれだからエルフって奴は。俺は点棒を黒服に預け、席を立った。
「よっしゃ、そんならさっさと案内しな。夜は短し遊べよ乙女だ。無駄なお喋りももったいないからな」
「かしこまりましたとも。では、こちらへ。お連れの方は」
「ああ、それなら――」
ニアがやれやれという顔で席を立った。どーせこうなると思ってたわよ、みたいな顔をしてやがる。いや、もとはといえばお前が俺たちをカジノに引っ張り込んだのが元凶だからな? 忘れんなよ???
俺は心中で大きく溜息をはいてから、続けた。
「エルヴィン、来い。コンビ打ちだ」
「えぇっ、俺ぇ!?」
急に水を向けられたエルヴィン少年は、自分を指さしながら目を白黒させた。そうだよお前だよ。さっさと用意しろ。
「えぇっ!? 私はぁ!?」
お前じゃねぇ座ってろ。




