3-5 ティエスちゃんは知己に会う
「ん? おーい! ティエス! ティエスじゃないか!」
「ム。その声はもしやわが友、李徴子ではないか?」
「いや誰だよ。相変わらずだなぁ」
「お前も相変わらず。久しぶりだなエリカ、そろそろ4年ぶりか?」
ガッと固い握手を交わすティエスちゃんだ。現在手伝いに出てきてくれた国境守備隊に現場の引継ぎ中。率いていたのは旧知の友、エーリカ・テッペであった。
こいつとは王国陸軍の訓練隊の頃からの付き合いで、いわゆる同期ってヤツ。とはいえ俺は大学出のキャリア組で、エリカは身一つで軍の門戸を叩いた叩き上げのノンキャリア組ではあるが。
まぁ訓練隊はそういうのごちゃまぜだからな。一緒にひーこら汗やら涙やらその他の汁やらを流した仲だ。あのせまっ苦しい6人部屋で過ごした1年間は今でもいろいろな意味で忘れられない思い出だよ。
「それにしても国境守備隊の副隊長さんかよ、出世したなぁ」
「よせやい。王国陸軍代表サマに言われちゃ、背中がかゆくなる」
エリカはむずがゆそうに笑った。野戦服の襟に縫い留められた小隊長の階級章がきらりと光ったように見える。
俺は訓練隊を修了すればほとんどエスカレーターで小隊長が約束されてたが、こいつは一番下の戦士からスタートだからな。戦士→戦士長→伍長→軍曹→分隊長と駆け抜けて、ようやっと小隊長だ。この数年間で上り詰めるとは、なかなかやりおる。まぁ知ってたけどな。こいつはすげーやつだ。いずれ俺も追い越して、将まで上り詰めて見せてほしいもんだ。
「ンだよ気持ち悪い顔しやがって」
「いや? お姉さまにはもっと上を目指せるポテンシャルがあるって私、信じてるから! ってなってた」
「そういう気持ち悪いこと言うのやめてくれない!?」
「ぬははは」
同期ではあるが、こいつは俺の2個上。身長も高くキリっとした顔立ちをしてるから、訓練隊の頃はよくこんな感じで妹分ムーブをしてからかってたもんだ。ちなみにベッドの上では子猫ちゃんになる。
「ったく、こっちは国境警備の仕事抜けて来てんだぞ。ほら、部下も見てる」
「まぁウチの連中は慣れっこだろうけどな。ともあれ、お仕事するか」
エリカの引き連れてきた兵は何やってんだアイツらみたいな目で見ていたし、俺の親愛なる部下たちも何やってんだアイツみたいな目で見ていた。わかるかなぁこの絶妙に違うニュアンス。いやあ愛されてるね俺は。さておき。
「突貫仕事だが、とりあえず今回の調書な。ハーヴェスターの死骸と副産物は道のわきに避けてある。あとはもう少ししたらウチの基地からマ研の連中が来るから、そいつらと連携してよろしくやってくれ」
「確かに受領した。お前も災難だな、出鼻をボキボキにくじかれて」
エリカは副官が突貫でまとめたレポートをパラパラめくりながら、半笑いになった。俺も肩をすくめて半笑いになる。
「慣れっこだよ。どーやら俺のもとにはちょくちょく不運が飛び込んでくるらしくてな。どーせ飛び込んでくるなら、美女か美男子がいいんだが」
「相変わらずあけすけなやつだなぁ。というか、その美女と美男子も腹に何か抱えてるだろ、絶対」
「違いない」
懐かしい冗談の応酬にノスタルジーを刺激された俺はくつくつと笑ってから、幾分か真剣な顔になった。
「万が一もないとは思うんだが、ホントの標的はつり出した国境警備隊の分遣隊かもしれん。ゆめ、油断するなよ。ネリちゃんを悲しませるようなことはするんじゃねーぞ」
エリカは少しだけ虚を突かれたように息を詰めた後、不敵な笑みを浮かべてふっと息を吐いた。
「ああ、無論だ。ところでこないだネリが「おかあさんへ」って絵手紙書いてくれてさあ。これがほんと激うまで、マジであの子は将来偉大な芸術家になるかもしれんのよ。見る? 見る?」
「親バカ乙。まぁそこまで言うなら見るが?」
「へへ、そうこなくちゃ。これなんだけどさ――」
なかなか味のある絵だった。




