3-3 ティエスちゃんは怪獣退治の専門家
「全車停止! インシデント0100発生、機動部隊は出動しろッ!!」
通信機にがなり立てながら即座に抜刀するティエスちゃんだ。いや、言ってる場合じゃねぇ! 一歩踏み込み、剣を払う。手ごたえがあった。硬質な金属音の後、路肩に深々と突き刺さったのは……先端がつんつくつんに尖った木の杭だ。キャリアに直撃していればケガでは済まなかっただろう。いわんや、お偉方の載ってるリムジンなどは。
頬をひとすじの汗が伝う。インシデント0100――つまり、敵性生物の襲撃だ。くっそ、フラグじゃねぇっつたろうが!!
強化外骨格の光学カメラが周囲を走査する。居た。崖上だ。顔面にぽっかりと空いた洞と目が合う。
「対象を目視、識別名ハーヴェスター……魔物だ!」
ハーヴェスター。体長8メートル強、肩幅の広いがっしりとした体躯で、直立二足歩行。地につくほど長い一本腕と裏腹に、地を踏みしめる脚はひどく短い。お前座高高いな! 頭部は大きく、その中央は貫通した空洞になっている。内部にはびっしりと牙が生えており、おそらく口にあたる器官であると推測される。砲撃型に分類される魔物だ。森林地帯に出没し、そこら辺の木をひっこい抜いて口腔部で杭に加工し、そのまま打ち出すという謎の生態を持つ。こんな風に。
「ッラァ!!」
飛来した杭を弾き飛ばす。俺は天才パイロットだが、どこぞの五右衛門みたいに飛んできた銃弾を真っ二つにするほどの技量はない。こう、刃は添えるだけでベクトルをずらす感じで。とりあえず味方に直撃しなきゃいいんだ。弾け飛んだ杭はトンボを切って路肩に突き刺さる。
あっまた木ィ引っこ抜いてむしゃむしゃしだした、バカ野郎環境破壊だぞ! 俺たちだって材木にしたいの我慢してるのに!! 君の作った杭は有効活用させてもらうからな!!!
そうして打ち出された第三射を同じく弾く。彼我の距離は200メートル、崖上までは30メートルほどあり、一方的に打ち下ろされている状況だ。地の利は向こうにある。接近するにしても崖を登攀する必要があるが、崖面はオーバーハングになっており登るのに手間取りそうだ。俯角の関係で登ってる最中に砲撃を受ける心配はないが、キャリアががら空きになるので正直動けない。味方が展開するまではバッターボックスに立ち続けねば。ピッチャー返しできればなァ!
ていうか味方おせえな!?
『中隊長! 今トマスの杖を狙撃仕様に調整してる。30秒待ってくれ!』
「なるはやで頼む!」
通信機からおやっさんの怒鳴り声が飛び込んできたので、第四射を弾きながら怒鳴り返す。くそがよ!
射撃の腕は、俺を除けばトーマスが一番だ。狙撃用に調整した杖があれば、確実に仕留められるだろう。わざわざ近寄って殴るより、遠くから叩けるならそのほうがいい。理解はできるが、理解はできるが!
定期的に出荷される木杭を捌く。敵の杭製造から射出までのルーティンには明確なリズムがあるから、つかんでしまえばもうリズム天国だ。流れ作業やね。とんとんはいっ、とんとんはいっッてなもんだ。それとんとんはいっ、とんとんはいっ、とんと、うわっ!?
タイミングが一拍ズレる。いやインターバルは――2体目ぇ!?
飛来する杭。虚を突かれた俺は咄嗟に対応できない。つくつくに尖った先端部がやけにゆっくりと迫る。やばい。
『油断大敵ですな、中隊長殿』
後方で発砲音が響く。同時に直撃コースだった杭が、眼前で軌道を変えた。そして、いぶし銀なセリフが通信機から飛び込んでくる。
「と、トーマスぅ~~~! 助かったぜぇ~~!」
トゥンク。俺の胸は高鳴った。いやまあ8割はさっきまでビンビンに感じていた死の気配のせいだが。後部カメラで背後を確認すると、硝煙(魔法行使の残滓)を立ち昇らせる狙撃用杖を構えたトーマスの強化外骨格がサムズアップしていた。あの速度で飛来する飛翔体を狙撃しやがったのか!? か、かっこいいぃ~~!!
『礼には及びません。中隊長、ご指示を』
クッソほんとにかっこいいなこいつ。仕方ねぇ、今回の主役は譲ってやる。俺は短く息を吐いてから、告げた。
「トーマス、目標を撃破せよ。狙い撃て!」
『了解』
トーマス機が狙撃用杖のコッキングレバーをガチャリと動かすと、赤熱化したカートリッジがイジェクトされる。スコープの先には、すでに射出準備を整えたハーヴェスターの一体。引き金に掛けられた指が、小さく動いた。
発砲音。杖先端に生成された金属片が音速をはるかに超えた速度で射出される。それは過たずハーヴェスターの胴に吸い込まれ、そして事前の取り決め通りに炸裂した。
上半身の弾け飛んだお仲間に、しかしもう一体のハーヴェスターは一切の動揺を見せない。杭が射出される。が、そいつは通さねぇ。
トーマス照準で射出された杭を弾き飛ばすのと、俺の頭越しに砲弾が飛んで行ったのは同時で。
そして次の瞬間には、あっさりと戦闘は終結していた。




