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ティエスちゃんは中隊長  作者: 永多 真澄
わくわく! 入院編
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1-4 ティエスちゃんは見舞われる②

「いやぁ、思ったよりもお元気なさそうで何よりです。中隊長殿。これ、隊のみなからのお土産であります」


「喧嘩売りに来たのかお前は。土産が無かったらグーパンだぞグーパン」


「ハハハ、まさか」


 手術も終わって面会が解禁され、いの一番にやってきた副官にジト目をくれてやるティエスちゃんだ。


「しかしお元気ないのは確かなようで。今のやり取り、普段だったらまずパンチが飛んでくる場面でありますからなぁ」


「お前マジで覚えとけよ」


「リンゴとモモ、どっちがいいです?」


「リンゴかなぁ」


「了解であります」


 丸椅子に腰かけてシャリシャリと皮むきを始めた副官に、俺は一つため息を吐く。この上官を上官とも思わない態度、マジで俺の下だから許されてるようなもんだからな。ありがたく思えよマジで。

 電動ベッドの背もたれを上げてもたれかかる。全身いたるところがじわじわ痛んでやってられない。鎮痛剤は飲んでいるが、どうにもぜんぜんごまかせている感じはなかった。

 そうこうしている間に皮むきは終わっていた。刃渡り5センチもないナイフでよくやるものだ。まあこいつは王国海軍からの転向組だから、芋の皮むきとかで手慣れているんだろう。海軍の新兵はまず叩き込まれるらしいからな。いや、俺だってこんな状態じゃなかったらもっと手際よくむけるけどね。陸軍にはそんな伝統はないけど、これでも大学の頃は自炊してたわけだし?


「ほら中隊長殿、あ~ん……ははは、そんな怖い目で睨まなくとも、もちろん冗談でありますよ。介助の必要は?」


「いらん。それくらい手ェ使わんでもできる」


「魔法の行使全般厳禁では」


「へん、知ったこっちゃないね」


 皿に置かれた剥き身の林檎を水魔法のちょっとした応用でつまみ上げ、手を使うことなく口元に運ぶ。生ぬるかったが、シャキサクとした触感は損なわれていなかったし、ほのかな酸味より断然強い甘みが口の中に広がって、ひとことで言うとうまい。


「……高かったろ、これ」


「一番いいものを選びました。ほかならぬ中隊長殿の見舞いの品でありますから」


 副官……! 俺の胸はトゥンクと高鳴った。まさかそこまでみんなに慕われていたなんて。いかん涙でそう。


「……中途半端なものをお持ちしたとあっては、後が怖いというのが隊のみなの共通認識でありますので」


 前言撤回。胸の高鳴りを返せ。


「冗談であります。そう怖い顔はなさらないでください、傷に障りがあるといけません」


「お前なぁ」


 俺は大きく嘆息して視線を副官から天井に向けた。見知った天井だ。パネルライトの青白い明りが目に染みるぜ。


「……部隊の方はどうだ。俺なしでしっかり回ってんのか?」


「ええ、特別の問題はありません。中隊長殿はゆっくり静養なさってくだされば」


 副官がしれっというが、おそらくは嘘だ。きっとエライゾ卿あたりから言い含められているのだろう。復職後が思いやられる。


「どうしてもヤバくなったらこっちにも話を回せ。これは上官命令だ。いいな?」


「正式の手続きがないので、受領いたしかねますなぁ」


「エライゾ卿にも言ったがな、暇なんだ。少しは娯楽を提供しろ」


「……善処します」


 ま、それでいいか。こいつのことだ、その辺はきっとうまくやるだろう。きっと素知らぬ顔をしている副官に、ため息だけを返す。


「そういえば、ジャックとハンスが退院しました。明日には原隊に復帰できる見通しです」


「ずりーよな、あいつら俺よりも重体だったはずなんだが」


「中隊長殿ほど無茶のやり方を知りませんからなあ。わざわざつながっている骨を折ってつなぎなおす必要もありませんし」


「うるせー」


 俺は嫌味を言ってくる副官に背を向けて、ふて寝を決め込むことにした。副官はそれを察して立ち上がると、ベッドサイドの冷蔵庫をきれいに整頓してから土産の果物を詰め込み、最後にびしりと音が鳴るような敬礼をして退室していった。まったく、几帳面な男だ。俺は寝たふりをしながらそれを見送って、そのうち本当に寝てしまっていた。



 数時間後、回診に来た女医に魔法を勝手に使ったことがバレて大目玉を食らうことになったのだが、その辺は割愛することとする。

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