2-2 ティエスちゃんは紹介する①
「傾注! 野郎ども元気してたようだな、長らく留守を守ってくれたこと、まずは感謝する! 俺がお前らに感謝するなんてよっぽどのことだ! 滅多にないレアケースに遭遇できてよかったなお前ら! 感謝しろ!」
『サー・イエスサー!』
うーんこの空気、久々に娑婆に戻ってきたって感じでうれしくなっちゃうティエスちゃんだ。現在演習場の一角に中隊全員を集めてミーティング中。中隊規模ともなれば、それこそ俺の母校みたいな田舎の小さな小学校の全校児童の数に匹敵する。俺が益体もない郷愁に襲われていると、整列した部隊員一同の中から一人がきびきびと歩み出て、ほれぼれするほどサマになった敬礼をした。そういえば言ってなかったが、この世界の軍隊式敬礼もいわゆる帽子のつばをつまむようなしぐさだ。海軍式に近い、脇を締めた感じのやつ。俺も毅然と敬礼を返した。
「無事のお帰り、うれしく思います中隊長殿! こちら、たまっていたひと月分の仕事であります!」
「うん、結局お前一回も持ってこなかったよなあ仕事! とんだ買い被りだった! 腕立て100回!」
「サーイエッサー!」
わざわざ執務室から運んできた書類の山を指して元気に挨拶してきた副官にその場で腕立てを命じる。元気が有り余ってるみたいだしな。隣に控えるエルヴィン少年がドン引きをしているがまあいいや。慣れろ。
ものの30秒足らずで腕立てを終えた副官は汗ひとつかいていない。こうもけろっとされてたら罰則の意味もないような気がするが、いわゆる様式美だ。ま、これくらいでないと王国で軍人はやっていけないんだわ。よく見とけよ少年。
「さて、今日は俺の復隊記念ぱーちーとしゃれこみたいところだがそうもいかん。いくつか伝達事項があるが……まず初めに、貴様らとこれから一緒にお勉強する転校生を紹介します」
俺がそういうと、総勢百数名からなるむくけつき男ども(たまに女たち)がざわざわとどよめき始める。
「転校生? マジ?」
「えー、男の子かな? かっこいい子だといいなぁ」
「ちょっと俺キンチョーしてきた」
「俺は美人に賭けるね」
etc.
おおむねこんな感じである。ノリがよろしくて大変結構。隣に控えるエルヴィン君はドン引きを通り越して困惑している。慣れろ。
「よし、茶番はここまで。エルヴィン従士だ。便宜上の階級は分隊長相当だが、かまうことはない。存分にかわいがってやれ。エルヴィン、自己紹介だ」
「えぇっ!?」
この流れで? みたいな顔をするエルヴィン少年だが、甘えんじゃない。この流れでぶっこめなかったら一生ナメられんぞ。というのを視線に込めてやったら、どうも察したらしい。
渋々決心したような顔で一歩踏み出したエルヴィン少年は、うつむいた状態からキっと顔を上げ、顎を引き、手を腰の後ろで組んで足を肩幅に開き、気持ち胸をそらせた姿勢で"アイサツ"をキメた。
「エルヴィンですッ! 今日からティエス卿付きの従士としてお世話になりますッ! まだ何にもわかんねーガキですが、精いっぱい働き、学び、楽しむつもりです! "センパイ"がたにおかれましては、ご指導、ご鞭撻のほどよろしくお願いしますッッ!!」
言い終わると同時に、エルヴィン少年はガバッと頭を下げた。手を指先までピシッと伸ばして体に張り付け、腰を90度近く曲げた姿はまごうことなきOJIGIである。OJIGIはこの国でも最敬礼の一つとして知られる立派な礼だ。弱冠10歳の少年のアイサツにしては(少々でたらめな敬語表現があったにせよ)できすぎているほどのそれに、俺はやりおるわ、と思った。この少年、やりおるわ。
「上出来だ。とりあえずは及第点をくれてやる。おまえら! そういうことだ! 存分に手本を見せろ! ――それとなエルヴィン、「卿」付けはやめろ」
「いけね……いけないのでしょうか!」
「そのとってつけたような敬語もいらん。むずがゆくなるからな。ウチはそのへん緩くやってるから、あまり堅苦しくなるな。俺のこともさん付けか、もしか中隊長でいい。もちろん、仕事はちゃんとやってもらうがな」
「それでいいのかよ軍隊」
「いったろ、仕事さえちゃんとしてりゃあいいんだ。おまえらもな!」
『サー・イエスサー!!』
うん、元気がよろしくて大変結構である。俺はエルヴィン少年を下がらせ、代わりにずいと前に出た。全員の気が引き締まるのを空気で感じる。
「隊の連中との顔合わせについては、今晩の新歓でやることにしてだ。ピーター、いつもの店はおさえてあるか!」
「万事抜かりなく!」
副官がびしりと音のする敬礼を添えて言う。ほんと仕事はできるんだよな。俺は鷹揚にうなずいた。
「よろしい。エルヴィンの紹介についてはこれで終わりとして、本題だ。次の任務について伝達がある! 総員傾注! 耳かっぽじってよく聞け!!」
『サー・イエスサー!!』




