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ティエスちゃんは中隊長  作者: 永多 真澄
とべとべ! 森域動乱編

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5-53 封鎖線突破③

「ヒューッ、鮮やかなもんだ。やりますね、国境守備隊の人らも」


「そうだな」


 キャリア・ビークル1号車のドライバーを務めるエリックが、頭上を跳び越す閃光から必死に目を逸らして快哉を上げた。助手席で戦闘を睨んでいたダディ・ペイラーは、エリックの無理をあえて見逃して、静かに頷いた。

 エーリカからのハンドサインが来る。黄金騎士団は浮足立っているが、地上に展開したエヴィロンスはお構いなしに車列へ迫ってきていた。


「よし、全車前進。小型が来るぞ! 銃座!」


『うひぇー、まさか私らまでドンパチすることになるとは……撃ちまぁす!』


 キャリア・ビークルのルーフに急遽取り付けられた銃座で機関銃のハンドルを握るマリッサが、悲鳴じみた声を上げながらもエネルギー弾をバラまいた。

 バリバリという連続した発砲音とともに殺到したエネルギー弾が、接近していたエヴィロンスの前衛を引き裂く。サンプルが山ほどあったので、連中の装甲強度については十分解析していた。

 今マリッサがぶっ放しているのは官制品を勝手にカスタムした対人・対物用の機関銃で、もし生身の人間に当たれば命中点を中心に半身が弾け飛ぶ程度の威力がある。エヴィロンスに対しても有効打を与えられることは計算上明らかだったが、実際こうして効果があることがわかれば安心もできる。

 3号車・5号車でも同様の機関銃による弾幕が張られ、エヴィロンスたちは接近もままならないまま銃撃の餌食となっていった。


「まっすぐだ! 多少の段差くらいは乗り越えられるから、日和るんじゃねぇぞ!」


「ウッス、おやっさん!」


 エリックが素早くクラッチを繋いでスロットルを開く。並走する味方の強化鎧骨格の足音を聞きながら、キャリア・ビークルが敵中を堂々と駆け抜けていく。


『い、行かせるかぁっ!』


『ッ!?』


 敵集団は指揮官を失って総崩れ気味とはいえ、完全に無力化されているわけではない。まだまだ戦意を喪失していない機体が、苦し紛れに車列に攻撃を仕掛けようと、その進行方向を遮るように歩み出た。エリックが慌ててハンドルを切ろうとするのを、横から伸びてきたペイラーの太い腕が抑え込んだ。


「怯むな! 味方を信じろ!!」


「う、ウッス!」


「銃座! 目くらましにはなる! 撃ちまくれ!」


『ひょえーっ! こっちは外なんですよォ―!?』


 マリッサが泣き言を叫びながらも、機関銃の照準を行く手を阻む敵強化鎧骨格に向ける。エネルギー弾は装甲表面で弾けるばかりで有効打にはならない。それでも、"圧"のようなものを敵パイロットに与えることはできたはずだ。

 胸殻を叩くエネルギー弾の五月雨は、それが致命のものではないとしても、確実に搭乗者の精神を苛む。実際、敵の動きは明らかに鈍った。


『どけオラァ!!』


『う、うわっ!? ア"ッ』


 そんな隙を晒した敵の強化鎧骨格は、横合いからカッ飛んできたガンズ8――ハッカクの強烈なショルダータックルによって弾き飛ばされ、浮いたところを後方からの射撃によってコクピットを貫かれて沈黙した。


『全車前進! GoGoGo!!』


 敵の上げた断末魔をかき消すように、車列の最後尾からガンズ2――ピーター・フック小隊長の号令が飛ぶ。エリックは無我夢中でアクセルを踏んだ。


「飛ばしますよ!」


「いけいけいけ!!」


 キャリア・ビークルはその巨体ゆえ、最高速度は時速80キロがせいぜいだ。味方の強化鎧骨格を置いて先行してしまう心配はない。


『浸透を最優先! 残敵の掃討は不要!』


『『了解!』』


 やがて最後尾の5号車が封鎖線を突破する頃には、18機いたはずの敵強化鎧骨格部隊は3機にまでその数を減らしていた。対してこちらの損害はゼロという理想的な状況で推移している。ピーターは壊走状態にある敵の掃討よりも、いち早く目的地へ到達することを優先した。


「……追ってきたりしませんかね、まだ3機いるみたいっスよ」


「ビビりすぎだ。ったく、若いくせに肝がちいせぇな」


「仕方ないじゃないっスか、俺たち整備班っスよ?」


 バックモニターをひどく気にするエリックをペイラーが窘めると、エリックは余裕がないながらも唇を尖らせた。ペイラーはヘルメットのつばを直しながら、わざとらしく大きな溜息を吐いた。


「あのな。俺たちゃ整備班である以前に、王国陸軍の兵隊だ。そんなに腑抜けてるなら、隊長さんに頼んで鍛え直してもらわねぇとな」


「そればっかりは勘弁っス!」


 エリックは体をぶるりと震わせてから、背筋をしゃんと伸ばしていった。ティエス・ブートキャンプの特別メニューにはそれなりのトラウマがあったからだ。アレをまた受けるくらいなら、まだこの鉄火場に晒されたほうが安いと本気でエリックは思った。

 ペイラーはその様子を小さく笑ってから、ポンとエリックのメットを叩いた。


「そんじゃあ、泣き言言ってねぇで自分の仕事を果たせ」


「了解っス……!」


『私はまだ撃ち足りないんですけど―! うがーっ、獲物はどこじゃァ―!!』


「無駄弾撃ってんじゃねぇバカ!!」


 銃座のマリッサが機関銃ですっかりトリガーハッピーしているのを叱りつけ、ペイラーはいつの間にか浅く浅く腰掛けていたシートに深く腰をうずめた。

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