5-52 封鎖線突破②
『ガンズ4!』
『任せろ! B分隊、私に続け!!』
『『応!』』
ガンズ2――ピーター・フック小隊長の短い指示で真っ先に動いたのは、チェーンソーを装備したガンズ4――エーリカ・テッペ麾下の国境警備隊だった。車列の前面を警戒していたこともあったし、何より彼らは実戦経験が豊富である。国境を侵すのは、なにも植物やモンスターばかりではないのだ。
『ガンズ5、ガンズ6はキャリア・ビークルを護衛しつつ支援射撃でB分隊を援護! 味方に当てるなよ!』
『了解!』
ニアとハンスが自機に装備された突撃杖を敵集団に照準し、躊躇なく引き金を弾いた。3点射で打ち出された光弾が敵の杖持ちのコクピットを見事貫き沈黙させる。
『っし、ヒット』
いまのはハンスの射撃だったか。撃破した強化鎧骨格のパイロットは絶命しているはずだが、ハンスにそれを気負うようなそぶりは見えなかった。ピーターはひとまず安心をして、メンタル的なケアの事は全部終わってからティエスに丸投げしようと心に決めた。
ニアの射撃は敵機の撃破こそかなっていないが、それでも敵から行動の選択肢を奪う働きとしては十分だった。
『な、何をしている! かかれ、かかれーっ!』
敵の指揮官がほえるが、敵集団の動きは鈍い。
残り17機。初撃で味方が撃破されたことで、敵部隊は傍目に浮足立っていた。前衛への圧力が明らかに減り、おかげでB分隊は迷いのない速度で敵集団に躍りかかった。
『まず頭から潰させてもらうッ!』
『何!?』
エーリカの強化鎧骨格が、言うやいなや長柄の得物を突き出した。先端でヴーンと唸る丸鋸の刃が、敵指揮官機の無駄に華美な装飾を削り取る。しかし致命打にはならない。敵指揮官機が、寸前で機体をのけぞらせたからだ。たたらを踏みつつも、幾何かの距離をとる。伊達で指揮官をやっているわけではないらしい。
初撃を躱されたエーリカは、しかし焦ることもなく機体を操作した。突き出した得物を素早く引き戻し、ヘッドの角度を少しばかり変更して再び突く。敵指揮官はそれを剣で弾こうとして、それは成功するものの、回転刃に剣を巻き取られた。
『ぬぅ!?』
『余所見とは余裕だな!』
虚空に弾かれ放物線を描く剣の軌跡を、敵指揮官機は目で追ってしまう。その致命の隙を見逃すエーリカではなかった。
敵の剣を弾いたことで発生したキックバックのベクトルを、無理に制動せずにそのまま円運動に変換する。エーリカは機体を勢いのままくるりと一回転させると、その勢いのまま得物を薙ぎ払った。
鋼鉄が鋼鉄を引き裂く異音が響く。うなりを上げた回転刃が敵指揮官機の大腿に深々とくらいつき、そしてやすやすと食い破った。森域の若木を伐採するための丸鋸に掛かれば、強化鎧骨格の装甲板などは紙も同然である。運用にはかなりの技量を求められるとはいえ、エーリカには十分その技量があった。であれば無論足の一本で終わるわけもなく、間もなくもう一本も同じ運命をたどった。
『き、機体が……がぁっ!?』
直立二足歩行の戦闘兵器である強化鎧骨格にとって、脚部の全損はその戦闘能力の全損とほぼ同義だ。切断面から座屈するように頽れて、指揮官機の上半身は背中からしたたかに、地に墜ちた。
『ひ、ひぃぃぃ……!』
エーリカは、天を仰ぐばかりになった指揮官機の上半身に回転刃を突き付ける。スピーカーのスイッチを切り忘れたのだろう。敵の指揮官の情けない声が、詳らかに戦場に響いた。
『や、やめろ! 命ばかりは……』
『……』
エーリカは少しためらってから、それでも容赦なく回転刃を突き下ろした。念入りに、三度に分けて。断末魔めいた敵指揮官の絶叫と、それをかき消すほど大音量の切削音が戦場を揺るがす。やがてそう時間を置かずに、声は聞こえなくなった。
「ふぅ……」
エーリカはマイクも拾わないほどの小声で小さく息をつくと、十分周囲に警戒しつつ機体を屈ませる。光画盤には、四肢を切り離された指揮官機の姿。コクピットには傷一つ入れていない。
エーリカの強化鎧骨格は指揮官機の襟首をがっしと掴んで立ち上がると、その頭部ユニットを、高らかに、見せびらかすように掲げた。
『敵将討ち取ったり! こうなりたくなくば、おとなしく道をあけろッ!』
敵集団に絶大な動揺が走ったのを、その戦場に居合わせた誰もが感じた。




