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ティエスちゃんは中隊長  作者: 永多 真澄
とべとべ! 森域動乱編

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5-49 老兵は死なず(直喩)①

「かかれぇっ!」


「生かして返すでないぞ!」


 ゼニーゴとハツーカの耳障りな号令が契機となって、囲みが動く。エヴィロンス・シリーズが雪崩をうって踏み込んだ。金属質の足音が幾重にも重なって、まるで本当の雪崩のようだ。トマスは短杖を先頭の一体に照準しながら、やや現実逃避気味に思った。


「盾ッ!」


 それでも体は正確に動くのは、長年の経験の賜物だ。トマスの号令に即応し、SP達は盾の力場を発生させてハラグロイゼ卿とライカを固く取り囲む。それを見届けるより先に、トマスは短状の引き金を弾いた。


――パァン!


 乾いた破裂音に先行して奔る、白い閃光。火魔法の応用である純粋なエネルギー弾は、先頭で今にも躍りかからんとするエヴィロンスの、踏み込みの膝を砕いた。


(関節は銃撃が通るか!)


 続けざまに二発射撃。体勢を崩したエヴィロンスの、一発は胸部装甲に、もう一発は頸部にそれぞれ吸い込まれる。

 胸部装甲に命中した弾は弾かれた。装甲が厚い。この短杖の出力では貫けない。頸部には風穴があいた。ケーブルとオイルとフレームの破片が飛び散り、支えを失った頭部が捥げ落ちる。エヴィロンスの首から下はもんどりうって倒れ、機能を停止した。爆発はしないらしい。


「狙えるものは関節を狙え! 銃撃が通る! 姫は前に出るなッ」


「了解ッ!」


「……たのみます!」


 トマスはそう声を張り上げて、さらに三発射撃。その全弾をエヴィロンスの関節部に命中させ、その戦闘力を奪った。一帯は首を飛ばされて機能停止し、一体からは庇った右腕を、もう一体からは左足を奪う。


(まったく、どこにこれだけ隠していたのやら)


 トマスは半笑いになりながら、視界を埋め尽くすエヴィロンスを射撃する。キリがない。視界に入るだけで、30体はいるのではないだろうか。

 ライカは剣を握り締めながらも、よく自制してくれている。暴走しないかが心配の種であったが、杞憂のようでトマスは安心した。

 SPも短杖片手に応戦しているが、盾にリソースを回している分攻撃は散発的だし、そもそもその銃撃のほとんども装甲版に阻まれて有効打になっていない。まあそれはいい。トマスとて、動き回る標的の関節をピンポイントで狙うことの困難さは知っている。自分ができるからといって、SP達が同じことができるとは思っていない。装甲版に当たるだけでも牽制にはなっている。今はそれでいいと結論した。

 結局、数減らしは自分がやるほかない。


「まったく、老骨には荷が重い!」


 敵が飛び道具を持っていないのが不幸中の幸いだった。持っていれば今頃ハチの巣になっていただろう。力場の盾があるからといっても、この数で飽和射撃されればひとたまりもない。愚直に飛びかかってくるだけだから、何とか捌けているが――


「トマス卿」


「ハッ!」


 トマスの後ろで身を縮めているハラグロイゼが、場違いなほど穏やかな声で呼びかける。トマスは振り向かず、向かってきたエヴィロンスを無力化しながら応えた。多少の無礼はこの状況だ。許される。


「あとのことは気にしなくていい。貴卿の思うようにしたまえ」


「――!」


 ハラグロイゼがウインクをした気配がした。トマスは小さく頷くと、SP達もその後の動きを察したらしい。巧妙に位置取りを変えて、トマスが抜けてもいいようにする。

 最前のエヴィロンスが、頭部を吹き飛ばされて頽れる。それを合図に、トマスは地を蹴った。


「せぇい!」


 エヴィロンスが繰り出した、手甲の刃による鋭い刺突。それを腕ごとからめとって、腰を落とし、捻る。ウソのような勢いで、成人男性の数倍の質量をもった重量物が宙を舞った。フェンヴェール王国陸軍印の軍隊格闘術だ。トマスは獲物の落下の方向をコントロールして、それを正面の群れへ叩きつけた。エヴィロンス自体が質量弾となって、落下地点の同胞をボウリングのピンのように薙ぎ払う。


「ヒ、ヒィツ」


 キーキーという上ずった悲鳴が聞こえる。突破口が開けたと同時に、姑息にもこの場から逃げ出そうとしていた小物(ふたり)の姿が浮き彫りになる。

 この状況を作り出した元凶、ゼニーゴとハツーカ。慌てふためく無様な二人の至近まで、トマスは折り重なったエヴィロンスの残骸を踏切台に、一足飛びに跳んだ。


「お、おのれ……ガッ!?」


「ケットシーの!?」


 手向かおうと懐に手を突っ込んだゼニーゴが、トマスの放った銃撃に眉間を射抜かれて絶命する。そのあまりにもあっさりとした幕切れに、ハツーカの小さな脳みそは理解を拒んだ。そうして致命的に動きが鈍った獲物を、トマスが見逃すはずもなかった。


「小鼠人のハツーカ・スチュワート! 今すぐこの馬鹿げた玩具を止めろッ!」


「ヒッッヒィ~~~~!?」


 胸ぐらを掴み持ち上げられ、眉間に短杖を突き付けられたハツーカは、無様な悲鳴を量産するだけの存在に成り下がった。

 ハツーカの脳内に渦巻いていたのは、どうしてこうなったという後悔ばかりだった。エヴィロンスに戦わせて、自身は後ろに隠れていれば、安全なまま国盗りができるとウィドー王は語っていたのに。


「お、おのれぇ、謀りおったか賢狼人(レイフィール)――ピギャッ」


「余計なことは喋るな」


 ハツーカが見当違いの怨嗟を吐くも、それは無慈悲に中断させられた。トマスの銃撃が、ハツーカの耳を飛ばしたからだ。

 状況はいまも流動的に動いている。エヴィロンスは命令者であるハツーカよりも、ハラグロイゼ卿たちの排除に執心のようだった。悠長に問答をしている時間はない。一秒が惜しい。


「ヒッ、ヒヒヒ、無理だぁ、アレらを止めることはできない! ーーギャッ」


 ハツーカは狂気走った赤い目に涙を浮かべながら、嘲るようにキーキーと言い捨てる。それが真実だったのかブラフだったのかはわからない。それでも、トマスは一瞬で見切りをつけて、ハツーカを壁に全力で叩きつけた。エヴィロンスの動きは変わらない。人質としての価値もない。トマスはうめくハツーカの眉間に一撃くれると、前室の扉を蹴り開けた。廊下に敵の姿は――ない。


「援護する! 走れ!!」


 にじり寄っていたエヴィロンスを投げ飛ばし、SP達が対処しきれていなかった個体を射撃しながら叫ぶ。経路は開いた。SP達はすぐにそれに応えた。


「トマス小隊長は!?」


「しんがりを!」


「……ご武運を!」


 脇を抜けていく護衛対象とSP達。それを横目に見送りながら、トマスは追いすがるエヴィロンスに向けて銃撃を放つ。熱線が閃くたび、エヴィロンスは倒れていく。

 引き金が急に軽くなった。カチカチとトリガーの音だけがして、電源呪符(タマ)切れを悟る。


(ッ、リロードを――)


 トマスが一瞬、気を逸らしたその瞬間のことだった。


 ドォォン——!


 強烈な重低音が響く。いや、響いたはずだ。しかし、トマスはそれを知覚できていなかった。なぜならば、それがトマスの耳に届くより先に、貴賓室には強烈な熱と衝撃が吹き荒れたからだ。

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