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ティエスちゃんは中隊長  作者: 永多 真澄
とべとべ! 森域動乱編

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187/203

5-47 ティエスちゃん、発進(リフト・オフ)!!

「チェックリスト、5番から12番までクリア」


「機関正常。電源呪符、充電100%。エネルギー経路正常」


「チェックリスト35番までクリア。そのほかまとめてオールオッケー!」


『真面目にやれ』


 オティカに窘められちゃったティエスちゃんだ。現在姫様と二人で指差し&声出し確認中。これを怠るとメーデーしちゃうのでふざけるのは良くないね。いや、チェックリストの確認はちゃんとやったので問題ない。俺は抗弁した。


「項目飛ばしをしたわけではないから安心しろって。そのほかってのはアレだよ。気持ちの整理とかそういうやつだよ」


『…………』


 オティカに白い目で見られた気がする。なんだよぅ。

 俺がくちばしをとんがらせると、オティカはこれ見よがしにため息をついた。お前本当に人間臭くなったなぁ。


『――発進シーケンスを開始する。打ち上げ台の展開を――まて、なんだこの曲は』


「ん、なにって」


 ♪ぱっぱらぱー ぱらぱっぱー ぱっぱらぱっぱっぱ~


 コクピットはおろか、整備区画内に朗々と鳴り響く勇壮なトランペットの調べ。オティカは顔もないのに、露骨に顔をしかめた。俺は実に得意げに胸を張った。


「サンダーバードのテーマに決まってんだろ。まぁ耳コピだからオリジナルとは違うだろうけど」


「サンダーバード……雷の鳥ですか?」


 姫が首をかしげる。そういやこの世界には富山県の県鳥であるところの雷鳥も、アメリカ妖怪のほうのサンダーバードも存在しないんだったな。まぁいいや。


「ええ。そう言うのがいるんですよ。サンダーバード。むかしは富山から大阪まで一本で行けたんですけどね」


「富山? 大阪?」


「ああいや、こっちの話こっちの話。いやあ、ワンダバと迷ったんですがね。あっちはコーラスがいるでしょ? その点、サンダーバードは俺だけで完結できるのが良い」


 自慢じゃないがこのティエス、ラッパが吹けるのだ。大学で学ぶ一般教養の一つでな、一時期軍楽隊にいたこともあるんだぜ?

 この曲もこの間、訓練の合間に吹き込んだものをピカリン氏とハカセに無理言って、発進シーケンスに組み込んでもらったんだ。

 そんな暇あったのかって? 俺は暇を見つけることにかけても天才だからな。

 姫の疑問符は見ないことにした。


『そういうことを聞いているわけではないが……もういい。好きにしろ。話が進まん』


 オティカは存在しない頭を抱えて、遂にさじを投げた。ホントに人間臭くなったなお前!?

 ともあれ、いちいち突っかかられるよりは楽でいい。漫才をするのは嫌いじゃない……どちらかといえばかなり好き……だが、TPOってもんがあるからな。今は離陸に向けての大事な瞬間だ。

 ……実際、前世込みで初めて空を飛ぶというだけあって、流石の俺も緊張で多弁気味になっている。いちいちとりあわないという判断は正しい。正直助かる。返事が返ってきたら無限にしゃべっちまいそうだ。


『打ち上げ台、展開』


 オティカのアナウンスに続いて、ずずんという振動が腹の奥を揺らす。この特別機アマツカゼを支えている特注特性のハンガーは、そのまま変形して即席の発射台になるように設計されているのだ。……マジでどれくらい時間を圧縮したら数日でこんなもんこさえられるんだろうな。あらためて恐ろしいぜ王国(わーこく)のテックパワー。


『――完了。次工程に移行する。『アマツカゼ』を発射ポジションへ移動。……姫、機体が大きく動く。注意を』


「こころえています。ありがとう、オティカ」


 おーおー、姫様にはホントにお優しいこって。俺にはないのかよ声掛けとか。


『ない』


 さよけ。がくんと機体が動き、コクピットの角度が水平状態からどんどん傾斜していく。だいたい仰角60°くらいかな。別に宇宙まで行くわけではないので、垂直に立てる必要はないのだ。


『――完了。次工程に移行する。進路確保』


 オティカが告げるとともに、整備区画の屋根の一部が爆発して吹き飛んだ。すわ敵の攻撃か!? もちろん違う。打ち上げに当たって邪魔になる部分を自発的に爆破しただけだ。整備区画は所詮仮設なので、爆薬の量もさほど多くなくて済む。天井を支えていた高強度集成木梁が燻りながらガラガラと床に落ちて、抜けるような空が見えた。


「進路クリア」


 コンピュータによる予測軌道が光画盤に表示される。高度限界ギリギリを攻めるフライトプラン。なんか敵さんも妨害を仕掛けてくるらしいからな。ホントかよ? 半信半疑だが、備えといて損はない。ブラフならそれでいい。

 光画盤の隅に、ブースターの残燃料を示すピクトグラムとインジゲーターが表示される。そして、カウントダウンの数字も。


『ブースター全機、主電源接続。冷却開始。カウントスタート、60』


 カウントダウンが始まる。画面右上のデジタル表示が、一秒ごとに切り替わっていく。俺はつばを飲み込んで、操縦桿をまたもや握りなおした。


「姫、そろそろです。心の準備は?」


 後席の姫に喋りかける。姫を慮るふりをして、自分の緊張を鎮めたいだけだ。自分よりテンパってるやつを見ると、意外と落ち着くもんだからな。


「――上等(ジョートー)、です」


「ふはっ、言いますねぇ。その意気です」


 だからそんなふうにシラッとした顔でいられると、俺も笑うしかなくなるんだよなぁ。ほんと、楽をさせてくれねぇお姫様だ。ま、俺は負けず嫌いだから、このほうが良いまである。カウントが40を切る。


『39、38、37、36――ロック解除。固定アーム、発射位置に移動。ガイドレール接続』


 ばしゅんという小爆発とともに、機体をがんじがらめに支えていたアームが外れていく。ぐん、という重力が機体にじかに掛かって、ブースターとの接続部がガチャガチャと悲鳴を上げる。ステータスチェック。グリーン。問題はない。天空に向かって伸びるガイドレールにブースターから伸びたアウトリガーががっちりとかみ合い、火花が散る。

 ロケットブースターの真横で火花とかいいのか? と思うかもしれないが、問題ない。ブースターの中身は可燃性の燃料ではなく、大量の電源呪符とその増幅変換回路だ。電源呪符から取り出した電気を増幅し、そのエネルギーをことなる魔法現象(今回の場合は爆発だ)に変換して、その反動を推進力とする。つまりこいつは電気で飛ぶ。


『20、19、18、17、16――電源呪符、励起開始』


 ひゅぅぅん、という、独特な響きが幾重にもアンサンブルする。人工筋肉の弦を弾くような音とも違うこの音は、大容量電源呪符の特徴だ。

 魔→電の変換効率の最大は、現時点では98.0655%といわれている。かなりの高効率だが、それでも100%ではない以上、どうしてもロスが出る。変換の際のロスが微細な振動となって、こうして音に聞こえるわけだ。

 聞いている分には悪くない音だが、振動してるってことは周囲の機械に当然悪影響を及ぼすってことで、正直鳴らないに越したことはない。今回はその振動分も計算に入れて遊びを持った設計になってるから、安心していいけどな。

 ま、さらなる高効率化は電源呪符研究者の永遠のテーマやね。未来の科学の発展に期待しよう。


「振動数、標準値。発熱量規定値以下」


『打ち上げまで、10』


 いよいよだ。姫様をちらりとうかがいみる。姫様はそれに気が付いて、ふわりと笑って見せた。俺もニッと不敵に笑って、真正面を見据える。カウントダウンは5秒を切った。


『5、4、3、2、1、メインブースター、イグニッション』


 背後で轟音が轟く。凄まじい振動が、コクピットを揺らす。感覚欺瞞で抑え込んでなお、破滅的なそれ。勇壮なトランペットの音は容易くかき消され、電源呪符の振動音も聞こえなくなり、オティカの声も切れ切れだ。

 しかし俺は、それにも負けないほどの大声で、高らかに宣言した。


「アマツカゼ、発・進(リフト・オフ)!」


 ブースターの尻に灯った業火が、巨大な質量の塊をゆっくりと、しかし加速度的に押し上げる。ガイドレールに沿って、空へ。空へと。

 轟音とともに吐き出された火焔と煙が、整備区画の内部をずたずたに引き裂いていく。壁と天井は吹き飛び、残置していた資材や電算機は形状をとどめないほどに溶けて消え、さらには打ち上げダイスらをも破壊しながら。


 アマツカゼが。空と同じ色をした、異形の巨人が。古い伝説から名を戴いた、必達の舟が。最大・最強の切り札(ティエス)が。

 いま、耳をつんざく轟音と、真っ白な尾を曳いて、ミルナーヴァの空を翔ける。

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