5-4 ティエスちゃんは太公望③
「ティエス・イセカイジン卿、この度は本当に申し開きのしようもなく、全てが僕の責任です……! どうか、この首ひとつで手打ちに……!!!!」
「親が親なら子も子だな……」
「どうか、どうか他の魚人たちはお見逃しください……!!!」
また土下座されてるティエスちゃんだ。場所は王国の借りてる整備区画に移している。やって来たそいつは、俺の前に通されるなり床で額をすり下ろさんがばかりの華麗なジャンピング土下座を決めた。なんなら当事者と一緒にその親父も横で土下座してる。ダブル土下座だ。やめてよね。
「やめてよね、俺が悪いみたいじゃん」
「……っ!」
当事者の肩がびくりとはねた。心証を損ねたと思ったんだろうか。思ったんだろうなぁ。なんかナチュラルに俺が根流しすっぺすると思ってるっぽいし。さすがの俺でもそこまではしねーよ。人道にもちゃんと配慮できるのがティエスちゃんだ。
「とりあえず顔上げろや。そんなんじゃ話もできねー」
「どうか……!」
「そのどうかどうか言うのもやめろ。どうかしてやろうか、ア?」
俺が優しく顔を上げるように言うと、そいつはゆっくりと顔を上げた。若干インスマス面だが、種族としては人間に近い容貌をしている。魚面の中ではまだ見れるほうだ。よっぽど親父の遺伝子がよわよわだったらしい。ざぁこざぁこ♡
「お前さん、名前は。ちゃんとテメーの口から聞きたい」
「……ジャスティン・ウォノエです」
「ふぅん、贅沢な名だねぇ」
とりあえず、ウソは言っていないようだ。俺はさらりと心を読んで、ひとまず胸をなでおろす。ないとは思うが影武者なんて立てられてた時には、そりゃもう殺すしかなくなっちまうからな。この界隈、舐められたら終わりなのだ。
その点デトリダスとジャスティンは誠実であると言えた。ちゃんと謝罪の意をもってこの場に臨んでいるし、ちゃんと首を差し出す気でいる。それはそれで困りものだがね。
しかしやたらかっこいい名前してんな。ちょっと嫉妬しちゃうぜ。
「まぁいいや。結論から話すぞ。まず、俺が魚人の集落を襲うことはない。なんかやたら心配してるようだが、俺はこれでも公務員でね。さすがにそこまでの無法はできねぇ」
「それは……」
ジャスティンは明らかにほっとしたような顔を浮かべた。魚人ってのはよっぽど同族意識が強いらしいな。それなのに息子を放逐した親父もいるようだが、まあそういうセンシティヴな話題には触れないでおこう。いろいろあるからね、親子の形。
「それと、お前の謝罪は全面的に受け入れよう。許す。首はいらん」
「イセカイジン卿……!」
ジャスティンは感極まったように俺を見た。魚めいた真ん丸の目がウルウルしている。うーん、タイプではないな。
俺はすこしだけ笑って、それからずいと身を乗り出した。ジャスティンはびくりと顔を引いた。大丈夫、とって食いやしねーって。上げて落とすような真似はしねーよ。
「許すは許すが、条件がある」
「条件……ですか?」
「ああ。なに、あんたにとっても悪い話じゃない。あんたは耐環境スーツを着ていないんだな?」
ジャスティンは横でまだ頭を下げている親父のデトリダスと違い、鰓呼吸を行うための防護服を纏っていない。見た目からして人間に近いから、肺呼吸ができるのだろうか。ジャスティンは突然の問いかけに首をかしげながらも、それに答えた。
「は、はい……僕はこの通りエルフと魚人のハーフです。肺も持っていますから、鰓の部分を湿らせておけば陸上でもスーツなしで活動できるのです」
「なるほど、ライギョみてーだな」
「ライギョ……?」
「気にすんな。しかしエルフの。お前さんの母君はずいぶんとモノ好きだったらしい」
ジャスティンは一瞬ムッとした表情を見せた。まぁ身内を辱められて何の反応を見せないよりはずっといい。エルヴィン少年が席を外しててよかったぜ。聞かれてたら俺の評価がガタ落ちしてただろうからな。
「すまない。さすがに失言だったな。だが、そのナリじゃ今までずいぶん苦労してきたろ。つい最近も職を追われたとか」
「……はい、おっしゃる通りで」
よく我慢している。あまり甚振るのも趣味じゃないし、さっさと本題を告げよう。俺は所詮小市民的な人間なのだ。
「俺んとこに来ないか」
「………………………………………………は?」
ジャスティンが長い沈黙ののちにひねり出したのは、結局まとまり切らなかった疑問符だった。あぁ俺も説明が足りないことは承知しているから、それで心証が悪くなることはない。これはいわゆる掴みだ。
俺は椅子の背もたれをぎぃと鳴らしながら続けた。
「ジャスティン、アンタ凄腕の発明家だそうじゃねーか。デトリダスから色々聞いたぜ」
「そ、そんな。僕は……」
「謙遜は過ぎれば嫌味だぜ。俺だってそれなりに見る目はあるつもりだ。デトリダスの耐環境スーツについてる発話型対人インターフェース、あれはアンタが発明したんだろ?」
本来、魚人とその他氏族は声でのコミュニケーションができない。喉の形状が違いすぎるからだ。だからこれまでは、基本的には手話か筆談でのコミュニケーションが主になっていた。
デトリダスに最初声を掛けられたとき、魚人だと気付かなかったのもそれが原因だ。奴は俺に声をかけてきたのだから。
「はい、確かにそれは僕の発明ですが……」
「うん。それでお前さんは、その技術をほかの事業に転用したよな?」
「……どこでそれを?」
ジャスティンの声音に剣呑なものが混じった。さっきまで謝り通しで、どこかおどおどした雰囲気を漂わせていたくせに、ガラッと様変わりだ。いや、最初から覚悟は強かったか。手前の首で手打ちにしようとしてきたような輩だもんな。
とはいえ、それはよくない。隠し事は下手みたいだな。なんかありますよと白状してるようなもんだ。
俺はちょっと楽しくなりながら、同席していた人物をちょいちょいと手招きする。
「なんかの怪談みたいで悪いんだがな」
招き寄せた人物――オティカは、俺の言葉にあわせ、目深にかぶっていたフードに手をかけた。
「そいつは、こんな顔じゃあなかったかい?」




