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ティエスちゃんは中隊長  作者: 永多 真澄
とべとべ! 森域動乱編

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5-3 ティエスちゃんは太公望②

「で、どういう了見でのこのこ出てきやがったんだ、あぁ?」


 恫喝するティエスちゃんだ。いや恫喝じゃないよ人聞きの悪い。お話だよお話。

 あの後、急に出てきた不審者に害意がないことが分かったので、俺たちは近くのファミレスにやってきていた。まだ昼前ということで、客はそんなにいない。エルヴィン少年はドリンクバー取りに行ってる。

 ちなみにハラグロイゼ卿は公務がこんもりあるとのことでお帰りになられた。ホッ。去り際に大ごとにするなとしっかり釘は刺されたがね。

 とはいえこちらとしても収まりがつかないので、俺はテーブルをはさんで座る不審者……もとい魚人の男をキッと睨みつけた。


「……誠に、誠に申し訳ない限り。倅の不始末は親の不始末。この身、いかようにでも調理してくだされば――」


 とはいえ、奴さんさっきからこの調子だ。初手スライディング土下座を決めてくるような輩なので読めた展開ではあるが、さりとてこうも平身低頭謝罪されてはこちらも迂闊な手出しはできなくなる。

 俺は聞こえよがしに舌打ちをした。


「まずは名を名乗れや。こちとら森域中の個人情報持ってるわけじゃねぇんだぞ」


「これはしたり。重ねて申し訳ない。吾輩はこういうものでして……」


 そういって目の前の魚人は耐環境スーツの物入れから一枚の紙きれを差し出してきた。名刺だ。一応、この世界にも名刺の文化はある。どうせまたぞろ転生者が広めたのだろう。便利だしね。俺みたいな軍人にはあんまり縁のないもんだから、ちょっと新鮮だ。

 というかこいついま吾輩(ティエス訳)って言った? どうしよう態度とのギャップが激しい。こんな平身低頭してるやつの使う使う一人称じゃねーって。いかんな、急にギャグぶっこまれたみたいな感じになってる。笑っちゃいそう。スネイプ先生くらい嫌味になってから出直して来い。

 俺は吹き出したくなるのを鉄面皮の下に隠して、名刺を受け取った。水棲種族だからか、名刺も紙というか厚手のセロファンみたいな材質だな。ほんのり湿ってたらどうしようかと思ったが、ちゃんと乾いてて安心した。えーと、どれどれ?


魚人(シーマン)族長、デトリダス・ウォノエ…………族長ォ!?」


 思わず大声出ちゃった。店内の視線が一気に自分に集まるのを感じる。俺は立ち上がって方々にペコペコ頭を下げた。


「なになに、どうしたんだよ」


 ドリンクバー取りに行ってたエルヴィン少年も俺の声に釣られて戻ってきていた。ところでお前なにそのグラスの中の色。メロンソーダをコーラとオレンジジュースとカルピスで割ったみたいな色だな。


「ああいや、ちょっとびっくりしただけだ。なんかこいつ、魚人の族長らしい」


「えぇーーーっ!?」


「わーバカ声がデカい!!!」


 俺は再び立ち上がって方々の客にペコペコ頭を下げた。犬人らしき店員が額に青筋を立てて笑顔を向けている(のだと思う)。これ以上騒がないようにしないとな。叩き出されちまいそうだ。

 謎の不審者改め魚人の族長デトリダスは、いまだ驚きの抜けきっていない俺たちに対して再び頭を下げた。


「王国の要人であるイセカイジン卿に対し働いた数々の不義理、齎した不利益、どうかこの首ひとつで手打ちにしていただきたく……!」


「ファミレスでする話じゃねぇな」


 こうも相手の覚悟がガンギマリ過ぎていると、俺としてはしらけてしまって半笑い気味だ。俺はエルヴィン君がとってきてくれたコーヒーを口に含げぇーっ! なんだこれ!?


「烏龍茶とコーヒー混ぜたら新境地が開けるかなって……」


 冒険するのは自分のグラスだけにしろバカ!!

 俺はグラスをエルヴィン君に押し付けてから、クソデカい溜息をついた。


「はぁ~~~~。もういいよ、怒るのがバカらしくなってきた。あんたも頭を上げてくれ」


「しかし……!」


「だいたい、やらかしたのはあんたの倅だろ。そいつがまず謝りに来るのが筋じゃねぇのか?」


 あれだろうか。次期族長として鰈よ泡よ(蝶よ花よの海中的ニュアンス)と育てられた結果増長しまくって、「なんで俺が謝りにいかねばならぬ!」とか言っちゃうタイプだろうか。


「イセカイジン卿のお言葉、至極ごもっともにございます。ただ、その、倅はいま留置場でして……」


「はァ? 留置場?」


 それ、俺がさっきまでいたところなんですけど。え、あいつ被害者じゃなかったんか? いや被害者ではないんだが……。


「はい……あなた様の針にかかったとき、倅は統合府との取り決めで進入禁止となっている水域に入り込んでいたもので……不法侵入の罪でそのまま……」


「なにやってんだあんたの倅は。そんなに庇い立てするような野郎なのかね」


 俺は盛大に嘆息した。とんだ無法者じゃねーか。つくづくなんで俺が捕まってんだって話だ。忖度か?

 俺の呆れかえったさまを見て、デトリダスは弁明するような口ぶりで言った。


「あんな倅でも、子は子、親は親なのです」


「跡継ぎだから大事にしてるってことかい?」


「いえ。倅は純粋な魚人ではないのです。私のあとは、あれの弟が継ぐことになっています」


 純粋な魚人ではない、ねえ。混血ってことか。モノ好きな女もいたもんだ。まあその辺は個人の趣味趣向の話だから、深くは突っ込まんがね。誰しも人に話せない性癖のひとつやふたつはもっているものだ。

 俺はさらに意地悪く切り込んだ。


「ますますわからんな。あれこれと言って、あんたは倅のやらかしが俺の勘気に触れて、その累が魚人全体に及ぶことは避けたいんだ。あんたはそれをさせないためのいけにえに、倅の首では軽いとみて、自分を犠牲にしてコトをおさめようとしてるんじゃないのか?」


「中隊長、さすがにそれは言い過ぎなんじゃ……」


「るせー、ガキは黙ってろ」


 エルヴィン少年をひと睨みして黙らせると、俺はまっすぐにデトリダスを見た。デトリダスは耐環境スーツのバイザー越しに、その真円の瞳で見つめ返してくる。……今更だけどこいつら、マジで正面から見るとSAN値がガリガリ削られそうな見た目してるな……。


「……イセカイジン卿の仰る通り、そういう計算がなかったと言えば嘘になりましょう。しかし他方で、親が子を想う心もまた真なのであります」


「そんなもんかね。俺は親になったことがないから、その辺はわからん」


 前世では女っ気の一つもなく、今世ではこんなのだから、結局長い主観時間を生きていても親の気持ちというのは全然理解できていない。ま、あのシャランがああなるくらいなのだから、相当なショックはあるんだろうが。

 う、うらやましいなんて思ってないんだからねっ!


「それに、今回の一件には吾輩にも咎があるのです」


「はう?」


「倅は(さと)を出て、賢狼の本領で奉公しておりました。それが数日前、暇を出されたと出戻ってきたのです。吾輩は――今思えば、なぜあれほどとは思うのですが、倅をしかりつけ、二度と我が家の敷居はまたがせんと、放逐しました」


「なるほど、それで食うに困って俺の釣り餌に食い付いたと。たいやきくんか何かか?」


 あいにく、俺は海の中に落ちてたたい焼きを食うような精神性は持ち合わせていないが……。


「賢狼で奉公と言ったな。あんたの倅はいったい何をやってたんだ」


 自分でもバカだなと思うんだが、就職難で貧困にあえいだ結果道に落ちてるゴミを漁るような生活をしてるというのを聞かされたら、何か世話をしてやりたいと思ってしまう。特に今は賢狼の姫とも近い。よっぽどのことじゃなけりゃあ――。


「何かしらの研究所で研究者をやっていたと……倅はあれで発明家でして、この耐環境スーツの対人発声インターフェースとやらも、倅が発明したものなのです」


「――その話、詳しく聞かせろ」


 前言撤回。やっぱり俺は釣りあげたたい焼きを食べるおじさんかもしれない。

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