4-59 ティエスちゃんは準決勝④
「さぁて。仕切り直し、と行きてぇとこだが――」
思いのほか疲労の激しいティエスちゃんだ。最近ホネのない奴らばかりを相手にしてたから腕が落ちたか?
悔しいが、力量は若干相手のほうが上だな。 俺もまだまだだぜ。なんにせよ、長引かせるだけ俺が不利だ。速攻で――
「うおっ!?」
シュイオンのテンチュイオンが、いつの前にか目の前にいる。鋼鉄の腕が風を切り、抉るようなフック。俺は反射的に機体を傾け、右腕で受け止める。衝撃が全身を駆け巡り、コクピット内をかき回した。直撃したわけでもねぇのに、これか!
「やるじゃねぇかよオイ……!」
だが、それだけだ。俺を落とすには足りない。それはシュイオンも承知のようで、すぐさま次の攻撃を繰り出してくる。ジャブにフック、時折蹴りと足払いを絡めた連続攻撃をかろうじてしのぎながら、反撃の機会をうかがう。ここだ!
連撃の間隙を突くような一撃。相手の脇腹を狙った回し蹴りはしかし、空を切る。どこに行った? 後退したわけではない。それなら少なくとも、前方視界には捉えられているはずだ。となれば、上か!
太陽を背に、ひらめくシュイオンのテンチュイオン。それは空中で一回転すると、両足をこちらに突き出すように落下する。いや、落下ではない。これは蹴りだ。機体の全重量を足裏に集約させた、フライング・キック!
「おめぇは仮面ライダーかよ!!」
強化鎧骨格そのものを質量弾とするような攻撃を、受け止めて無事ではすむまい。ショッカー怪人のように大爆発することはないだろうが、かといってコクピットブロックに直撃すれば俺はつぶれて死ぬだろう。冗談じゃねぇ。
膝のばねを使って大きくバックジャンプし、キックの攻撃範囲外へと飛びずさる。しかし、シュイオンの機体はあろうことか、空中で姿勢変更をした。ホーミングキックだ。ウソだろ!?
「んぬぐぉぉぉ! バリヤーッ!!」
直撃コース。姿勢的に、これ以上の回避はできない。俺は咄嗟に腕を前に突き出し、力場を張る。火魔法と風魔法のちょっとした応用、名前を付けるなら慣性緩衝場ってところか? とにかくあれだ。バーリア! バリアしたから効きませーん!(物理)ってことだ。ぶっちゃけぶっつけ本番だからうまくできる保証はないが、なぁにバリアなら!前世で山ほど見てきたんだ。イメージソースには事欠かない。魔法を成功させるコツはイメージと自信だ。
急にファンタジーみたいなこと言いだしたなって? もとよりファンタジーだよ!
シュイオン機の足裏が、バリアと接触する。即席慣性トラップに突っ込んだテンチュイオンは急激に減速し、中空で一瞬制止する。よぉし、うまくいった!
躊躇なく、その足をがっしと掴んで腰に抱くと、自分を軸に振り回す。ジャイアントスイングだ! 今頃は強烈な遠心力がシュイオンを襲っているはずだ。足を掴まれている以上、十分な抵抗もできやしない。頼むからこのまま気絶するか死んでくれ!
「どォりゃあっ!」
回転が最高潮に達した瞬間を狙いすまして抱えていた足を手放せば、まるで砲弾さながらの速度でシュイオン機が射出される。まさに原始の投石器だ。
「まだだっ!」
俺は自分で投げ飛ばしたシュイオン機を追うように地を蹴る。さっきの空中制動、相手も相当の火魔法の使い手と見た。ならばこのまますんなり投げ飛ばされてはくれないだろう。ダメ押しが必要だ。
俺はさっき打ち捨てた大太刀の柄を拾い上げると、刀身を生成してひと思いに振りぬく。予備の武器を持ってないとは言ったが、捨てた武器を直せないとは言ってない。エーテル取扱者甲種一級舐めんな!
とはいえ細かい調整なんてのはやっている暇もない。鋭さは二の次だ。技量もへったくれもなく力いっぱい振るだけなんだから、そんなステータスは必要ねぇ。とにかく長く、硬く、重ければそれでいいんだ。だからこれは、剣というよりはもはやこん棒だった。
カキーン! と、バカみたいに澄んだ打撃音が鳴り響く。自分で投げて、自分で打つ! これがほんとの二刀流ってか。一人ホームランダービーだ。いや、いちおう二人か。友達はボール!!
投げの加速に打撃の加速が加わって、シュイオンのテンチュイオンは結界をぶち破りライトスタンドに突き刺さった。観客の騒ぐ声、もうもうと土煙が立つ。やがてそれが晴れた時――
「おいおい、冗談だろォ……?」
思わず、俺はバットを振りぬいた状態で半笑いになった。機体のカメラが捉える先。土煙の晴れたそこには、地に片膝をつき、胸部装甲をべこべこにへこませつつも、いまだ闘志の火は消えぬとばかりに立ち上がる。青いテンチュイオンの姿。
気を引き締め直す。こん棒化した大太刀を再び大太刀の形状に成形し、下段に構える。青いテンチュイオンもまた、虚空から一振りの剣を取り出し構えた。鍔飾りに華美な装飾のなされた、実用というよりは、儀礼用といったほうがふさわしそうな剣。
怖気が走る。先ほどの比ではないプレッシャーが、その剣から、シュイオンから放たれる。操縦桿を握る手に、じっとりと汗がにじみ出る。シュイオン機が一歩、踏み出す。
『――そこまで』
しかし、その機先は割り込んできた第三者によって遮られた。あれは……審判の強化鎧骨格だ。
『シュイオン機、場外。よって、本試合はティエス・イセカイジンの勝利とする』
いわれて、気づく。バトルエリアの石舞台を出て、シュイオン機は観客席直下。しかし場外負けなんてルール、あったっけか?
『特別措置だ。これ以上会場を壊されてはかなわん』
俺の疑問に答えるように、審判の強化鎧骨格からノイズ塗れの秘匿回線がつながる。まぁ秘匿回線って言っても、シンプルな魔力電話だけどな。外部マイクで呼びかけてないものは基本秘匿情報だ。とりあえず観客に知られなければいいという感じだろう。
『……承知した』
審判と違う声が、通信機から聞こえる。渋カッコイイ重低音だが、そう年嵩の印象はない。なるほど、これがシュイオン・カーンか。初めて声聞いた。不承不承という感じだが、判定には従うようだった。……しかしこいつを抑える審判はマジで何もんだよ絶対戦場では戦いたくねぇ。
全身が脱力するのを感じる。ふぅ。久々に肝が冷えた。これが死合いじゃなくて試合で助かったぜ。マジの命のやり取りだったら、最悪負けてたかもしれねぇ。その場合、負けってのはすなわち死だ。久々に、背中が寒くなる。病み上がりを理由に鍛錬をサボっちまってたからな。このごたごたに片がついたら修行でもするか……。
ま、それは今後の展開として。
「やったー! かったぁー!!」
俺は得物を掲げて勝鬨を叫んだ。ようやく事態を理解した観客たちがパラパラと拍手をはじめ、それが万雷になるまで、そう時間はかからなかった。




