4-57 ティエスちゃんは準決勝②
「いーやいくらなんでもピーキーすぎんだろ」
コクピット内でボヤく半笑いのティエスちゃんだ。ピーキーなセッティングの機体を乗り回すなんてロボアニメの主人公みたいだぁ、なーんて思ってたら、舞台に上がるまでだけですでに10回はスッ転びそうになったぜ。今までの感覚で足上げたらつま先が頭の高さ越えるんですよ。モンティ・パイソンのバカ歩きかっての。
そんなだから審判からも観客からもふざけてんじゃねーみたいな目線で見られるしさぁ(被害妄想)。そもそも今回のカードは森域全然関係ない対戦なので、オーディエンスの反応もイマイチだ。とりあえず選手に悪いし盛り上がっておくかーみたいな感じ。愛想笑いかよ。
ま、とはいえ機体特性も何とか掴めた。なるほど、出力は馬鹿だけど確かにそこさえ気を付ければ俺の操縦特性にバチピタで合わせてある。あの変態どもめ。ちゃんと寝ててくれよマジで交代でいいからさ……。
『東、フェンヴェール王国陸軍中隊長、ティエス・イセカイジン』
審判に名前を呼ばれたので、とりあえず観客にアッピルする。今回はマッスルなポーズ6連発だ。肩に重機乗せてるどころかそもそも重機だからな。ナイスパルク! 観客席からは歓声と笑いが降ってくる。うん、ちゃんと制御できる。これならやれる。
ところでこの審判、1回戦の時のやつだな。結局当たることはなかったが、選手としては参加してなかったのか? まぁ相当な手練れだろうから、楽をできたといえばそうなんだが、ちょっと一戦交えてみたかったなという心残りはある。とりあえず頼むから野生の後継者側にはついてないでくれよ。殺し合いになるのは普通に面倒くさそうだ。
『西、ラクルタス帝国禁軍千人将、シュイオン・カーン』
対峙するのは、群青に金の装飾が施されたテンチュイオン。不要な装備を極限まで削ぎ落したかのような痩躯は、貧相というよりもひたすらに質実剛健。ただ静かに試合開始を待つ姿からは、得も言われぬプレッシャーがある。ただファンサを全然しないので、観客ウケはよくないみたいだ。駄目だぜエンタメってもんをバカにしちゃあ。
乗り手のシュイオン何某という名前は聞いたことはないが、禁軍のしかも千人将ともなれば油断できる相手ではない。禁軍というのは皇帝直轄の精鋭部隊で、王国で言うところの近衛軍と同等だ。つまりニアの親父であるあのテッテンドット卿を筆頭とした化け物どもの同類である。そう考えると急に勝てる気しなくなってきたな。考えるのをやめよう。
ちなみに千人将というのは帝国軍の階級で、前世の軍隊だと大佐とか准将あたりに相当するんだったかな。伊達や酔狂で名乗れる肩書じゃあない。
「よう。せいぜい楽しませてくれや、帝国の」
『……』
「ウチの連中が魔改造したテンチュイオンⅡと、おたくの純正テンチュイオン、どっちが強いか、見ものだな」
『……』
「お~い、きいてるぅ~?」
つとめて気楽に言葉を投げるも、帰ってくる言葉はない。くそー、マイクパフォーマンスにも乗ってこねぇのかよ。ほんとに人間乗ってんのかぁ? しかし態度で示すとばかりに、青いテンチュイオンは腰に佩いた太刀の鞘を払う。ズラリと重い音を立てて引き抜かれた刃は肉厚で、刃渡りは5メートルばかり。太刀っていうか、大太刀だな、あれは。
人であれば持ち上げることすらかなわないようなその暴力のカタチを、強化鎧骨格の膂力は容易く、いっそ流麗なほどの所作で正眼に構える。たったそれだけの動きで、相手がとんでもない力量の持ち主であることがわかる。
おぼえず、背にぶるりと震えが走った。怖気か? いいや、武者震いだ。
面白れぇじゃねーの。俺も敵と同じ得物――大太刀の鞘を払い、大上段に構える。いいぜ、相手になってやる。俺のチェストを受けてみろ。
否応なしに、石舞台の上の空気がぴぃんと張りつめていく。それは糸のようなものだ。テンションが閾値を超えた瞬間、勢いよく千切れて荒れ狂うのがさだめである。
『試合、開始――』
審判の静かな宣言。それが、糸の千切れる合図だった。




