4-56 ティエスちゃんは準決勝①
「なぁにこれぇ」
「お前さんの機体だよ」
おめかしし直した愛機を見上げてポカーンなティエスちゃんだ。なんだろうな、テンチュイオンⅡベースなのはそうなんだけど、なんというかこう……全体的に骨太になった? いやあと10分で試合始まるんだけどォ!?
「昨日見た時と形が違ってるんですがそれは」
「変えたからな」
何しれっと言ってんだてめー!? あと10分で試合始まるんだけどォ!?
「俺、なんも調整とかしてないんだけど」
「心配すんな。隊長さんの特性にバチピタにあわせてある」
おやっさんがすっげぇドヤ顔で親指を立てた。いやそんないい顔されましても。こちらを遠巻きにうかがっている整備員の連中もどこか満ち足りた表情をしている。これは寝てない奴の顔だな。ご苦労さん。
それはそうと、さすがに無調整で即実戦ってのは……。
「組み上がったばかりの調整もしてない最新型で大戦果、ってのはロマンだと思わないか?」
「ロマンじゃ戦争はできねぇ……なぁこれ普通発言者逆じゃない? 怒ってる?」
「怒ってないよ」
よかった、怒ってなかった……。
いや怒ってないにしてもさぁ。ちょっとこれ……いや、おやっさんたちの腕は大信頼してんだけど、それはそれこれはこれだ。大丈夫? 準決勝だよ? 俺が負けたくないのはもちろんあるけど、これ結構政治的に重要なイベントでぇ……なにせ。
「次の相手、帝国の派遣部隊のトップだろ、確か」
「そう聞いてるな」
俺たち王国が親善試合に武官を派遣しているのだから、帝国ももちろん派遣していないわけがない。今までは意図的に接触を避けちゃいたが、ちょくちょく見かけてはいたからな。
帝国軍が装備しているのは、もちろん純正品のテンチュイオンだ。森域や周辺国でライセンス生産させてるテンチュイオンⅡとの性能差は歴然で、前世で例えるならSu-35とSu-30の違いみたいなもんだ。どっちもフランカーだが輸出仕様は色々制限されてるわけやね。なんでたとえが東側の機体なのかって? だって西側よりデザインかっこいいし……。スホーイ機のデザイナーだけアメリカに亡命してくんねぇかな。PAKFA(Su-57)とかもステルス機の中じゃいちばん好きなんだよな。性能はともかく。いかん話がずれた。
つまり、機体の時点で結構不利なんだな。これが王国のアーゼェンレギナなら話は変わるぜ? うちのはさしずめF-15EXってところだからな。F-22って言えるほどの差がないのは悲しいところだが。
それをだ。ただでさえ性能で劣ってるテンチュイオンⅡにアーゼェンレギナのコクピットを無理やり継ぎ接ぎして、なおかつベース機が辛うじてわかるくらいのカスタムをした機体を、ほいっと準決勝開始10分前にお渡しされた俺の気持ちもわかってほしいなぁ!
「やっぱ相当怒ってるだろ」
「怒ってねぇって。なぁに、俺たちが心血注いでくみ上げた機体だ。隊長さんが乗りゃあ、帝国の雑兵なんて片手でひねるくらいだろうよ」
「雑兵ならな? 準決まで上がってくるような奴だぞ、ぜってぇめんどくさいって」
「はっはっは。ずいぶん弱気じゃねぇかさすがに懲りたか?」
なにわろてんねん! あと俺は別に弱気とかそういうんじゃないからね? どっちかといえば超強気だかんね? チャンスステップで無限行動しちゃうってもんよ。EN切れだけは勘弁な。
俺はプンスコと受領票にサインをして、殴りつけるようにおやっさんに渡した。
「負けたら俺は平気でお前ら整備班のせいにするからな」
「ククッ、指揮官としてあるまじき発言だなぁ」
「うるせー! あとで感想戦するからな、今のうちにちょっと寝とけよ!」
俺はおやっさんを軽くどついてから、タラップを駆け上がりコクピットに滑りこむ。外装が様変わりしていても、コクピットだけは馴染んだ感触が残っているのがいっそ奇妙だった。ハッチを閉鎖すると、今までの喧騒がウソのようにあたりは静寂だけになる。
『出力が前回から145%アップしてるから、そこだけは気を付けてくれ。歩くだけですっ転ぶようなへまはしないでくれよ』
「バカなの!? いや疑問形にする必要もねぇわ! バカ!!!!」
『なぁに、予備機のほうも完璧に仕上げてある。そいつは惜しいが、帝国の連中に一泡吹かせられるならその試合でぶっ壊すつもりで動かしていいぞ』
「頼むから寝てくれぇ!!!」
通信ウィンドウからおやっさんの声。一体いかなる魔改造をしたらそうなるんだ、という数字だった。試運転させろや!!!
あと無理をし過ぎなんだよな。なんというか精神がイっちゃってる感じなので、おおかた水薬で疲労をPON! したんだろうけど、あくまであれって緊急避難だからな。疲労回復力で睡眠に勝てるはずねぇだろ!
アンタらに倒れられると俺たちもオシマイなんだぞ。3時間でいいから仮眠をとってくれぇ~~~~~~!!!




