4-53 ティエスちゃんは帰宅する
「お~う、かえったぞぉ~~ぃ」
「どこの酔っぱらいの親父だよ」
へっ、こちとら一滴も飲んでないティエスちゃんだ。素面で悪かったな。アマリエルとの会談は円満に終わった。姫はなんか最後に色紙にサインもらってたな。ファンガールがよ。アマリエルもまんざらじゃない感じだったしさ。ダメージを受けたのは主に俺だけだった模様。でもこんなん誰にも共有できやしねぇ~~!
ホテルの部屋に帰った俺はエルヴィン少年に土産の寿司折を押し付けて、ばったりと布団へダイブする。くそぅ、今はこのふっかふかのお布団だけが俺を慰めてくれるぜぇ……。俺の脳みそはショート寸前だった。
「あーもう、何やってんだよ。制服がしわになるだろ!」
布団にうつ伏せて大の字になったまま動かない俺を見かねて、エルヴィン少年がてきぱきと俺から制服をはぎ取っていく。
エルヴィン君にされるがままにあっちへゴロリ、こっちへゴロリ。ワクワクさん今日は何作るの? 今日はね、ティッシュの空き箱でWiiFit作るよ。
そんないたってどうでもいい茶番を思い浮かべていたら、あっという間にタンクトップと下穿きだけの姿にさせられてしまった。いやん。
「しょうねーん、こいつは脱がさねーのか?」
うっふん。俺が挑発するも、エルヴィン少年はただただげんなりとしたジト目をくれた。なんだよぅ。
「アホ抜かせ。――ほら蒸しタオル。これで体くらいは拭いとけよな」
なんだこいつ気遣いの鬼か? 確かに今からシャワーする気にはなれなかったからすげぇありがたいんだけど、ホントに10歳なんだよな? エルフの血が混じってるから童顔に見えて実際は俺よりも年上とか言う可能性浮上してこない? どう思うエルフの忍者さん。
(ちゃんと10歳なのでご安心を。というか、バレていましたか)
俺が障子越しに窓の外へ目をやると、苦笑含みのテレパシーが返ってきた。なにわろとんねん。送信してきたやつの居場所はバッチリ特定済みである。中庭の木(樹高40メートルくらいある。メタセコイヤかよ)の上だ。いつでも殺せる。てか初日からずっといたよなお前。エルフ忍者も人手不足か?
あと、俺を誰だと思ってやがる。エルフの隠形は完璧すぎてわかりやすいんだよ。
(なかなか意味の分からないこと言いますね)
樹上からこちらを監視しているエルフ忍者は、けらけらと器用にテレパシーで笑う。なにわろとんねん。忍者としてのプライドはないのか?
(そりゃ、それなりには持ち合わせていたつもりですがね。こうもやすやす生殺与奪を握られちゃうと、プライドとか言ってられませんよ。いやはや、長老があなたと敵対せずに済んでよかった)
だからって忍者にしてはべらべらと口を回しすぎでは???
まあしかし、その判断は間違ってない。敵対してたらまずお前から血祭りにあげてただろうしな。例えばこのテレバスの強度をちょちょっと上げてやると……
(あががががががががががが)
まぁこういうコトもできるわけだ。
(あがが。ここでやる必要ありましたかね???? ナチュラルに頭おかしいんだよなぁ)
うるせー、のぞき魔に人権はねー。ほら、そろそろエルヴィン少年が怪訝な顔し始めてるから。ちょっとだけあっち向いてろ。体拭くから。
(あ、おかまいなく。一応これ仕事なんで勝手なことできませんし、私、人間では欲情しませんので。あなたも牛や豚の裸を見たって興奮しないでしょう?)
だいぶ問題発言では? まぁさすがの俺も牛や豚は守備範囲外だが、ケモ度2~4くらいの獣人なら顔がよけりゃあ十分イケるぞ。
(えぇ……?)ドン引き
器用にテレパシーで書き文字まで送ってくるな。だいたいおれがたまたま守備範囲外だっただけで、世の中にはリアルな獣にハッスルハッスルしちゃう奴なんてごまんといるだろうよ。
(王国民の業深すぎじゃないです?)
うるせぇなあ。俺はむくりと起き上がると、エルヴィン少年の持ってきた蒸しタオルをとって体を拭き始めた。ホッカホカで気持ちがいいぜぇ。窓には障子が嵌っているが、防諜には大して役に立たんだろうなぁ。
(●REC)
ふざけ倒してるエルフ忍者に、俺は気持ち強めの思念的EMPを送り込んでやった。今頃悶絶しすぎて木から落ちてるんじゃねーの? エルフも木から落ちるってか。いい気味だぜ。国際問題? いいんだよこれもパフォーマンスの一環だ。
俺は体を拭いているあいだじゅうエルフ忍者に妨害電波を送り続けて、拭き終わった後はパジャマに着替え、エルヴィン少年の淹れてくれたホットミルクを頂戴してからふかふかの布団に潜り込んで眠りについた。
眠りの淵に立って、ふと思う。今更だけど、エルフ忍者ってなんだ???




