4-52 ティエスちゃんはもう死んでいる
『さて、話を戻そう。君はどうやってこのミルナーヴァに来たかを覚えているかな?』
『えっこのまま進行すんの? 既にだいぶパニックなんだけど?』
『気にするな。私は気にしない』
俺が気にするんだよバカー! と憤慨するティエスちゃんだ。あまりの急な設定開示に食事も喉を通らないぜ。この肉うめぇなホント。
『そもそもな、どうやってここに来たかなんてのは俺が知りてーわ』
『もっともだ。デミウルゴスの巫女になってしまった私でさえ、ワールドゲートの原理は完全にはわからないからね』
うわぁーっ!! だから新しい気になりワードを出すんじゃねー! 気になるだろうが! 心はオトコノコなんだぞ!! よりによってデミウルゴスとか、頭グノーシスか??? 偽神じゃん!! ヤルダバオトじゃん! コンパクト3じゃん! 懐かしいなワンダースワン……
『質問が悪かったね。私が聞きたかったのは、方法ではなく契機だ。たとえば私の知り合いの話になってしまうが、そいつは神社の鳥居を抜けてここに来たといった。これも知り合いの話だが、そいつは車の運転中に陸橋の下を潜ったタイミングでこちらに来たという。そういう、何かしらの契機がなかったかというのを聞きたいわけだね』
ほーんなるほどそういう話ね。というかしれっと二人ばかり転移してきてるっぽいんだけどなんだろう、突っ込んだほうがいいのかなコレ。しかし契機ねぇ。思い当たる節がないでもないというか、十中八九アレだろうなぁ。
『たぶん死んだんだよ、俺。向こうでな。トラックだったかに跳ね飛ばされて』
そのまま華麗な空中3回転ひねりをキメ、頭から地面に着地したと思ったら、こっちで生を受けていたってワケ。
『だから俺の場合、転移じゃなくて転生なんだよな』
『フム……なるほど』
アマリエルはその形のいい顎をこねくり回しながら少し思案すると、ややあって「うん」と頷いた。何かしらの結論が出たらしい。アマリエルはビシッと俺を指さした。やめろよはしたない。
『ティエス・イセカイジン。君はもう死んでいる』
うわらば!
『じゃねーよ! 今は生きてるだろーが目ん玉ついてんのか!?』
何? 知らないうちに秘孔でも押された?? 突然キレのいい乗りツッコミを決めた俺に、リリィ姫が怯えたような目を向ける。ごめんね! 気でも狂ったのかってなるよね! 狂いそうだよ!!
『そのリアクション、実にナイスだね。ヨシモトのスターだって目指せてしまいそうだ』
『舐めてんじゃねぇ殺すぞ』
『おっと、怖い怖い』
けらけら笑っていたアマリエルにすごんでやると、アマリエルはおどけたように肩をすくめた。ちくしょー、俺の威圧がさっぱり効いてねぇ。くそー、ケンカしても勝てないとわかるのがつらい所さんだぜ。もっと暴力を磨かねぇとな……。
『真面目な話、君は魂だけの状態でワールドゲートを通って来たんだよ。物質の最小構成要素であるエーテルなら、網の目をかいくぐるようにゲートを抜けられたんだ。しかも抜けた先で、ちょうどいい具合に魂のない器まで見つかったんだから、いやはや、運が良かったね』
『車に轢かれて若いうちに死んだ人間の運がいいわけねーだろ』
ケッとふてくされたように吐き捨てると、アマリエルは些か意味深長に表情を引き締める。めったなこと言うもんじゃないよ、とでも言いたげな顔だ。
『幸運だとも。2度目の生なんてものは、普通は与えられないものだ。人間一人の魂がもつエーテル量なんて、世に満ちるそれと比べれば微々たるものに過ぎない。大海に一杯の盃に入った真水を垂らすようなものだよ。よっぽどでなければ、真水を真水のまますくい取ることはできない』
『そういうもんかね』
『そういうものだとも』
そういうもんらしい。しかし俺、転生者じゃなくて憑依系だったんだな……。
………………………………ま、俺が憑依したおかげでこうして八面六臂の大活躍をできてるわけだし、この体の本来の持ち主も喜んでるだろう、うん。俺は深く考えることをやめた。




